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第二章 5、渡月は望まぬ己を知る

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 月曜日は気が滅入る、と言っていた加納さんの言葉を、私は初めて実感した。
 今週もあと四日、実習が残っているなんて。
 コミュニケーションは、今日から行くことになったユニットでは、ほぼほぼ成り立つ。むしろ、会話を楽しみにしてくれる高齢者の方もいて、昔話を聞かせてくれたりと、ゆったりした時間を過ごすこともできた。
 アトリエへ帰ると、やはり今日も、先生は作業場で何かを作っていた。委託販売や卸し先へは、土日に私が発送準備をしておいたので、今日のうちに先生が発送してくれているはず――うん、荷物がなくなっている。
「ああ、帰ったのか。おかえり」
「ただいま帰りました。ごはん、作りますね」
「無理はするなよ」
「大丈夫、今日はまだ元気なんです」
 台所で、早炊きでご飯を炊いて、昨日買っておいたほうれん草とベーコンのマヨネーズ焼きを作り、剥きエビでエビマヨを作る。あとは、豆腐と砂糖で作った白和えを添えて、ワンプレートにした。
 ちなみに、泊めてもらう間の家賃と食費は、給料から天引きという話で片が付いている。ゆえに、私は安心してご相伴にありつけるというわけだ。
 休憩室のちゃぶ台に、ご飯を並べていく。先生の分だけを作りおくときは台所へ置いておくのだが、一緒に食べるとき、休憩室へ運ぶようにしていた。
「できましたよ」
 声をかけると、先生は「ああ」と言って、手を布で拭うとすぐにやってきた。
「きみは、料理がうまいな」
「一人暮らし歴が長いですから」
「その理屈だと、私も上達するはずなんだがな」
 ふむ、と考える先生の表情からは、疲労が引いている。少なくとも、身体的な疲労は解消されたようだ。気分はまだ、好調には至らないようで、少しだけ目がぼんやりとしていた。
 もくもくと夕食を食べ終えると、先生はまた、作業場へ戻っていく。
「まだかかるんですか?」
「いや、片付けるだけだ。注文していた資材が、夕方に届いてな。例の女の子へのオーダー用に使う資材だ」
「どんな資材を使うんですか?」
 興味をそそられた私に、先生が苦笑する。
「見るか?」
「はい」
「きみの好みからは、離れているかもしれないが」
 資材置き場から、手のひらほどの大きさの段ボール箱を取り出すと、先生はそれを持って休憩室の淵に座っていた私の隣にどかっと座った。
 肩が触れる距離だが、もっとよく見えるようにと、先生は箱を私の近くへ寄せてくれる。
 段ボール箱のなかには、花が入っていた。ピンクと白のアジサイ、それからカスミソウだ。いわゆる花材というやつで、ハンドメイド作品にはポピュラーな資材でもある。
「綺麗ですね。これ、プリザーブドフラワーってやつでしょ?」
「ああ。さすがによく知ってるな」
「ドライフラワーと同じで、永遠に持つ花だとか」
 調子に乗って続けた私に、先生は軽く笑った。
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