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第一章 5、須藤先生は、やっぱり少し、変わっている

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 先の人生、どうなるかわからない。だから、違うとも言い切れないし、肯定も出来ない。好き好んで犯罪者になるわけではないのだから。それでも、誰でも道を踏み外す可能性はある。そこには、先生の言ったような圧倒的孤独や、様々な外的要因が大きく関わってくるだろう。
 先生は、私がそうならないように、自分がいると言ってくれたのだ。
 その気持ちが、とてつもなく嬉しい。私自身を、こんなに気にかけてくれる存在がいるなんて、幸福すぎて頬が熱いくらいだ。
 先ほどの女性の気持ちが、ほんのちょっとだけ、わかる気がした。
 私自身のために言葉をくれる誰かの存在がある。そのことを実感することが、人生の最後に行いたいこと――それは、確かに贅沢なのかもしれなかった。
「つけてみてもいいですか」
「きみにやったんだ、好きにしろ」
「ありがとうございます」
 ネックレスをつけた。胸元でゆらゆら揺れるトップが、美しい。長さもちょうどよく、ワイヤーとチェーンの色も、相性がよいように合わせてある。本当に、細かなところまでセンスがよい。
「どうですか、似合ってますか」
「当たり前だ。誰が加工したと思っている」
「先生です」
「どこの」
「はい?」
「どこの『先生』だ」
 先生が、つと、私を見た。
「……須藤先生」
 石井先生、よりも、やはり、須藤先生のほうが、しっくりとくる。そう思って呟いた言葉に、先生の表情が変わっていく。
 ありきたりの比喩になるけど、まさに、花開くように。
 仏頂面が、笑みへと変貌する。
 サァ、と春も終わる風が髪をさらい、地面に下りた桜の花びらを舞い上がらせる。桜の香り、新しい夏風の香り……先生の香り。
 五感のどれもが、特別な時間であると私に訴えかけていた。
 今、このときを。
 私は生涯忘れることはない、そう信じられた。
「へへへへへ」
 先生の残念過ぎる笑い下手な笑い声が、一気に現実へ引き戻す。おそらくだが、先生は、作り物の笑顔のときや、ちょっとした喜びのときなどは、普通に笑えるのだ。
 だが、こみあげてくる堪えきれない笑みは、へへへへ、と嘴の折れたキツツキのような声になる。
 残念な人だ。とてつもなく。
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