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第二章 4、渡月とお父さん

4、

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「先生のお母さんも、誰かに、殺されたんですよね」
「ああ。犯人はまだ捕まっていないらしい」
 ぞくり、と肌を駆け上ってくる悪寒に、呼吸をつめた。きゅっと心臓が縮まって、鳥肌が止まらなくなる。
「顔色が悪いぞ」
「……寒いからです」
「気持ちの悪い話をしたな。悪かった」
「え?」
 なんのことか分かりかねていると、母のことだと先生は言う。私から聞いたのに、この人は何を言っているんだろうとぼんやり考えて、私の質問は先生にとって答えるのが苦しい部類のものであったことに気づいた。
「私、自分のことばかりですね」
「なにがだ。きみは言葉が極端に足りないときがある」
「知りたいあまり、先生の気持ちを考えていませんでした」
 ふと、先生が笑う。たんぽぽの綿毛を想像するような、柔らかい笑みに、胸が先ほどとは違う意味でぎゅっとなる。
「一つ目、私に母を聞いてきたきみのほうが、辛そうだった。二つ目、きみは自分の感情を押し付けることをしない」
「はい?」
「だから、そのままでいい」
 今度こそ、先生が何を言いたいのかわからなかった。なのに、なぜか泣きそうになって、口をぎゅっと閉じる。駄目だ、このままでは泣いてしまう。目頭が熱い。高校時代に、乾ききった涙は、心をも枯らしてしまったと思っていた。最近、また気持ちや生活が潤ってきたせいか、涙も復活したみたいだ。
「なんだ、泣き虫か」
「違いますっ」
 茶化されて、顔を隠すために布団にもぐりこんだ。慌てた先生の気配がするが、知ったことか。
 先生が小さく何かを罵っているのを遠くで聞く。布団のなかの暖かさが涙を倍増させて、どうして先生はこんなに暖かいのだろうと不思議に思った。
「……だが、あえていうのなら」
 こほん、と露骨な咳払いののち、先生は言う。
「ふとした言葉で相手を傷つけることもあるだろう。きみは常々よく考えて発言している。十分に思いやりのある行為だ。相手のためと、自分のためにな」
 布団のなかで、先生の声に耳を澄ませる。なんだか聞くのが怖いような気がした。先生は、私を否定する人ではないとわかっているのに。
 アドバイスがアドバイスとして受け止められなくなったのは、いつからだろう。どんな言葉も、私自身を否定するものとして受け止めるようになった。そして、否定されないために他者を遠ざけた。誰とも関わらなければ、傷つくことなどないのだから。
「だが、考えないことが悪いというわけではない。何気ない言葉が相手を救う場合もある。それらを踏まえたうえで、踏み込むのもまた、一つの関わり方だろう」
「よくわかりません」
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