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第一章 3、須藤先生は、ちょっぴり優しい……かも、しれない

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 もうすぐ夏になる、じんわりと熱気が包む夕暮れの三条通りを、私は先生と一緒に歩いていた。言われた通り店を閉めて、レジには厳重な鍵をかけ、戸締りも確認した。「そこまでしなくてもいいだろう」と間抜けな言葉を言う先生に、「防犯は大事ですから」と返す。
 作業着から、外出用らしい衣類――ひがしむき通りで会ったときのような、ラフな格好へ着替えた先生は、顔を隠していても、人目を惹いていた。ラフすぎる半袖姿は、しなやかな筋肉のついた両腕や身体の線を強調しており、無駄にお洒落なキャスケット(以前かぶっていたものとは色違い)や、銀色のプレートがついたネックレス、腕には細長い輪っかを束ねたブレスレットをつけていた。
 こうして見ると、キャスケットで顔は見えなくとも、人目を惹く美しさを持っている人だなぁと思う。人使いは荒いし、初対面のときより軟化したとはいえ、口も悪い。それでも、これだけ格好いい人が傍にいたら、私はドキドキ――しないのは、なぜか。
「うーん」
「どうした?」
 年頃の女の子として、私は何か欠けているのかもしれない。
 そんなことを考えていました、と言おうとして、すぐに思いとどまった。ここ三日バイトをしたなかで、先生から「お前は素直に言いすぎる」と注意を受けたのだ。
「えっと。……あ、そう。始めてあったとき、私のこと嫌ってましたよね。どうしてバイトに雇ってくださったんですか」
「気分」
「……はぁ、なるほど?」
「なぜ疑問形なんだ」
「だって、先生って気分で動く人じゃない、ような」
「私のことを随分とよく知っているものだ」
 鼻で笑われて、むっとすると同時に恥ずかしくなった。先生は口が悪くて嫌味だが、事実を言っていることが多い。
 先生は軽くため息をついて、指先で、キャスケットに隠れた前髪をいじった。
「きみがカートを穴が開くほど見つめて私をスルーしてきたとき、きみに好感がもてた」
 言い回し、なんとかならないものか。
 私はそんなことを考えながらも、一応、頷く。カートを見ていたのがよかった、という先生にしかわからないだろう好感度の上げ方は、バイトとして雇われるときにも言われたことだ。
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