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第一章 4、須藤先生は、たまに良いことを言う

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「皆さんは、就職先を大体決めていますか。介護福祉士の資格を取って、働かれると聞きました。多くの方が高齢者施設で働くことになるだろうということですので――」
 今日の授業も前半が講義で、後半に実技をするらしい。講義の内容としては、クラストを高齢者と行う際の、相手の気持ちの在り方の重要性についてだった。
 楽しくやるものであり、無理やりやらせるものではないこと。
 失敗も成功だが、失敗したものを褒められても貶されると感じることもあること。
 クラフトは余暇の過ごしであり、手指の運動を取り入れるのもよいが、そこが重点的にならないように。
 などなど、いくつか先生なりの重要な項目を告げてから、実技に入った。
 今日は、ペットボトルを使った、かざぐるまづくりだった。すでにいくつかのパーツに切ってあり、すべてを順番通りに組み合わせてテープで張り付ければ、かざぐるまが出来るというものだ。ストローや爪楊枝も使った懐かしい工作だが、完成してみると予想していたものよりはるかに立派で驚いた。
「意外かもしれませんが、畑仕事などをされていた高齢の方には、うけがいいんですよ。風見鶏代わりに使えるとか、そういったところから話が弾むこともあります」
 先生はそう言うと、見本のかざぐるまに息を吹きかけた。くるくると回る羽を何気なく見つめているうちに、授業は終えた。
 初日と違って、授業を終えるなり退出する生徒は男子だけだった。女生徒の大半が、先生の周りをかこっている。
「石井せんせー、先生って何歳なの?」
「質問コーナーとかないんですか? 先生のことが知りたいの」
「いつもはほかでも教鞭とってるのー?」
 矢継ぎ早の質問に、先生はにこやかな笑みを浮かべて、適当に返事を返している。明らかに気のない返事なのに、生徒たちは食い下がらない。次に会えるのは半月後だから、なんとか関わりたい気持ちがわからなくはないけれど。
 ふと、先生と目が合ったのは、机の片付けが終わったときだった。男子生徒は「やっと終わったぁ」と隠しもせずにあくびをしながら出て行き、女生徒はすぐに先生を囲む。よって、机のうえの片付けは誰もせず散らかったままだったのだ。ハンドメイドやクラフトといった工作は、どれだけパーツごとに分けてあったとしても、最低限のゴミは出るし、使う道具の準備や片付けも必要だ。
 机からテープやハサミ、ペンなどを、先生が最初に道具を取り出した紙袋に入れた。それぞれビニール袋に小分けして、混ざらないようにしておく。
 何か言いたげな視線をよこし続けてくる先生に気づかないふりをして、ぺこりとお辞儀をすると、私は選択授業の教室を出た。

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