上 下
104 / 128
第三章 3、渡月は大体斜め上をいく

7、

しおりを挟む
 おばあ様に促されて、会釈をしながら、先にコタツに入った先生の隣に座った。
「お久しぶりです、おじいさん」
 先生は、おばあ様のときよりも少しだけ、緊張を貼り付けた声音で言う。先生の表情を見ると、声音から想像できるような、強張った笑みを浮かべている。
 社交辞令とはまた違う、笑いたくないのに強引に笑おうとしているが失敗しているような、そんな笑みだ。
「おう。やっと顔を見せよったな。もっとはよ帰ってこんかい」
「すみません」
「わしらも、長ごうないからの」
「もう、おじいさん。わしら、あと百年は生きるさかい、そういうこと言うのやめとき」
「あほう。そんなに生きたら、バケモンなっちまうわ」
「もうなっとるよ、これ以上は一緒やね」
 おばあ様はまた、豪快に笑う。
 こんなふうに高齢者が笑う姿は、とても心地が良い。おじい様は少し怖そうなかただけれど、先生を見る目は、優しかった。
 これが「家族」なのだろうか。
 こんな、居心地の悪い空間は、久しぶりだった。高校時代、みんなから疎外されるのを知っていて、教室に入るときのような気分。
 身内である先生は、どんなふうに感じているのだろう。先生は微妙な表情――作り笑顔――で、老夫婦の会話に相槌を打っていた。
「ばあさん、茶」
 おじい様がおばあ様に、湯のみを突き出す。おばあ様は、あっ、と声をあげた。
「あらあら、わし、茶も出さんで。用意するわな。よいしょ、っと」
 机に手をついて、おばあ様がゆっくりと立ち上がる。咄嗟に、私も立ち上がっていた。いつこけてもよいようにと、おばあ様の隣に構えてしまう。だが、おばあ様は安定した姿勢で立ち上がり、私に微笑みかけた。
 思わず、補助に回ってしまった自分が恥ずかしくなる。
「手伝ってくれんね?」
「あ、はい、ぜひ」
 おばあ様と一緒に、ダイニングキッチンへ向かう。私たちが――おもに、おばあ様だが――が、離れた途端に、コタツは沈黙に包まれた。
 なんとなくだが、先生、居づらくないかな、と余計な心配をしてしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

神様の住まう街

あさの紅茶
キャラ文芸
花屋で働く望月葵《もちづきあおい》。 彼氏との久しぶりのデートでケンカをして、山奥に置き去りにされてしまった。 真っ暗で行き場をなくした葵の前に、神社が現れ…… 葵と神様の、ちょっと不思議で優しい出会いのお話です。ゆっくりと時間をかけて、いろんな神様に出会っていきます。そしてついに、葵の他にも神様が見える人と出会い―― ※日本神話の神様と似たようなお名前が出てきますが、まったく関係ありません。お名前お借りしたりもじったりしております。神様ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ

まみ夜
キャラ文芸
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻(ホラー風味)は現在、更新休止中です。 続きが気になる方は、お気に入り登録をされると再開が通知されて便利かと思います。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)

処理中です...