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第一章 3、須藤先生は、ちょっぴり優しい……かも、しれない

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 昼食は、コンビニでお弁当を購入。その日のうちに台所を最低限使えるまでに掃除すると、ゴミ袋が二つ増えた。台所は意外にも、休憩室の惨状より遥かにマシだった。なぜならば、湧いた虫はすでに乾いて死滅しており、洗っても取れないこびりついた汚ればかりで、コップうんぬんは捨てるしかなかったのだ。水道の水は出るし、洗剤で辺りを漂白し、包丁やまな板、ガスコンロを確認して、完了。
 掃除を終えると夕方だったが、なんとか夕食は作れるだろう。いや、夕食はいらないのか。昨日おとといと、夕食づくりはしていない。気が付けば先生はカップ麺を食べ終えており、それを片すのが役目になっていた。
「気の利かない卑屈娘、夕食は」
「はーい」
 必要らしい。買出しに行くか、と渡されていた必要経費の入った財布を持った。そのとき。
「反論しないのか」
「え?」
「お前を卑屈だと呼んでいることだ」
 作業台で何かしらの作業をしながら、先生が言う。何を作っているのか私は知らない。一度覗き込もうとしたら、仕事をしろと怒られてしまった。
「悪いと思ってるんですね!」
「いやまったく。だが、否定しないということは、受け入れているということだ」
「そりゃ不快ですよ、名前で呼んで貰えると有難いです」
「そう思うなら、反発しろ。何も言わないのなら、それでよいと相手は受け止めるだろう。お前のような卑屈な娘は、見ていて不愉快だ」
 ひがしむき通りで初めて会ったとき、初対面にも関わらず先生はかなり失礼なひところで、私のメンタルをぼろぼろにした。矜持が打ち砕かれて初めて、私にプライドがあったのだと知った。あのとき心が凍てついたのは、見透かされたような気がしたからだ。私が抱えている悩み、それを隠した心の奥底を。
「取り消しはしないが」
 先生は、言葉を続けた。
「お前は前向きで、良くも悪くも正直者だ」
「はぁ、どうも」
「早く行け」
 しっしっ、と手を振られて、私は眉をひそめて踵を返す。何が言いたかったんだ、といぶかったとき。背中を追いかけるようにして。
「すまなかった」
 と、小さな謝罪が聞こえた。
 すぐに、初日に浴びせられた罵倒に対しての謝罪だとわかった。なんだ、先生もなんだかんだ言っても悪いと思ってくれていたんだ。
 そう思うと、途端に辺りの光景に色がついた気がした。今日は晴れだったのか。風がこんなに暖かかったのか。季節の花の香りが、こんなにも町を満たしていたのか。
 先生に出会って、三日目。
 見える世界が、少しだけ変わった気がした。
 
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