上 下
83 / 128
第二章 6、渡月は試される

6、

しおりを挟む
「作っていないと落ちつかなかった。きみをイメージして作ったのだから、他に使うこともできない。せっかくだから、やろうと思っただけだ」
「先生って、可愛い人だったんですね」
「は?」
 心底気分を害したといったような、半眼で見据えられる。
「可愛いなどと、男に言うものではない。大体、可愛いというのなら――」
 じぃ、と見つめられて、首を傾げた。
「私のほうが可愛い、ですか?」
「言っていない!」
 顔をそらすが、先生の頬は先ほどよりも赤い。
 なんだか、胸の奥がむずむずする。もっと近くで先生に触れたい衝動に駆られて、手を伸ばす。けれど、伸ばした手を握り締めて、引き戻した。
 嬉しい気持ちを沢山知ると、離れがたくなってしまう。
「もし」
 明後日の方向を向いたまま、先生が口をひらいた。
「なかの花が劣化したら、新しいものを作ろう。何度でも作り直す。同じものは作れないだろうが、劣化したからといって、壊れたからといって、終わりではない。次は、もっと気に入らせてみせる」
 ふ、と先生が微笑を浮かべて、振り向いた。
「花は永遠ではないが、また、新しい花が咲く。そういった意味では、終わりなどない」
 新しい花。世代は続いて、時間は流れていく。
 ふっ、と想像する。
 竹中さんが暮らしていたであろう家や家族を。竹中さんの言葉を私が貰ったように、彼女はたくさんの人と関わって、人生を歩んできた。懸命に生きて、世代を繋いできた人。
 ネックレスにそっと触れた。
 こんなに可愛いネックレスは、きっと、私には不釣り合いだ。でも、先生の目に私がこんなに可愛く映っているのなら、とても嬉しい。
 私を、こんなふうに見てくれる。
「先生、ありがとうございます。大切にします」
 頭をさげると、私の頭に、ごつごつと男らしい手が、ポンポンと置かれた。
 このまま、先生と過ごしたい。これからも、ずっと。ずっと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...