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第三章 1、最後の期間
2、
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「随分と、顔がたるんでいるな」
一言目の言葉に、私はとっさに両手を頬にあてた。
「太りましたか」
「そうじゃない。……いや、言葉が間違っていた。表情が緩んでいるな、だ。いいことでもあったようだな」
「はい! 友達が、プレゼントをくれたんです」
いつも通り、作業場でアクセサリーの制作に打ち込んでいた先生は、私には到底、どうやって制作したのかわからない立体物を、レジン硬化のためのライトの下に置いた。
大き目のピルケースのような、アルミ色をした箱だった。箱をもとにして、レジンで作ったパーツを固定しているようだが、一時期流行ったデコとはまた違う。水晶のような透明度の鉱石レジンや、湖を彷彿とさせる波紋レジン、それらを使って、箱の蓋に一つの世界を描いている。
私の好きなテーマだった。
幻想的で、魔法ちっく。中二病的だが、先生が作っている作品はとても純粋で神聖なものにも見えた。一般受けも十分するだろう。
わぁ、と作品を休憩室から見た私だったが、先生が奇異な目でこちらを見ていることに気づいて、首を傾げた。
「何か?」
「もしや、誕生日なのか」
「いいえ、違いますけど」
「ならばなぜプレゼントなど貰う?」
「さぁ」
「……盗聴器でも入ってるんじゃないか」
「物騒なこと言わないでください。みこちゃんは、そんな子じゃありません」
「きみから、物騒なことを言うなと言われるとは、意外というよりも心外だな」
先生はレジンの硬化具合を、隣に並べた時計と見比べながら、座っていた椅子をこちらに向けた。
「ところで、鏑木くん。君は今日から長期休暇らしいが、何か予定はあるのか」
「いいえ、とくには。先生のところの、バイトくらいです。時間もたっぷりなので、精一杯頑張りますよ。クリスマスに向けて、忙しいときですもんね」
「そのことなんだが、明日から年始まで、実家に帰ることになったんだ」
先生は、そう言って、また、ちらっと時計を見た。
実家に帰る。ということは、私はバイトにこなくてもいいということだ。だが、私は今、先生のアトリエに間借りしている。
「……つまり、明日から私」
元のマンションに戻ればいいんですね、という言葉が喉につっかえて、途切れた。
かなり残念だが、他に選択肢はないだろう。家主が不在のときに、ここに居座ることはさすがに出来ない。貴重品も多く、先生の作品の管理までは私には荷が重いだろう。バイトというよりも手伝いとして、たまに来てメールチェックをするのが精々私にできることだ。
一言目の言葉に、私はとっさに両手を頬にあてた。
「太りましたか」
「そうじゃない。……いや、言葉が間違っていた。表情が緩んでいるな、だ。いいことでもあったようだな」
「はい! 友達が、プレゼントをくれたんです」
いつも通り、作業場でアクセサリーの制作に打ち込んでいた先生は、私には到底、どうやって制作したのかわからない立体物を、レジン硬化のためのライトの下に置いた。
大き目のピルケースのような、アルミ色をした箱だった。箱をもとにして、レジンで作ったパーツを固定しているようだが、一時期流行ったデコとはまた違う。水晶のような透明度の鉱石レジンや、湖を彷彿とさせる波紋レジン、それらを使って、箱の蓋に一つの世界を描いている。
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わぁ、と作品を休憩室から見た私だったが、先生が奇異な目でこちらを見ていることに気づいて、首を傾げた。
「何か?」
「もしや、誕生日なのか」
「いいえ、違いますけど」
「ならばなぜプレゼントなど貰う?」
「さぁ」
「……盗聴器でも入ってるんじゃないか」
「物騒なこと言わないでください。みこちゃんは、そんな子じゃありません」
「きみから、物騒なことを言うなと言われるとは、意外というよりも心外だな」
先生はレジンの硬化具合を、隣に並べた時計と見比べながら、座っていた椅子をこちらに向けた。
「ところで、鏑木くん。君は今日から長期休暇らしいが、何か予定はあるのか」
「いいえ、とくには。先生のところの、バイトくらいです。時間もたっぷりなので、精一杯頑張りますよ。クリスマスに向けて、忙しいときですもんね」
「そのことなんだが、明日から年始まで、実家に帰ることになったんだ」
先生は、そう言って、また、ちらっと時計を見た。
実家に帰る。ということは、私はバイトにこなくてもいいということだ。だが、私は今、先生のアトリエに間借りしている。
「……つまり、明日から私」
元のマンションに戻ればいいんですね、という言葉が喉につっかえて、途切れた。
かなり残念だが、他に選択肢はないだろう。家主が不在のときに、ここに居座ることはさすがに出来ない。貴重品も多く、先生の作品の管理までは私には荷が重いだろう。バイトというよりも手伝いとして、たまに来てメールチェックをするのが精々私にできることだ。
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