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第一章 2、須藤先生は、ちょっぴり理不尽

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 奈良の中心、JR奈良駅のすぐ横をまっすぐに伸びる三条通り。近鉄奈良駅のほうへ向かい、ひがしむき商店街の入り口を過ぎると、右手側に餅飯殿の商店街がある。
 真新しい建物がちょこちょこ目につくひがしむき通りとは違い、全体的に古風な印象を受ける商店街が、餅飯殿の商店街だ。新しい店もあるが、古民家を改造してあったり、風景と溶け込むような作りの建物であったりと、昔ながらのぬくもりが満ちている。
 何より、この辺りはマニュアルに特化したようなチェーン店が少ない。呉服屋や個人経営のカフェ、古書屋、奈良ラジオの公開収録放送、手作りの雑貨屋さん、そういった店が並んでいるのだ。
 せわしなく歩く人もおらず、観光する人々や、近隣の人々の、ゆったりとした時間の歯車に、私も加わったような感覚を覚える。
 餅飯殿の商店街に、噴水は一つだ。
 商店街の真ん中に小さな公園があり、噴水は公園の一部だった。待ち合わせ場所によく使われており、楽器片手に演奏を披露する若者を見たこともある。
「この辺だよね」
 一人ごちて、クラフト教師の言っていた左へ曲がる道を探す。目的の道はすぐに見つかった。ちょうど左手に向かう路地があり、そのあとは店が連立しているため、左に折れる道が見当たらないのだ。
 よいしょ、とリュックを背負いなおして、言われた道を歩いていく。
 途中で、本当に行くべきかと考える。行く義理はないし、実際、出席をしているのに単位を落とすなんてことはできないだろう。授業態度も、ほかの授業ではよいと自負しているし、青年教師が落第を押したところで、ほかの先生方は信じない――はずだ。仮に信じたとしても、補修という形で単位は貰える――はず。
 なにもかもが、はず、とついてしまうがゆえに、私は結局、こうしてクラフト教師の指定したアトリエの前までやってきた。
 アトリエは、古民家を改造した、二階建ての一戸建てだった。木目美しい、古い木造建築は、ならまちに溶け込んでおり、商店街から外れた静けさに合っていた。どうやらこの辺りには、ほかにもアトリエや画廊があるらしく、ざっと道を眺めるだけでも様々な手書き看板が目についた。書道や陶芸、木彫りの飾りに、手作りガラスなんてものもある。
 それにしても、とクラフト教師のアトリエを見た。
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