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第三章 3、渡月は大体斜め上をいく

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 また、先生の知らない一面が見れた。どうやら先生は、おばあ様へもそうだが、おじい様へはとくに、遠慮がちであるらしい。
「でもなぁ、まどかちゃんが女の人連れてくるなんて、初めてやから。気になるん、しかたないよ」
 おばあ様がやんわりと間に入ってくれるけれど、おじい様は、まだ私を見ている。不信さが、瞳のなかで増していた。
「ほんまに、まどかを想っとるんか。顔でついてきたんちゃうか」
 露骨に棘が含まれ始めた。どうやら、おばあ様のやんわり言葉は、おじい様を止めたのではなく、煽ったらしい。
 目論見通りだと笑うおばあ様を視界にとらえて、苦笑した。女は強し、という言葉は、どこで聞いたのだったか。
「おじいさん、いい加減にしてください」
「まどか、なんで帰ってこい言うたか知っとるんか。お前に、見合い話があるんや。ええ話でな、相手さんはあの女の件もよう知っとる。知ってて、お前をぜひ婿にって言うてくれてるんや」
「相手くらい自分で選びます」
「そういうて、もう三十過ぎてる。仕事も、ふらふらとようわからん仕事しよって。お前は頭ええんね、あの女のことで落とされても、受け入れてくれる会社はどこかにある」
 先生の頬がかっと赤くなり、眉がつり上がった。
 母親の件を繰り返し口にされたからか、それとも、ふらふら仕事をしていると言われたことか。どちらにせよ、先生はプライドを傷つけられたようで、私が先生の怒りの理由を考える暇はなかった。
「つまり、私が気に入らないんですね」
 先生が何かを言う前に、声を荒げるように言葉を紡ぐ。怒鳴りつけるつもりだったのか、口をひらいた先生は、ぎょっとしたように私を見た。
 おじい様は険しい顔で、おばあ様はにこやかに、私を見る。
「だから、先生にそうやって八つ当たりされるんでしょう。不満は私に直接言ってください。そのうえで、先生が納得するようにお見合いの話をなさってください」
「なに様だ、あんたは。若い娘が、わしに説教たれるか」
「先生のことをあんなふうにおっしゃるなんて、誰であろうと関係ありません」
「見合いの話を出した途端、それか。まどかを手放すのが惜しいんだろう」
「――今日は、出直します」
 先生が会話に割り込み、強い口調で言い切ると、私の腕を引いて立ち上がる。
「行こう、鏑木くん」
「まどか、明日は見合いだぞ! 九時には戻ってこんね!」
「見合いなどしません」
 一気に玄関まで引っ張られて、靴を履く途中でやっと腕を離してもらえた。先生はもう振り返ることもせずに、ドアをくぐる。急いで靴を履いて、あとを追おうとした私に。
「また、来てな」
 おばあ様が、ゆったりとこちらへ歩きながら、言った。
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