上 下
47 / 128
第二章 1、渡月は、認めたくない

4、

しおりを挟む
 私は、この人に会ったことがある。それもおそらく――小学校に、入学する前に。
 頭を押さえて、首をふる。
 私は、この人に会って話をしているのに、思い出せない。詳しく記憶をたどろうとすると、途端に頭痛が押し寄せて、記憶の浮上を拒んだ。
 何気なく机に手を置くと、かさりと紙が触れた。無意識に視線を落とす。写真の女の人の顔が乗った雑誌の切り抜きだった。目が、文字を捉えてしまう。
――凶悪殺人犯、殺害
――数十名を殺害した日本の切り裂きジャックは、何者かによって殺害された
――殺害された殺人犯の名前は、須藤由紀子
 ひゅっ、と喉がなる。
 その瞬間、目の前が真っ白になり、私の意識は遠い過去へと戻っていた。
脳裏に暖炉の家が見えた。サンタクロースがきそうな、ログハウスだ。そこで、美しい女性が、見知らぬ青年と喧嘩をしている。
 そして。私に、青年の手が伸びてきて――。
「何をしてるんだ」
 我に返った私は、その場でへたり込んだ。一瞬にして記憶は霧散し、私は何事もなかったかのように、記憶へ鍵をかける。
 大丈夫。
 だって、気のせいに決まっている。私の勝手な思い込みに過ぎない。いつだってマイナス思考になって、不安ばかり抱えてしまうのは、私のよくないところだ。
「ああ……これか」
 すぐ傍で、先生がしゃがみこんで私の手から写真を取り上げた。
「母だ」
「え」
「母だった、と言ったほうがいいか」
 先生は散らばった雑誌の切り抜きや新聞記事、写真をまとめると封筒にしまった。へたり込んだ私の前に胡坐をかいて座り、正面から向かい合う。
「父が事故で死んでからは、母と二人で暮らしていた。その母は、私が高校を卒業する目前で失踪した。私は父方の実家に引き取られたんだ」
 先生は、雑誌の切り抜きを手に取って、ぴらりと私に見せた。
「次に母を見たのは、テレビでだ。母は、多くの人間を殺した殺人鬼だと報じられ、そしてその母もまた、何者かに殺された」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

神様の住まう街

あさの紅茶
キャラ文芸
花屋で働く望月葵《もちづきあおい》。 彼氏との久しぶりのデートでケンカをして、山奥に置き去りにされてしまった。 真っ暗で行き場をなくした葵の前に、神社が現れ…… 葵と神様の、ちょっと不思議で優しい出会いのお話です。ゆっくりと時間をかけて、いろんな神様に出会っていきます。そしてついに、葵の他にも神様が見える人と出会い―― ※日本神話の神様と似たようなお名前が出てきますが、まったく関係ありません。お名前お借りしたりもじったりしております。神様ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ

まみ夜
キャラ文芸
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻(ホラー風味)は現在、更新休止中です。 続きが気になる方は、お気に入り登録をされると再開が通知されて便利かと思います。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)

処理中です...