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第三章 3、渡月は大体斜め上をいく

13、

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「きみは、ずっと一人暮らしなんだったか」
「はい。だからか、なんだか新鮮でした」
「……格好悪いところを見せることは、予想できた。だが、予想以上の恰好悪さだ」
「どの辺りがですか? 別に、先生のご家族さんにおかしなところはなかったですけど」
「私が、だ」
「え? 自分は格好いいって、以前言ってませんでした?」
「それは見た目の話だ。中身は別だろうっ、私から顔を取ったら何が残る? ただの、定職を持たない三十路男でしかない!」
「先生は先生です。私はどんな先生でも恰好いいと思いますし、好きですよ。嘘だと思うなら、顔を焼いてみますか?」
 首をかしげて提案すると、先生はぎょっとしたように一歩後ずさる。
「冗談ですよ、全力で引かないでください」
「きみがいうと、冗談に聞こえないんだ」
「気持ちは本気ですから」
 先生は憮然と黙り込むと、また、歩き始める。今日はもう、実家に帰るつもりはないらしい。
「私にも、プライドがある。祖父とはいえ、何もきみの前で、会社の入社試験に落ちただの、ふらふらしているだの、言わなくてもいいだろうに」
「人間らしいですね、ほかにもエピソードを聞かせてください」
「……過去の失態をべらべらしゃべるほど、私は馬鹿ではない」
「なんですか、自慢ですかっ!」
「いや、きみが怒る意味がわからない。どこに自慢があった」
「私なら、失敗したら挫けて引きこもってしまいます。なのに、俺は心が鋼なんだふっふー、みたいな、お前みたいな軟弱じゃないだへっへー、みたいな、人間だからここまでこれて当たり前だお前は木耳かはっはー、みたいな、そんなふうに言うなんてっ」
「言ってないが、まぁ、確かに間違いではない。そう考えると、先ほどのような醜態をさらしながらも、きみとこうして歩けている私は、なかなかできた人間だな」
「ほら、すぐに自慢するっ!」
「きみは一体、私に何を言わせたいんだ。慰めてくれてたんじゃないのか」
「え……慰めてほしいんですか?」
 先生が怒っていて、また、傷ついているのは察していたが、慰めてほしいと思っているとは思わなかった。
「どうしたらいいですか? 抱きしめたらいいですか?」
 両手をひろげて、飛び込んでおいでポーズをするが、先生は半眼で私を見たあと、あっさりと隣を通り過ぎていく。
「いらん。さっさとホテルへ行くぞ、チェックインできる時間だ」
 ふむ。
 また、何か対応を間違えたのかもしれない。
 けれど、先生の怒りが和らいでいるようなので、まぁ、よしとしよう。
***
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