須藤先生の平凡なる非日常

如月あこ

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第一章 5、須藤先生は、やっぱり少し、変わっている

10、

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 つられて振り向くと、白いもこもこ服を着た女性が、近くの人に「奈良駅はどこでしょう」と聞いているのが見えた。
「白いもこもこの服を着た中年女性。きみの言っていた女性と、似ているように思うが」
「あの方です。ちゃんと大仏殿までこられたんですね」
「少なくとも道に迷ってはいなかったな。だが、JR奈良駅への道を聞いているぞ。きみは、その付近で道を尋ねられたのだろう? なぜまた聞く必要がある」
「方向音痴なのかも」
「考えても仕方がない、直接聞いてみよう」
「え。えっ、ちょ、先生っ!」
 言い終えるや否や、先生はてきぱきとした動きで女性のほうへ歩いて行った。追いかけるべきか、と一瞬の迷いの末、立ち上がったときには、先生は女性に声をかけていた。
 外面だけはよいにこやかな業務用の笑みを張り付けた先生は、女性と何かを話している。近づいてはいけない気配を察して立ち尽くしていると、先生が私を指さした。女性が私を振り返る。目が合うと、女性はぺこりと頭をさげた。
 その瞳は柔和に弧を描いており、瞳の奥までは見えないが、醸し出す雰囲気は喜びに溢れていた。
 先生と女性が私と入れ替わるように、ベンチへ座る。私は先生の横に立ち、女性のほうを向くという立ち位置だ。
「すみません、面倒な助手で」
 先生が、困ってる、というように首を振って見せる。
「いいえ、気にかけていただけるなんて、とても嬉しいのですよ。お嬢さん、その節は、道を丁寧に教えてくれてありがとうございます」
「……いえ、当然のことですから」
「なんだ、きみは人見知りか。さっきまで、つらつらと自分の意見を押し付けるように話していただろうに」
「押し付けてませんし、先生が言えと言ったから言ったんです」
 ふふふ、と女性の朗らかな声が、私たちを振り向かせる。それを見て、先生が、こほん、と咳をした。
「まぁ、そういうわけで。この子が、あなたのことが気になって仕方がないというのです。何か困っておられるのなら、手を貸したいといっておりまして」
 そこまで言っていない。ただ、あまりにも違和感があったので、気になっただけだ。それも、この女性のためではなく、私自身が、もやもやするからに過ぎない。
 女性は、再び私たちに頭をさげた。
「お恥ずかしいお話ですが、聞いていただけますでしょうか」
「もちろんです。ですが、もし、お辛い話ならば、無理に聞き出すつもりは毛頭ありませんので」
「お気遣い、感謝いたします」
 女性は視線を、舞い散る桜の花々を追うように、遠くに地面に落とした。
 そして、話し始めた。
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