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しおりを挟む「失礼致します、ベレスレント公爵令嬢」
日が暮れてやってきたのは、グレゴールの腹心であり副官のティアロだ。
「どうぞ、こっち」
ユルティナは彼を居間に案内する。
グレゴールは、最近購入した長椅子に寝かせて薄い毛布を掛けていた。
驚いたティアロが傍に駆け寄るが、はたと気づいて動きを止める。
「……あの、殿下の服はどちらに」
「ぐちゃぐちゃに汚れたから脱がせたの。洗ったけどこの天気だから、すぐに乾かないわ」
「ぐ、ぐちゃぐちゃに!?」
ぎょっとするティアロに、ユルティナはただ頷く。
詳しい理由を話すつもりはなかった。
◇◇
カルロとの情事を終えたあと、ユルティナは自分の身なりを調えてから、気を失うように眠ってしまったカルロの体を清めた。
それから、床に倒れ込んでいるグレゴールの傍に歩み寄る。
そっと身体を起こしてやれば、彼のズボンは何度も射精した白濁が染み出ており、漏れた尿でぐちゃぐちゃだった。顔は涙と唾液と鼻血で汚れていたが、恍惚とした表情から、彼がどういう状況で気絶したのかは明白である。
王妃として彼の妻であり続けるために、何度かグレゴールの性癖を調べたことがあった。
結果はいつも同じで、至って普通だという話に付随するように、男女の営みを嫌っている様子だというのだ。
しかし、何年も彼と過ごすうちに、ちょっとした視線や仕草、表情から、彼が特殊な性癖の持ち主なのではと思うようになっていた。
(グレゴール様は、人様の情事を見て興奮する性癖なのよね)
きっと他の誰も気づいていないし、グレゴールは立場上誰にも打ち明けられないだろう。
カルロを変態だと罵ったのも、自分自身のことがあるから過剰に反応したのだと考えている。例えそれでもカルロに対する罵倒は許さないが、婚約者だったユルティナの行動に対するショックもあるだろうから、あのときユルティナ自身、突然やってきたグレゴールをどうすればいいのかと戸惑ったのだ。
結局、縄で縛って放置するという方法を取ったのだが、果たしてこれでよかったのか。
少なくとも彼のプライドは粉々になっただろうから、二度とユルティナに会いに来ることはないだろう。
だるい身体をなんとか動かして、ユルティナはグレゴールの服を脱がせて体を清めた。
背中に半分だけ背負って、足をズルズルと引きずりながら居間の長椅子に転がす。さすがに全裸だと風邪を引くかもしれないので、毛布をかけておく。
グレゴールは、素直な男だ。
真っ直ぐで優しく、弱き者を助けて女性に優しい、絵本に出てくるような王子様である。
時々、王太子には不向きなのでは、と思うときもあったほど、グレゴールは純粋なのだ。
ユルティナも、グレゴールのことは嫌いではなかった。
◇◇
ティアロが服を取りに戻り、それを着たグレゴールが帰っていく。
彼は何も言わず、黙って去っていった。
ユルティナはこっそり王太子一行を窓から見送ったあと、自室に戻る。ユルティナのベッドで眠っているカルロの隣に潜り込んで、彼の肌の熱や匂いを全身で感じた。
もう、クタクタである。
しかしこれも、カルロと一緒に暮らしていくためなのだ。
(暖かい……気持ちいい)
すりすりとカルロの胸に頬を擦り付ける。
ユルティナは、そのまま眠りについた。
誰かと共に眠るなど、今世では初めての経験で――それは、二人が夫婦になった証でもあった。
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