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第一章 4、須藤先生は、たまに良いことを言う

4、

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 ぽん、と肩に手が置かれた。振り返らずともそれが男の手だったので、私は驚いて飛びのく。振り向いた先には、教鞭帰りの先生が、軽く目を見張って私を見ていた。とっさにひっこめた手が、居場所なく空中で停止している。
「妖怪でも見るような目で見るな」
 やや傷ついたような顔をしつつも、瞳にちらちらと怒りの炎を燃やしている先生がいた。手をおろすと、半眼で私を見据えなおし、顎をしゃくって「歩くぞ」と無言で言われた。
 どうせこのままバイトに行くつもりだったので、大人しく並んで歩き始める。こんなところクラスメートに見られたら面倒だな、と思ったが、先生の衣類は教鞭をとるときに着ているスーツではなく、ラフな普段着にかわっている。キャスケットで顔は近づかなければ見えないし、まぁ、大丈夫だろう。
「先生」
「なんだ」
「私、妖怪には、侮蔑するような目は向けません」
「私には向けると?」
「はい」
「ほう」
 はっ、と鼻で嫌味ったらしく笑われて、首を傾げた。
「なんだきみは、妖怪愛好家か? え?」
「だって、先生とは少し仲良くなれた気がするんです。だから、少しくらい、気楽に接してもいい気がしてきたので。……いえ、最初から、先生には気楽に接していたような気もするんですが。先生が変な人だからでしょうか」
「意味がわからんし、なぜ私を罵倒しているのか理解に苦しむ。いや、その話はもういい。それよりも、お前、私の助けを無視したな」
 考えに耽ろうとした私は、え、と顔をあげる。いつもの半眼で、私を見下ろす先生の表情は、心なしか疲れているようだった。
「なんのことですか」
「授業が終わったあとだ。視線で、困っていることをアピールしたつもりだったが」
「困ってましたね」
「なぜ助けない」
 不満さを露骨ににじませた声音に、私は首を傾げた。
「どうやってですか。そもそも、先生が困っていたら、どうして助けないといけないんです?」
「さっき、道を聞かれたら答えていただろう。人助けが苦手なわけではないだろうに」
「具体的な質問には答えます」
 先生は、むっと唇を尖らせた。正確なな年齢は知らないが、こんな子供のような仕草をするには歳を取りすぎているように思うのだけれど。
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