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第二章 6、渡月は試される

5、

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 私自身を見てくれたこの人と、一緒にいさせてください。
「わかった。……ああ、そうだ」
 先生が離れていく寂しさに、とっさに服を引っ張った。先生が苦笑して振り向いたので、慌てて手を放す。
 先生は一階に降りかけたが、「ポケットにいれたんだ」と一人ゴチて、戻ってきた。ポケットから小瓶がトップになった、ゴールド色のネックレスを取り出した。先生は私の前に片膝をついて座ると、ネックレスを首につけてくれる。
「これは」
「きみに」
 小瓶のなかには、先日見た花材が使われていた。ハーバリウムというやつで、花材やガラス粒を入れた小瓶に、専用のオイルを入れたものだ。なかのオイルを八分目ほどにすることで、ゆらゆらとオイルが揺れて、なかの花材も揺れるのが可愛い。
「ピンクのアジサイをメインに、蓄光のガラス片や粒ガラス、オーロラ色のフォログラム、を入れた。きみに、よく似合う……色に、したつもりだ」
「可愛いですね、すごく」
 私は、こんなに可愛くなどないのに。
「気に入らないか?」
「え、そんな、とんでもない! でも、どうして突然。誕生日でもないですよ?」
 先生は、ぐ、と唸った。喉を鳴らす猫が憮然としたような、奇妙な顔をしている。
「……きみの在学期間は、二年だ。そして、一段階実習が始まった」
「はい」
「二年などあっという間で、きみは、社会にでる」
「そうなると思います」
「私のもとから、去っていくだろう」
 きょとん、としてしまった。それも露骨に。
 先生もまた、かなり露骨に、咳ばらいを始める。ほんのりと頬が赤い。
「わからないんだ。きみがいなくなると思うと、そわそわして、仕事も手につかない。一段階実習でこれだけつらいのだから、この先、いつ私のもとから消えるとも知れないだろうし、もしかしたらそれは、明日かもしれない。そう思うと、なんだ、落ち着かないというか」
 なんだろう、この人は。
 大人で、ちょっと口が悪いけれど、とても優しくて、そして、びっくりするくらい真っ直ぐな人なのだ。
 こんなに可愛い男の人が、世の中に存在するなんて。
「……つまり、だから、このネックレスをくれたんですか」
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