6 / 14
5、
しおりを挟む
「つまり、責任を取ろうってことねん~」
事情を話しているうちに、相手の話術に嵌まって必要ではないことまで話してしまった。
町のギルド長であるレティシアは、応接室に通したユルティナを前に、んふふっと嬉しそうに笑う。
ただ書類を提出しにきただけのつもりだったのに、レティシアに見つかって応接室に連れ込まれてしまったのである。
「素敵。主と騎士の恋ねぇ」
「カルロは騎士じゃないわ。契約で護衛になったから、傭兵みたいな――」
「んもうっ、ロマンスの定番は騎士と貴族なのよ。じつは私も、素敵なロマンスを求めているの」
「レティシアさん、御年いくつだっけ」
「今年で八十三歳よ、うふ」
特別若作りというわけでもなく、大体そんなくらいかな、といった見た目のままの年齢である。
依頼斡旋ギルドは国家とは別の組織だが、大陸全体に存在するため、国を跨いで存在する一つの組織なのだ。
ゆえに、いくら小さな町のギルドとはいえ、長になるためにはかなりの経験と才能が必要なのである。
レティシアも、あちこちの依頼斡旋ギルドを点々とし、ここに落ち着いた身だった。
「いいことだわぁ。以前王都で会ったときのあんた、つまんない女だったもの~」
ちなみにユルティナはレティシアと知り合いである。
王都で暮らしていた頃、ちょっとした仕事をギルドへ依頼にいった際に知り合ったのだった。
「貴族はそういうものなの。騒がしくしたり、感情を表に出したり、そういうのは恥なのよ」
それに前世も思い出していなかったし、と心の中で付け足す。
かなり型通りの公爵令嬢として生きてきた自覚があるため、レティシアの言いたいこともわかる気がした。
「だったら、公爵令嬢なんか辞めて正解よん。真実の愛にも目覚めたことだし、これからのあんたの人生きっと輝くわよぉ」
「真実の愛って」
「受け入れることにしたんでしょ? その人のこと。それって愛じゃないの」
ユルティナは口ごもった。
確かに、カルロの気持ちを聞いて尚雇用継続を決めたのだから、受け入れたということになるのかもしれない。
(……いや、なるの? ただ嫌われてなかったみたいだから継続しただけなのに)
うーんと悩むユルティナに、レティシアがくすりと微笑みかけた。
「もし、あんたに心底惚れてるって野郎が、そのカルロってやつじゃなく他の使用人でも、同じだったぁ? ほらん、王都にいた頃は他にも護衛いたでしょ~?」
「……それは」
何人かユルティナの護衛だった男の姿を思い浮かべて、彼らがユルティナに懸想していると仮定する。
彼らに求めているのは仕事に対する誇りであり、忠実さだ。
側仕えならばともかく、護衛にユルティナ個人に対する忠誠心は求めていない。
己の仕事に対して真剣に向き合うことを求めていた。
そんな彼らに邪な、持て余すほどの欲望を向けられたとしたら――。
(問題が起こる前に、解雇するわね)
それは王太子の婚約者だった頃もそうだが、今の方がより間違いが起こりやすい。
ゆえに、傍にはユルティナに無関心な仕事に誠実な者が好ましいのである。
「…………そうね」
くすりと笑った。
(どうして、カルロを解雇しないのか……彼になら、襲われてもいいって思ってるからだわ)
根底でカルロを認めているから、ユルティナの考えも飛躍していたのだ。
冷静になって考えれば、襲われたらどうしようと考えること自体不自然である。危険性があるのならばカルロ本人を排除すればよいだけなのに……。
ユルティナはカルロを思った。
今頃どうして居るだろうかと考えて、無性に会いたくなった。
「若いっていいわねぇ」
「レティシアにも若い頃があったでしょ?」
「あぁんないい身体の男に愛された経験なんてないわよぉ~。それに私は細身の男がタイプなのん」
そうだ。
襲われるにしても、カルロを望んで受け入れるにしても、問題はユルティナの身の安全である。
どうしたら、今後のために――幸せなスローライフを送るためによいだろうか。
(……そうだわ)
ふと、妙案が浮かんだ。
事情を話しているうちに、相手の話術に嵌まって必要ではないことまで話してしまった。
町のギルド長であるレティシアは、応接室に通したユルティナを前に、んふふっと嬉しそうに笑う。
ただ書類を提出しにきただけのつもりだったのに、レティシアに見つかって応接室に連れ込まれてしまったのである。
「素敵。主と騎士の恋ねぇ」
「カルロは騎士じゃないわ。契約で護衛になったから、傭兵みたいな――」
「んもうっ、ロマンスの定番は騎士と貴族なのよ。じつは私も、素敵なロマンスを求めているの」
「レティシアさん、御年いくつだっけ」
「今年で八十三歳よ、うふ」
特別若作りというわけでもなく、大体そんなくらいかな、といった見た目のままの年齢である。
依頼斡旋ギルドは国家とは別の組織だが、大陸全体に存在するため、国を跨いで存在する一つの組織なのだ。
ゆえに、いくら小さな町のギルドとはいえ、長になるためにはかなりの経験と才能が必要なのである。
レティシアも、あちこちの依頼斡旋ギルドを点々とし、ここに落ち着いた身だった。
「いいことだわぁ。以前王都で会ったときのあんた、つまんない女だったもの~」
ちなみにユルティナはレティシアと知り合いである。
王都で暮らしていた頃、ちょっとした仕事をギルドへ依頼にいった際に知り合ったのだった。
「貴族はそういうものなの。騒がしくしたり、感情を表に出したり、そういうのは恥なのよ」
それに前世も思い出していなかったし、と心の中で付け足す。
かなり型通りの公爵令嬢として生きてきた自覚があるため、レティシアの言いたいこともわかる気がした。
「だったら、公爵令嬢なんか辞めて正解よん。真実の愛にも目覚めたことだし、これからのあんたの人生きっと輝くわよぉ」
「真実の愛って」
「受け入れることにしたんでしょ? その人のこと。それって愛じゃないの」
ユルティナは口ごもった。
確かに、カルロの気持ちを聞いて尚雇用継続を決めたのだから、受け入れたということになるのかもしれない。
(……いや、なるの? ただ嫌われてなかったみたいだから継続しただけなのに)
うーんと悩むユルティナに、レティシアがくすりと微笑みかけた。
「もし、あんたに心底惚れてるって野郎が、そのカルロってやつじゃなく他の使用人でも、同じだったぁ? ほらん、王都にいた頃は他にも護衛いたでしょ~?」
「……それは」
何人かユルティナの護衛だった男の姿を思い浮かべて、彼らがユルティナに懸想していると仮定する。
彼らに求めているのは仕事に対する誇りであり、忠実さだ。
側仕えならばともかく、護衛にユルティナ個人に対する忠誠心は求めていない。
己の仕事に対して真剣に向き合うことを求めていた。
そんな彼らに邪な、持て余すほどの欲望を向けられたとしたら――。
(問題が起こる前に、解雇するわね)
それは王太子の婚約者だった頃もそうだが、今の方がより間違いが起こりやすい。
ゆえに、傍にはユルティナに無関心な仕事に誠実な者が好ましいのである。
「…………そうね」
くすりと笑った。
(どうして、カルロを解雇しないのか……彼になら、襲われてもいいって思ってるからだわ)
根底でカルロを認めているから、ユルティナの考えも飛躍していたのだ。
冷静になって考えれば、襲われたらどうしようと考えること自体不自然である。危険性があるのならばカルロ本人を排除すればよいだけなのに……。
ユルティナはカルロを思った。
今頃どうして居るだろうかと考えて、無性に会いたくなった。
「若いっていいわねぇ」
「レティシアにも若い頃があったでしょ?」
「あぁんないい身体の男に愛された経験なんてないわよぉ~。それに私は細身の男がタイプなのん」
そうだ。
襲われるにしても、カルロを望んで受け入れるにしても、問題はユルティナの身の安全である。
どうしたら、今後のために――幸せなスローライフを送るためによいだろうか。
(……そうだわ)
ふと、妙案が浮かんだ。
5
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

不確定要素は壊れました。
ひづき
恋愛
「───わたくしは、シェノローラよ。シェラでいいわ」
「承知しました、シェノローラ第一王女殿下」
何も承知していないどころか、敬称まで長々とついて愛称から遠ざかっている。
───こいつ、嫌い。
シェノローラは、生まれて初めて明確に「嫌い」と認識する相手に巡り会った。
そんなシェノローラも15歳になり、王族として身の振り方を考える時期に来ており───
※舞台装置は壊れました。の、主人公セイレーンの娘が今回は主人公です。舞台装置~を読まなくても、この話単体で読めます。
※2020/11/24 後日談「その後の彼ら。」を追加
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる