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第三章 4、真実
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私の一番古い記憶は、由紀子さんに声をかけられたときです。見所があるわ、と手を引かれました。私は、遠くで私を呼ぶお母さんのもとへ戻りたかったけれど、由紀子さんは、すぐに忘れるわと言って、私を連れ去りました。
暖炉のある家で、由紀子さんと暮らしました。
私は、絵本を読んだり、絵をかいたり、由紀子さんと「勉強」をしていました。勉強とは、身体のしくみを覚えることです。由紀子さんは、たくさん、本物の身体を持ってきてくれました。どれも息絶えたばかりで、腐敗はしていませんでした。
ある日、由紀子さんと家にいるとき、お客さんが来ました。若い男性でした。男性は由紀子さんと知り合いのようでした。
男性は、私に気づくと由紀子さんに詰め寄りました。詳しいことはわかりませんが、由紀子さんは男性に殺されて、男性は私に近づいてきました――それから、ぷつりと記憶が切れています。
次に覚えているのは、お父さんの親戚の家で暮らしている記憶です。
淡々と、抑揚のない声で話した。
まるで他人事のような口調だけれど、どうしても体の震えは止まらない。
唐突に体が傾いた。硬くて暖かいものにぶつかったと思ったら、心地よいぬくもりに包まれる。
先生が、私を抱きしめていた。
されるがまま、腕をだらりと垂らして、私はますます硬直する。
「きみには、つらい思いをさせた。母が、まさか少女を誘拐して、育てていたなんて想像さえしていなかったんだ」
「つらいことなんか、ありません。私、ずっと忘れてたんです。誘拐されたことを。だから、お父さんが海外赴任をしてるって、つい最近まで信じ込んでいました」
「今は、思い出したんだろう? すべてではないにせよ、今のきみが出来上がった経緯を、きみ自身は理解している。そのことは、つらくないのか」
「……わかりません。それが、普通だったから。当たり前だったことが、作られていたものだって、本当はどこかで感じてたんです。だから、やっぱりな、って気持ちもあって。それがつらいのか悲しいのか、よくわかりません。でも」
「でも?」
言おうとして、言葉がつまった。
暖炉のある家で、由紀子さんと暮らしました。
私は、絵本を読んだり、絵をかいたり、由紀子さんと「勉強」をしていました。勉強とは、身体のしくみを覚えることです。由紀子さんは、たくさん、本物の身体を持ってきてくれました。どれも息絶えたばかりで、腐敗はしていませんでした。
ある日、由紀子さんと家にいるとき、お客さんが来ました。若い男性でした。男性は由紀子さんと知り合いのようでした。
男性は、私に気づくと由紀子さんに詰め寄りました。詳しいことはわかりませんが、由紀子さんは男性に殺されて、男性は私に近づいてきました――それから、ぷつりと記憶が切れています。
次に覚えているのは、お父さんの親戚の家で暮らしている記憶です。
淡々と、抑揚のない声で話した。
まるで他人事のような口調だけれど、どうしても体の震えは止まらない。
唐突に体が傾いた。硬くて暖かいものにぶつかったと思ったら、心地よいぬくもりに包まれる。
先生が、私を抱きしめていた。
されるがまま、腕をだらりと垂らして、私はますます硬直する。
「きみには、つらい思いをさせた。母が、まさか少女を誘拐して、育てていたなんて想像さえしていなかったんだ」
「つらいことなんか、ありません。私、ずっと忘れてたんです。誘拐されたことを。だから、お父さんが海外赴任をしてるって、つい最近まで信じ込んでいました」
「今は、思い出したんだろう? すべてではないにせよ、今のきみが出来上がった経緯を、きみ自身は理解している。そのことは、つらくないのか」
「……わかりません。それが、普通だったから。当たり前だったことが、作られていたものだって、本当はどこかで感じてたんです。だから、やっぱりな、って気持ちもあって。それがつらいのか悲しいのか、よくわかりません。でも」
「でも?」
言おうとして、言葉がつまった。
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