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第二章 5、渡月は望まぬ己を知る

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「永遠なわけがないだろう。長持ちはするがな」
「そうなんですか? あれ、じゃあ、結婚式のプレゼントに、とかの売り文句で売ってるプリザーブドフラワーって」
「当然、月日がたてば劣化する」
 先生は段ボール箱からカスミソウを一枝取り出して、指先で起用にくるくると回した。
「形あるものは、いつか壊れる。その法則が成り立たないものは存在しない。だからこそ、美しいんだ。溶けないアイスは美味くない、あつあつではないおでんは物足りない、炭酸の抜けた炭酸飲料は損をした気分になる、のとよく似ているな」
「……最後のほうの例えがよくわかりません」
「とにかく、保存状態にもよるが、ドライフラワーだろうがプリザーブドフラワーだろうが、劣化していくことに変わりはない。それを知らない者も多くて、永遠に使えるなどとうたう奴もいるから注意だ」
「どれも、最後には枯れてしまうんですね。まるで、人生みたい」
「花を人の一生に例える者は多い。安直な意見だな」
「私は、今どのあたりでしょうか。花でいうと、開き始めたくらいかな」
「だろうな」
「先生も、同じくらいですか?」
「……歳の差を考えろ。もう開いているだろう、私は」
「長い年月で見ると、大差ないですよきっと。五十歳くらいのサラリーマンが、開ききった花くらいじゃないですか?」
「働き盛りか。なるほどな」
 昼間見た、ベッドに一人ちょこんと座っていたおばあさんの姿を思い出す。
 隣から、笑い下手な笑い声が聞こえてきた。何が楽しいのか笑っている先生に、笑い下手な件を本日もつっこまず、質問を投げかけた。
「先生は、老人ホームにいる高齢者さんって、花でいうと、どの辺りだと思いますか?」
 きょとん、と目を瞬いた先生だったが、やや考えたのち、指でつまんでいたカスミソウを私の前に突き出した。
「まさに、これだ」
「これ、ですか」
「枯れてもおかしくはない時だろうに、美しさを保っているという意味だ。プリザーブドフラワーを作るとき、強引にシリカゲルやレンジで乾燥させる場合もある。強烈な負荷が、花にはかかるだろうが、結果として美しい花材が出来上がる。過程はどうあれ、老人ホームに集まった人々は、このような美しさを保っている人たちだ――と、認識している。あくまで、イメージでしかないがな。老人ホームなど、行ったこともないから」
 先生の言葉は、私のなかで、漠然としていた気持ちを形づけるものだった。
 そうだ、美しいのだ。
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