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第二章 1、渡月は、認めたくない
4、
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私は、この人に会ったことがある。それもおそらく――小学校に、入学する前に。
頭を押さえて、首をふる。
私は、この人に会って話をしているのに、思い出せない。詳しく記憶をたどろうとすると、途端に頭痛が押し寄せて、記憶の浮上を拒んだ。
何気なく机に手を置くと、かさりと紙が触れた。無意識に視線を落とす。写真の女の人の顔が乗った雑誌の切り抜きだった。目が、文字を捉えてしまう。
――凶悪殺人犯、殺害
――数十名を殺害した日本の切り裂きジャックは、何者かによって殺害された
――殺害された殺人犯の名前は、須藤由紀子
ひゅっ、と喉がなる。
その瞬間、目の前が真っ白になり、私の意識は遠い過去へと戻っていた。
脳裏に暖炉の家が見えた。サンタクロースがきそうな、ログハウスだ。そこで、美しい女性が、見知らぬ青年と喧嘩をしている。
そして。私に、青年の手が伸びてきて――。
「何をしてるんだ」
我に返った私は、その場でへたり込んだ。一瞬にして記憶は霧散し、私は何事もなかったかのように、記憶へ鍵をかける。
大丈夫。
だって、気のせいに決まっている。私の勝手な思い込みに過ぎない。いつだってマイナス思考になって、不安ばかり抱えてしまうのは、私のよくないところだ。
「ああ……これか」
すぐ傍で、先生がしゃがみこんで私の手から写真を取り上げた。
「母だ」
「え」
「母だった、と言ったほうがいいか」
先生は散らばった雑誌の切り抜きや新聞記事、写真をまとめると封筒にしまった。へたり込んだ私の前に胡坐をかいて座り、正面から向かい合う。
「父が事故で死んでからは、母と二人で暮らしていた。その母は、私が高校を卒業する目前で失踪した。私は父方の実家に引き取られたんだ」
先生は、雑誌の切り抜きを手に取って、ぴらりと私に見せた。
「次に母を見たのは、テレビでだ。母は、多くの人間を殺した殺人鬼だと報じられ、そしてその母もまた、何者かに殺された」
頭を押さえて、首をふる。
私は、この人に会って話をしているのに、思い出せない。詳しく記憶をたどろうとすると、途端に頭痛が押し寄せて、記憶の浮上を拒んだ。
何気なく机に手を置くと、かさりと紙が触れた。無意識に視線を落とす。写真の女の人の顔が乗った雑誌の切り抜きだった。目が、文字を捉えてしまう。
――凶悪殺人犯、殺害
――数十名を殺害した日本の切り裂きジャックは、何者かによって殺害された
――殺害された殺人犯の名前は、須藤由紀子
ひゅっ、と喉がなる。
その瞬間、目の前が真っ白になり、私の意識は遠い過去へと戻っていた。
脳裏に暖炉の家が見えた。サンタクロースがきそうな、ログハウスだ。そこで、美しい女性が、見知らぬ青年と喧嘩をしている。
そして。私に、青年の手が伸びてきて――。
「何をしてるんだ」
我に返った私は、その場でへたり込んだ。一瞬にして記憶は霧散し、私は何事もなかったかのように、記憶へ鍵をかける。
大丈夫。
だって、気のせいに決まっている。私の勝手な思い込みに過ぎない。いつだってマイナス思考になって、不安ばかり抱えてしまうのは、私のよくないところだ。
「ああ……これか」
すぐ傍で、先生がしゃがみこんで私の手から写真を取り上げた。
「母だ」
「え」
「母だった、と言ったほうがいいか」
先生は散らばった雑誌の切り抜きや新聞記事、写真をまとめると封筒にしまった。へたり込んだ私の前に胡坐をかいて座り、正面から向かい合う。
「父が事故で死んでからは、母と二人で暮らしていた。その母は、私が高校を卒業する目前で失踪した。私は父方の実家に引き取られたんだ」
先生は、雑誌の切り抜きを手に取って、ぴらりと私に見せた。
「次に母を見たのは、テレビでだ。母は、多くの人間を殺した殺人鬼だと報じられ、そしてその母もまた、何者かに殺された」
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