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第三章 2、須藤先生は、我儘だ 

4、

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 自動販売機の並ぶ廊下を過ぎると、インフォメーションセンターやフードコートと食券売り場、土産物屋、簡易な屋台などがある。
 そのなかでも、コンビニのような風体の一郭で、先生はお茶とサンドイッチを手に取った。
「きみはどれにする?」
「私もサンドイッチでお願いします」
「好きなものを選べ、上限は千八十円だ」
 そんな高価なサンドイッチは、ここにはない。具体的な金額を出すことで、私が遠慮せずにどれでも選べるように気遣ってくれているのだろう。優しい人だ、口は悪いけれど。
「じゃあ、えっと、これがいいです」
 たまごとハム、そこへアボカドの入った手作りサンドを選ぶ。先生はそれをひょいと取り、レジへ向かった。
 その後ろをついていこうとしたとき。
「あの人カッコイイねー」
 と、女性の黄色い声がした。ばっちりメイクをした女性が二人、先生を見つめている。
「声かけちゃう?」
「やだぁ緊張するー」
 一瞬だけ足を止めたせいで、先生はレジの列に並んでしまった。今から傍に行っても、通路の妨害にしかならないだろう。
 先生には申し訳ないけれど、店を出たところで待たせてもらおう。
 私は、コンビニ風の一郭を出て、人が多いフードコートを通り過ぎ、自販機が並ぶ廊下へ出た。だが、予想に反して、先ほどよりも自販機を使っている人が多い。
 結局、トイレのほうへ出て、白い息を吐きながら外で待つことにした。先生にはメールで連絡しておく。
「寒いね」
 すぐ近くで、誰かが言った。
「あれ、音楽でも聴いてるの?」
「……私?」
 顔をあげると、青年が私を見ていた。明るい髪色をした、人懐っこい笑みを浮かべた青年で、厚手のもこもこしたジャケットを着ている。
「そそ。誰か待ってるんでしょ? ここ寒いのに、なんで中で待たないのさ。きみ、ずっとここで待ってるじゃん。さっき通りかかったときも、ここに立ってたし」
 目をぱちくりさせたが、青年の一言に、ああ、と納得した。途端に、笑みがこぼれる。
「さっきもいましたが、ずっといるわけじゃないですよ。一度なかで買い物をして、またここへ来たんです。どうも、人が多いのが苦手で」
「あれ、そうなの? なんだ、てっきりずっといるのかと思った」
 青年は、ほっとしたように苦笑したあと、頭をがりがりと掻いた。
「鏑木くん!」
 先生の、露骨に怒りのこもった声音が聞こえて、視線を向ける。私が振り向いたことで、青年も一緒に振り返った。
 先生は両脇に先ほどの女性二人を引き連れて、こちらへ歩いてくる。
 なぜか、怒っている。
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