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第二章 4、渡月とお父さん

3、

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 記憶の底にいる、私に「見所がある」と言った美女。あの人と、よく似ているのだ。すべてではないが、目や鼻のカタチに、笑ったときの唇のつり上げ方など。
 吸い寄せられるように、先生の傍にしゃがむ。
 何も言わないまま、じっと見つめ続けた。視線が痛かったのか、しばらくして先生が唸り、うっすらと目を開く。
 寝ぼけ眼が、私の姿を捉えると徐々に見開かれていく。
「きみ、その恰好――」
「先生のお母さんって、どんな人だったの?」
 起き上がろうとした先生の動きが、止まる。私を凝視したのち、深くため息をついた。
「なんだ、夜這いじゃないのか」
「先生」
「私でなかったら、据え膳されてたぞ」
「……ごめんなさい」
 ふぅ、ともう一度ため息をつくと、先生はごろんと布団に寝転がった。
「母は、仕事熱心な人だった」
 話してくれるんだ、と顔をあげた私を見て、先生が笑う。優しい笑顔だ。あの女の人の笑顔は、偽物だったのに。先生の笑顔は、とても暖かい。
「大学で、犯罪心理学を研究していた。美しい人だったが、家事はほとんどしなくてな。父が交通事故で死んでからは、食事はいつも弁当やパン、カップ麺だったな。とにかく、仕事に一途な人だ。……だが、私は母が、怖かった。ふとしたときに見せる笑みや、突然独り言を呟く辺りなど、見るたびにぞっとした」
 先生の表情は、無表情に近いが、微かな嫌悪が見て取れた。当時のことを思い出しているのか、視線はぼんやりと宙を見ている。
「母は、殺人鬼だ」
 先生の声は、きっぱりとしていた。軽蔑の色が、ありがりと浮かんでいる。
「命の尊さを持たない人だった。犯罪者の心理を研究し、表向きは犯罪者を生まないために貢献していたようだが。……犯罪行為そのものに興味を惹かれていたように見えた。とある犯罪を見て、効率が悪いだの自分ならこうするだの、そういった独り言を何度も聞いた」
「そうなんですね」
 もしも、電話で毎朝お父さんがそんなことを言ってきたら、怖いかもしれない。いや、絶対に怖い。
「そんな母が蒸発して、私は父方の実家に引き取られたから、そのあとは知らない。ただ、祖父母は心から安堵していた。母をよく思っておらず、父は脅されていただの、死んだのも事故ではなく殺されただの。そのときは、あいまいな返事を返していたが、実際はそうかもしれないとも思っていた。そして、母が遺体で見つかって。あれよという間に、母が殺人鬼だったことが世間に発表された。……あまりに常軌を逸していたため、世間は父や私を被害者扱いしたのは、まだ私にとっては幸いだっただろう」
「でも」
 先生が、私を見る。
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