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第一章 3、須藤先生は、ちょっぴり優しい……かも、しれない

3、

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 さて。
 私はずっと、先生のことをなんて呼ぼうか考えあぐねている。ひがしむき通りで会ったときは、もちろん名前など知らなかった。学校で講師としてあったとき、ネームプレートには「石井」としか書かれておらず、どうも、先生の見目と「石井」という名前が合致しない。全国の石井さんが美しくない、と言っているわけではない。あくまで、先生の話だ。
 そして、アトリエへ初めてきたとき。
「須藤まどかのアトリエ」と、手書きの看板がかかっていた。その看板を見たとき、ぱっと先生の顔が浮かんだのだ。だから、石井とどこにも書いていないアトリエを、先生のアトリエだとわかった。それくらい、先生は「須藤まどか」という見た目なのだ。
 日曜日の午前中、私は店番をしていた。
 アトリエと併設されたこじんまりとした店は、先生の手作りアクセサリーが並んでいる、先生個人のお店だ。気分がむいた日曜日だけ、店をあけているという。
 プロを名乗る先生の作品は、どれも心の底から賛辞したくなる美しさだ。基本はレジンだが、天然石やチェーンにもこだわっていますという札がつけてあった。
 レジンとは、樹脂を固めたもののことだ。手軽に使えて、工夫次第ではとてつもなく美しい塊が作れる。最近はキット販売も多いが、ミール皿にレジン液を盛るだけのキットで、私は二年前に大失敗をした。
 平面レジンで失敗した過去のある私は、この店に並ぶ、丸いレジンの球体や立体的な猫、小さな羽とビーズを組み合わせた作品が、人の手で作られたというのが信じられなかった。
 まるでガラス玉のように透き通った透明感なのに、内側には絶妙な配置で封入されたホログラムや天然石、人工オパールなどが存在を主張している。
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