87 / 128
第三章 1、最後の期間
4、
しおりを挟む
「すみません。一月の末で、バイトを辞めます」
「それはもう聞いた! まったく」
心なしかやや乱暴に片づけを始める先生を眺めながら、先日、先生のアトリエの郵便受けに届いていた手紙を思い出していた。
以前、先生の執務机に茶封筒が置いてあったことがある。消印も住所もなく、明らかに何者かが侵入して置いたものだった。同封されていた私の幼いころの写真も含めて、一枚ずつライターであぶって捨てた。
それから一か月ほど経ったころ。
その手紙は、届いたのだ。
やはり消印も住所もない、茶封筒だった。分厚さはほとんどなく、宛名は私になっていた。私が先生のアトリエで寝泊まりしていることを知っている者は、知り合いにはいないはずなのに、だ。
不審に思いながら――いや、恐怖で震えながら、私はその手紙を開いた。
なかに入っていたのは、一枚の手紙。
――「信じているよ」
と。
それだけ、印字されていた。その手紙を受けった翌日から、お父さんからの電話が途絶えた。あれは警告だ。
私は、手紙を受け取ったあと、一週間考え抜いて、お父さんにメールを送った。二月から、心機一転、心を入れ替えて学業を頑張ります、と。
一見差しさわりのない文章で、その真意を読み取ることは難しいだろう。
それでも、あの手紙の主が――先生宛の茶封筒の送り主が、お父さんならば、十分通じるはずだ。お父さんからの連絡は、変わらずない。手紙のたぐいもあれ以降、見かけていなかった。
先生とこうしておしゃべりするのは、二月の末まで。それで終わり。
私はまた、これまで通りの私に戻る。
すっかり慣れてしまった休憩室の片付けや夕食づくりをして、一緒にご飯を食べる。食事中の先生は、よくしゃべるか無口かの極端な二択で、今日は後者の日だった。
片付けや雑務を済ませて、二階の借りている部屋へ向かった。
確認のために、隣の部屋に新しい茶封筒がないか、異変はないかと、確認をする。何もないことを確かめると、部屋に鞄を置いて、みこちゃんから貰った袋を取り出した。
一体なんだろう。
確かに、誕生日でもないし、もらう理由がない。
開けてみよう、と決心した、まさに瞬間。
聞きなれた着信音が、鳴った。この音は、お父さんだ。
「それはもう聞いた! まったく」
心なしかやや乱暴に片づけを始める先生を眺めながら、先日、先生のアトリエの郵便受けに届いていた手紙を思い出していた。
以前、先生の執務机に茶封筒が置いてあったことがある。消印も住所もなく、明らかに何者かが侵入して置いたものだった。同封されていた私の幼いころの写真も含めて、一枚ずつライターであぶって捨てた。
それから一か月ほど経ったころ。
その手紙は、届いたのだ。
やはり消印も住所もない、茶封筒だった。分厚さはほとんどなく、宛名は私になっていた。私が先生のアトリエで寝泊まりしていることを知っている者は、知り合いにはいないはずなのに、だ。
不審に思いながら――いや、恐怖で震えながら、私はその手紙を開いた。
なかに入っていたのは、一枚の手紙。
――「信じているよ」
と。
それだけ、印字されていた。その手紙を受けった翌日から、お父さんからの電話が途絶えた。あれは警告だ。
私は、手紙を受け取ったあと、一週間考え抜いて、お父さんにメールを送った。二月から、心機一転、心を入れ替えて学業を頑張ります、と。
一見差しさわりのない文章で、その真意を読み取ることは難しいだろう。
それでも、あの手紙の主が――先生宛の茶封筒の送り主が、お父さんならば、十分通じるはずだ。お父さんからの連絡は、変わらずない。手紙のたぐいもあれ以降、見かけていなかった。
先生とこうしておしゃべりするのは、二月の末まで。それで終わり。
私はまた、これまで通りの私に戻る。
すっかり慣れてしまった休憩室の片付けや夕食づくりをして、一緒にご飯を食べる。食事中の先生は、よくしゃべるか無口かの極端な二択で、今日は後者の日だった。
片付けや雑務を済ませて、二階の借りている部屋へ向かった。
確認のために、隣の部屋に新しい茶封筒がないか、異変はないかと、確認をする。何もないことを確かめると、部屋に鞄を置いて、みこちゃんから貰った袋を取り出した。
一体なんだろう。
確かに、誕生日でもないし、もらう理由がない。
開けてみよう、と決心した、まさに瞬間。
聞きなれた着信音が、鳴った。この音は、お父さんだ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる