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第三章 3、渡月は大体斜め上をいく

6、

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「私たち、どうしたらいいんでしょうか」
「やはり、何か面倒なことをさせるつもりだったようだな」
 家族会議らしきものは、一向に終わる気配がない。どうしたものか、と先生を仰ぎ見ようとしたとき。
「いらっしゃい、まどかちゃん」
 背後から、やんわりと声がかかる。毛布でくるまれたような柔らかさの声音のぬしは、小柄な老婆だった。振り向いた先生の表情が、かすかに和らぐ。
「お久しぶりです、おばあさん」
「ほんま、せわしないねぇ、あの子たちは。まどかちゃんたちを、寒い中立たせて。こっちへこんね。離れでゆっくりするとええ」
 歩き出す老婆に、先生がついていく。私はちらりと会議を続ける家族らを見たあと、先生の隣へ駆け寄った。
 石畳が伸びる庭を横切り、母屋の裏手へやってくる。
 そこには、新しい住宅街でよく見かける、似たり寄ったりの見目をした一戸建てがあった。ここだけ近代の香りがする。
「建て直してから、随分と暮らしやすいんよ。ばりあふりーっていうのは、ええねぇ」
「よかったです。おじいさんも、お元気ですか」
「なかにおるよ。寒いゆうて、コタツに潜っとるわ」
 おばあ様はそう言って、小柄な体躯で豪快に笑う。
 その姿は、私は見てきた特別養護老人ホームにいる人々とは、違う生き物のように思えた。年齢は、入所している方々と大差ないだろうに。なぜこうも、明るく、力強いのか。
 特養で出会った山中さんの姿は、今にも消えてしまいそうだった。懸命に命を真っ当する、蛍の光のようだった。けれど、先生のおばあ様は、もっと力強い。うまい例えが見つからないのが、もどかしい。
 案内されたのは、リビングだった。ダイニングキッチンが併設されており、床はフローリング。リビングの真ん中に絨毯を敷き、その上に、やたらと年季の入ったコタツがあった。コタツから見える範囲にソファやテレビもある。
 ふわり、と息苦しくない程度の熱が、リビングに満ちていた。一歩リビングに入ると、入り口からは見えなかった場所に石油ストーブがあった。
 懐かしい見た目の、着火式石油ストーブだ。独特の匂いとともに部屋を暖めている。
「おかえり、まどか」
 こたつに、むくむくと着ぶくれした老人がいた。しわだらけの手を、先生に向けて小さくあげている。笑みは殆どないが、声には親しみが込められているような気がした。
「まぁ、入りなさいな。お嬢さんも、ほら」
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