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(どうすればいいんだ)
カルロはユルティナの部屋を掃除していた。
シーツを洗って床を磨き、周辺の小物や家具も丁寧に拭き取っていく。
生臭さは無くなったが、あちこちに飛び散っているかと思うと掃除の手が止まらなかった。
出来るならばユルティナにはここから引っ越して欲しいし、カルロ自身も消え去りたい。
ずっと想いを寄せていた女性に、隠してきた気持ちを吐露したうえに、あのようにみっともない姿を見せてしまったのだから。
すべて、自業自得だ。
カルロがユルティナと関わるすべがわからず、恋心を拗らせた結果、ユルティナの不興を買って解雇されることになった――。
こんな自分は彼女のそばに――例え護衛兼従者としても――相応しくない。痴態を晒してしまったことで、ユルティナもカルロを気持ち悪いと思ったはずだ。軽蔑されたに決まっている。
なのに、カルロは今でもやはり、ユルティナから離れたくないと切実に思うのだ。
「ただいまー、カルロいるー?」
いつも通り気楽な呼び声に、カルロはハッとした。
ユルティナが帰宅したらしい。慌てて掃除道具を片付けて、玄関に向かった。
「おかえりなさいませ。お約束した禁止区域には行ってらっしゃいませんね?」
つい言ってしまってから、慌てて口を閉じる。
禁止区域とは、護衛であるカルロと一緒でなければ行ってはならないと決めた、治安のあまりよくない地区のことである。
護衛とはいえ四六時中一緒にいるわけではなく、あくまで必要に応じて、護衛と従者の役割を使い分けているのだ。
ユルティナは、この町に来てからやたらと軽率な行動が目立つようになった。よい意味で捉えれば、身軽になったともいえる。
しがらみから解放されたように笑顔も増え、元公爵令嬢とは思えないほど活動的だ。自分自身の生活は勿論、日々の雑用も躊躇無くこなす。
だが、まだ身の安全にはしっかりと意識を向けてほしいのだ。
という思いがあるが、これではまた口煩いと思われてしまう。
ちら、とユルティナを見ると、はたりと目が合った。
「ギルドに行っただけよ。寄り道もしてないわ」
「そうですか。朝食ができておりますが……」
「いただくわ」
「え?」
驚いたカルロに、ユルティナは顔を顰めた。
「食べちゃ駄目なの?」
「俺が作ったものですが、大丈夫ですか?」
「昨夜も食べたじゃないの」
だがそのあと、あんな痴態を見せてしまった。
逸物を扱いた手で作った料理なんて、気持ち悪くて食べられないと思われても仕方がない。
そう思っていたカルロは、気にした様子のないユルティナに戸惑った。
「あ、それから。新しい護衛の件、止めたから安心して」
「はっ? ……え?」
ユルティナが、むっとした顔をする。
そんな表情も可愛らしく今すぐ抱きしめて押し倒して貪りたいのだが、これ以上嫌われたくないので耐えた。
「カルロが続けたいって言ったんでしょ。……本当は辞めたい?」
「いいえ!」
少しの不安を乗せて問われた言葉に、力強く即答する。
ユルティナがふふっと笑い、ひらひらと手を振った。
「じゃ、これからもよろしくね。遅めの朝食にするけど、カルロは食べた?」
「いえ、まだ」
「一緒に食べましょう。私、着替えてくるわね」
ユルティナが彼女の部屋に消え、カルロは呆然としてしまう。
ユルティナの態度は、普段となんら変わりないのだ。
気にしているのは、どうやらカルロだけらしい。
それがなんとも複雑な気分だった。ユルティナは、カルロのことなど気にするほどのことではないと思っているのかもしれない。
(仕方がない。身分差もあるし、俺は……変態だから)
自覚がなかったが、どうやらカルロは性欲が強いようだ。
避けられなかっただけでも喜ぶべきだと、カルロはユルティナが消えた部屋を見つめながら思った。
それから数日が過ぎた頃、カルロはユルティナに呼び出された。
昼過ぎのことで、外は小雨が降っていた――。
カルロはユルティナの部屋を掃除していた。
シーツを洗って床を磨き、周辺の小物や家具も丁寧に拭き取っていく。
生臭さは無くなったが、あちこちに飛び散っているかと思うと掃除の手が止まらなかった。
出来るならばユルティナにはここから引っ越して欲しいし、カルロ自身も消え去りたい。
ずっと想いを寄せていた女性に、隠してきた気持ちを吐露したうえに、あのようにみっともない姿を見せてしまったのだから。
すべて、自業自得だ。
カルロがユルティナと関わるすべがわからず、恋心を拗らせた結果、ユルティナの不興を買って解雇されることになった――。
こんな自分は彼女のそばに――例え護衛兼従者としても――相応しくない。痴態を晒してしまったことで、ユルティナもカルロを気持ち悪いと思ったはずだ。軽蔑されたに決まっている。
なのに、カルロは今でもやはり、ユルティナから離れたくないと切実に思うのだ。
「ただいまー、カルロいるー?」
いつも通り気楽な呼び声に、カルロはハッとした。
ユルティナが帰宅したらしい。慌てて掃除道具を片付けて、玄関に向かった。
「おかえりなさいませ。お約束した禁止区域には行ってらっしゃいませんね?」
つい言ってしまってから、慌てて口を閉じる。
禁止区域とは、護衛であるカルロと一緒でなければ行ってはならないと決めた、治安のあまりよくない地区のことである。
護衛とはいえ四六時中一緒にいるわけではなく、あくまで必要に応じて、護衛と従者の役割を使い分けているのだ。
ユルティナは、この町に来てからやたらと軽率な行動が目立つようになった。よい意味で捉えれば、身軽になったともいえる。
しがらみから解放されたように笑顔も増え、元公爵令嬢とは思えないほど活動的だ。自分自身の生活は勿論、日々の雑用も躊躇無くこなす。
だが、まだ身の安全にはしっかりと意識を向けてほしいのだ。
という思いがあるが、これではまた口煩いと思われてしまう。
ちら、とユルティナを見ると、はたりと目が合った。
「ギルドに行っただけよ。寄り道もしてないわ」
「そうですか。朝食ができておりますが……」
「いただくわ」
「え?」
驚いたカルロに、ユルティナは顔を顰めた。
「食べちゃ駄目なの?」
「俺が作ったものですが、大丈夫ですか?」
「昨夜も食べたじゃないの」
だがそのあと、あんな痴態を見せてしまった。
逸物を扱いた手で作った料理なんて、気持ち悪くて食べられないと思われても仕方がない。
そう思っていたカルロは、気にした様子のないユルティナに戸惑った。
「あ、それから。新しい護衛の件、止めたから安心して」
「はっ? ……え?」
ユルティナが、むっとした顔をする。
そんな表情も可愛らしく今すぐ抱きしめて押し倒して貪りたいのだが、これ以上嫌われたくないので耐えた。
「カルロが続けたいって言ったんでしょ。……本当は辞めたい?」
「いいえ!」
少しの不安を乗せて問われた言葉に、力強く即答する。
ユルティナがふふっと笑い、ひらひらと手を振った。
「じゃ、これからもよろしくね。遅めの朝食にするけど、カルロは食べた?」
「いえ、まだ」
「一緒に食べましょう。私、着替えてくるわね」
ユルティナが彼女の部屋に消え、カルロは呆然としてしまう。
ユルティナの態度は、普段となんら変わりないのだ。
気にしているのは、どうやらカルロだけらしい。
それがなんとも複雑な気分だった。ユルティナは、カルロのことなど気にするほどのことではないと思っているのかもしれない。
(仕方がない。身分差もあるし、俺は……変態だから)
自覚がなかったが、どうやらカルロは性欲が強いようだ。
避けられなかっただけでも喜ぶべきだと、カルロはユルティナが消えた部屋を見つめながら思った。
それから数日が過ぎた頃、カルロはユルティナに呼び出された。
昼過ぎのことで、外は小雨が降っていた――。
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