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勤労少女と癒し王子
美紀の彼
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講義が終わり、美紀に腕を組まれて引っ張られるように教室を出る。
こういう有無を言わせない強引なところが彼女らしい。
教室から出たときは寒さを感じていたけど少し歩くと身体が火照る。
陽射しが暖かく空気が緩い。
2人で他愛のない話をしながら歩く。
こんな当たり前のことも久々で楽しい。
外に出たことと楽しさで眠気が少し飛んでゆく。
大学の近くにある駅の改札が見えてきた。
「少し遠いけど可愛いカフェ見つけたんだ♪」
と微笑む美紀。
これから電車で3つほど行った駅前のパフェの美味しいカフェに向かうらしい。
私の家の駅からも近いので早く帰れそうで安心だ。
美味しいパフェがあるんだよ~なんて話しながら、LINUで誰かと会話し始める。
スマホを見つめながらニヤニヤして何か連打…って、スタンプか。
なんかやけに嬉しそうだなぁ。
スマホから顔を上げ、親指を立てて見せる。
「OK!席取ってるって!」
「あ、カフェ?」
「うんうん」
美紀はとても楽しそうに笑う。
窓の外の景色はどんどん流れて…目的の駅が近づいてきていた。
人気のカフェだと並ぶからすぐ座れるのは助かるな……
〝 あれ?でも一体誰が?? 〟という疑問が浮かんだ。
けど聞くのも野暮だなと質問を飲み込む。
ま、どうせ行けば分かるよね。
私はのん気に構えることにした。
駅の改札を南口に出る。
南口の方にカフェがあるとは知らなかった。
家からも近いし、ファミレスよりも時給が良かったらバイトしようかな、と思い巡らせていたら店に到着した。
お店の前には数十人の女の子が並んで待っている。
行列の横を早足で通り過ぎ、お店の入り口を目指した。
彼女達の冷たい視線を受けつつ、カフェの扉を開けて店内に足を踏み入れる。
『なんで、こんなダサ女が先に入るの??』って視線が刺さる。
前をゆく美紀は全く動じていないみたい。
美紀は可愛いから……そういうの無いんだろうな…。
ドキドキしながら美紀の後ろにくっ付いて店内を移動する。
入り組んでいてかなり広い客席だ。
キョロキョロしながら店内に見入ってしまう。
全体的にで内装がパステル色に染まってた。
壁紙にマカロンやマシュマロの絵が描かれており、床は大理石の模様でダークブラウン。
テーブルは楕円形のクリーム色で、椅子はピンクや水色、白がランダムに配置されてた。
皆が食べてるパフェも凝っている。
飴細工だと思われる〝 雪の結晶やハート 〟の飾りがパフェの上でキラキラ光っている。
うわぁ……食べるの勿体ないぐらい可愛すぎる。
あ、あの人のプリンのパフェ美味しそう!
ちょっと楽しみになってきたっ。
あ、って、そうじゃなくて……人探ししてたんだ。
端から探していた私達はお店の中央の席へと向かう。
巨大マカロンの置物の影から気配を感じ、美紀と同時に視線を移す。
黒い影が〝 ぬ 〟っ揺れ……
大男が立ち上がって両手を上げてぶんぶん振ってきた!
「ひっ!」
びっくりしすぎて悲鳴に近い声が出てしまった。
日焼けして黒い肌。
背は190cm近くあるんじゃないかと思うほど大きくマッチョ。
〝 白いシャツ 〟はパツパツに弾けそう。
そして顔が……う、馬?
縦長の大きな顔に小さい目。歯は大きくて真っ白。
豪快に笑っている。
「自分、馬場並太(へいた)と言います。」
馬顔の彼はよく通る声で挨拶してくれた。
「並太さん~。ありがとう~!」
美紀が嬉しそうに馬マッチョに抱きつく。
なんだ……この光景。
思考が5秒フリーズする。
店内の視線も一気に集まっている…気がする。
目の前で美女と馬マッチョが腕を絡めながらこちらを向いた。
「みう~~~~。彼氏だよ~。座って!」
美紀の声でハッとして、急いで向かい側の席に着く。
巨大マカロンの置物のおかげで4人席の半分が隠れている。
ふぅ…丸見えじゃなくて良かった。
頭の中はまだ、目の前の2人に混乱中だけど…。
とりあえず落ちつこう。
え、えっと、挨拶、そうだ!挨拶しないと。
「こ、こんにちは。美紀の友達やってます。高畑 海です…」
震える小さい声ではあったが、なんとか返した。
けど、2人とも聞いているのかいないのか、イチャイチャが止まらない。
いまにもキスしそうな距離で見つめ合いながらお互いを褒めあってる。
メニューを開き目の前の2人を遮ぎった。
視界をパフェの写真に移して、何を頼むか考えながら深呼吸。
2人は注文が決まっていたので最後まで悩んでいた私がウエイトレスさんを呼ぶ。
「すみません~」
少し手を上げて近くにいたショートカットの子に声をかける。
美紀は彼氏がころころ変わるので慣れてるよ。
が、今回の彼氏は濃い!
馬マッチョって……
威圧感が半端無いですよ。美紀さん。
心の中で二人には絶対言えない突っ込みをしながらオーダーをする。
「コーヒー2つとイチゴパフェ、バナナパフェ……と、あと桃のジェラード…でお願いします」
ウエイトレスさんは注文をメモしながら、チラチラ並太さんと美紀を見ていた。
2人はおでこをくっ付けたまま見詰め合って腕を絡めてイチャついている。
オーダーを終えペコンとお辞儀をすると、真っ赤な顔で立ち去っていった。
美紀さん、並太さん、ここは公共の場ですよ…
って言っても無駄そうだな。
パフェ……食べたら帰ろう。
頼んだものが届くまで約10分。
その間、完全に2人の世界。
私はオブジェ、蚊帳の外である。
まぁ……話しかけられても困るけど。
彼女の大事な用事ってもしかして彼氏を見せたかったのかなぁ。
そういうことならLINUで充分だよ。
コーヒーやパフェがきてテーブルの上が華やいだ。
相変わらず目の前のカップルと私は線を引いたように会話がない。
黙々と食べ進めながらも、何となく2人を見てしまう。
目の前で美紀が桃のジェラードを並太さんの口に運んでた。
『あ~ん』って、先ほどから食べさせているけれど彼女は一口も食べてない。
『ははっ!これプロティンです!バナナにはこれでしょう!!!』
と言い並太さんはバナナパフェに白い粉をかけて食べてる。
って、プロティンを持ち歩いてるんだ・・。
私はダサ女には似合わないくらい可愛いイチゴのパフェをつついてる。
少し冷静になリ周囲の目が気になりだしてきた。
ここのテーブルの風景は異様に見えるんじゃないか?
案の定、隣のテーブルのお洒落なお姉さまたちが睨んでる。
あちこちから視線を感じる。
場違いな空気を悟ったら居心地が急に悪く感じた。
美紀の用事って彼氏紹介だよね。
挨拶も済んだことだし、食べたらお金置いて先に帰らせてもらおう。
そう決めて美紀に声をかけようとしたとき、並太さんが私に強い視線を送りながら話し始めた。
「美紀さんには……ナンパしてもらって……
まぁ、いわゆる逆ナンってやつですがっ
がははっ!
こんな可愛い娘が自分なんかに?って、驚いたんですよ」
顔を赤くしながら突然、2人の馴れ初めを言い始めた。
えっ。このタイミングで話し始める??
で、内容も濃い!!
並太さんの自由な行動に圧倒されて、どういう顔をしてどういう返答をしていいのか困ってしまう。
言葉に詰まり曖昧に苦笑いしたとき…
〝 ガッシャーンッ 〟
広い店内に金属音が響く。
美紀が彼の言葉に慌てたらしくスプーンを落とす。
手をぶんぶん振り、並太さんの胸を叩きながら真っ赤な顔で抗議してきた。
「も!!!!
や!!!!やめてって!
海にそれ以上言わないでっ!」
甲高い彼女の大声がお店の中に流れる………。
一気に店内の注目を集めて美紀が小さくなってしまった。
いつも冷静な彼女がこんなに慌ててるのは珍しい。
友人に〝 逆ナン 〟していることがばれたら、そりゃ恥ずかしいか。
近くの店員さんにスプーンをお願いしてから2人に言う。
なるべく自然な笑顔で。
「幸せそうだね。仲良しさん(笑)
でも、もう少し小さい声でお願いします」
アクシデントが多々あったが、一緒にパフェを食べている間に場も和んできて、昼も近くなってきた。
緊張が緩んできたせいか眠気が襲ってくる。
もう限界かなと思い〝 帰るね 〟と、話を切り出そうとしとき、美紀がトイレに立ってしまう。
並太さんと向かい合わせで2人きり…
何か話そうか考えをめぐらせてはみるが何も出てこない。
パフェやコーヒーはほぼ完食しており気まずい空気が漂った。
甘い香りがする中、私は4人席の端っこで困惑中。
男の人と二人きりとか無理っ
美紀、早く帰ってきて!
困っていると低い声が上から降る。
「ここから近いみたいですよ。」
並太さんが真剣な顔で話しかけてきた。
急に声を掛けられて頭に?がいっぱい浮かぶ。
近いって何?
このあと遊びにでも行くのかな……この3人で?!
眉を下げて考え込んでいたら、並太さんはハハッと豪快に笑う。
白いキレイな歯を見せる。
「美紀は……話して無かったんですね?
言いにくかったのかな。
バイトを紹介したいって聞いてますよ。」
並太さんの気兼ねしない物言いと、会話の内容に彼への壁は消えていた。
私は驚いて瞬きをしながら、最近の美紀との会話を思い出してみるが…記憶にない話だ。
残ったイチゴをクチに放り込むと、奥歯に甘酸っぱさが広がって頭が少しすっきりする。
「バイト……ですか?
何も聞いていません…
えっと、でも今……実は3つ掛け持ちしていてシフトぎゅうぎゅうなんです。
だからもう、これ以上は無理かなぁ
お金は欲しいですけどね(笑)」
並太さんにフレンドリーに返答している自分に驚く。
急にこんな態度で失礼だと思ってないかな……と様子を窺ってみるも、全く気にした様子は見えなかった。
太い腕を組みながら首をかしげ、
「忙しいんですね…
ん~じゃぁ、なんで美紀は、そんなに忙しい みうちゃんにバイトの紹介なんて。
知ってるはずですもんね?暇じゃないこと。」
と小さい目をパチクリさせた。
ふいに後ろから肩を叩かれる。
「みう、ごめんね。待った?」
うわさの本人が戻ってきた。
トイレが長いと思ったら、ばっちりメイクが決まってる。
流石です。美紀さん。
美紀は元の席に座りながら、片方の眉を上げて意地悪そうな声を出す。
「2人でなぁに~?
並太ぁ、みうにちょっかいかけちゃ駄目だよ~。
この子……処女なんだからっ。」
並太さんがぶっと噴出しながら私をジロジロ見る。
その視線に顔が熱くなってきた。
「美紀っ!………そういうのは止めてよ。
並太さんからバイトの話を聞いてたの。
紹介って何?わたしバイト間に合ってるよ?」
美紀は、あぁ、と言う表情で言葉を続けた。
「紹介っていうよりは、お願いって感じなの。
実は、その仕事ってモニターなんだけど、特殊らしくてね…。
条件がいくつかあって……」
長い指を折りながら1つ1つ確認するように説明してくれる。
「まず…
20代で学生、女子。
ここの駅の近くに住んでる。
モニター内容を一切言わないこと。SNSもダメ。
彼氏がいない。
友達も少なめ希望。」
「って、この前まで私も条件に入ってたんだけど…
ほら、ね?」
と並太さんと腕をからませてくっつく。
「あぁ……ハイハイ。彼氏が出来たから代わって欲しいってことなのね。」
なるほど、と理解しつつ、ふと思う。
「でもさ、それなら断っちゃえばいいんじゃない?」
美紀は人差し指を立て振りながら言う。
「ノンノンノン。金額がすごいのよ。
もったいないじゃない?
だから、いつも金欠で困ってる友人に……って。」
したり顔で見つめてきた。
話は見えた。
この流れは、美紀にバイトを押し付けられるってことか…。
う~ん。何とかシフト調整すれば大丈夫かな。
大学絡みの事では迷惑かけてるし仕方ないなぁ……。
美紀って言い出したら曲げないもんね。
「それって、何日ぐらいやるの?
1、2週間ならなんとかできると思うけど……」
やる気になった?って顔を美紀がする。
「えっと確か……半年だよ。」
「あ~なるほど。6ヶ月……
って、えぇっ長くない??」
とても無理だと頭を振るけど、美紀は引き下がらない。
「長いけど終わったら3桁もらえるよ。」
「………。ひ、ひゃくまん?!」
びっくりして声がひっくり返る。
「うん。そう聞いた。
でも、そこまでしか知らないの。
内容とかそういうのは、本当にやるって決まってから説明するって。」
「とりあえず…。
行って聞いてみなよ。
危ないな~とか思ったら、受けなきゃいいんだし。」
並太さんまで美紀の言葉にうんうん、と頷いている。
「1ヶ月に15万以上もらえるバイトなんて……
キツイに決まってるよう。」
無理という表情を作って訴えるが、最後の嘆きは美紀に響かない。
『今日のは奢るから!さ、行くよ!』と強引にレジに向かってしまう。
何度、泣き言を言っても笑うだけの美紀には勝てず…。
このまま強引にバイト場所まで連行されることとなった。
こういう有無を言わせない強引なところが彼女らしい。
教室から出たときは寒さを感じていたけど少し歩くと身体が火照る。
陽射しが暖かく空気が緩い。
2人で他愛のない話をしながら歩く。
こんな当たり前のことも久々で楽しい。
外に出たことと楽しさで眠気が少し飛んでゆく。
大学の近くにある駅の改札が見えてきた。
「少し遠いけど可愛いカフェ見つけたんだ♪」
と微笑む美紀。
これから電車で3つほど行った駅前のパフェの美味しいカフェに向かうらしい。
私の家の駅からも近いので早く帰れそうで安心だ。
美味しいパフェがあるんだよ~なんて話しながら、LINUで誰かと会話し始める。
スマホを見つめながらニヤニヤして何か連打…って、スタンプか。
なんかやけに嬉しそうだなぁ。
スマホから顔を上げ、親指を立てて見せる。
「OK!席取ってるって!」
「あ、カフェ?」
「うんうん」
美紀はとても楽しそうに笑う。
窓の外の景色はどんどん流れて…目的の駅が近づいてきていた。
人気のカフェだと並ぶからすぐ座れるのは助かるな……
〝 あれ?でも一体誰が?? 〟という疑問が浮かんだ。
けど聞くのも野暮だなと質問を飲み込む。
ま、どうせ行けば分かるよね。
私はのん気に構えることにした。
駅の改札を南口に出る。
南口の方にカフェがあるとは知らなかった。
家からも近いし、ファミレスよりも時給が良かったらバイトしようかな、と思い巡らせていたら店に到着した。
お店の前には数十人の女の子が並んで待っている。
行列の横を早足で通り過ぎ、お店の入り口を目指した。
彼女達の冷たい視線を受けつつ、カフェの扉を開けて店内に足を踏み入れる。
『なんで、こんなダサ女が先に入るの??』って視線が刺さる。
前をゆく美紀は全く動じていないみたい。
美紀は可愛いから……そういうの無いんだろうな…。
ドキドキしながら美紀の後ろにくっ付いて店内を移動する。
入り組んでいてかなり広い客席だ。
キョロキョロしながら店内に見入ってしまう。
全体的にで内装がパステル色に染まってた。
壁紙にマカロンやマシュマロの絵が描かれており、床は大理石の模様でダークブラウン。
テーブルは楕円形のクリーム色で、椅子はピンクや水色、白がランダムに配置されてた。
皆が食べてるパフェも凝っている。
飴細工だと思われる〝 雪の結晶やハート 〟の飾りがパフェの上でキラキラ光っている。
うわぁ……食べるの勿体ないぐらい可愛すぎる。
あ、あの人のプリンのパフェ美味しそう!
ちょっと楽しみになってきたっ。
あ、って、そうじゃなくて……人探ししてたんだ。
端から探していた私達はお店の中央の席へと向かう。
巨大マカロンの置物の影から気配を感じ、美紀と同時に視線を移す。
黒い影が〝 ぬ 〟っ揺れ……
大男が立ち上がって両手を上げてぶんぶん振ってきた!
「ひっ!」
びっくりしすぎて悲鳴に近い声が出てしまった。
日焼けして黒い肌。
背は190cm近くあるんじゃないかと思うほど大きくマッチョ。
〝 白いシャツ 〟はパツパツに弾けそう。
そして顔が……う、馬?
縦長の大きな顔に小さい目。歯は大きくて真っ白。
豪快に笑っている。
「自分、馬場並太(へいた)と言います。」
馬顔の彼はよく通る声で挨拶してくれた。
「並太さん~。ありがとう~!」
美紀が嬉しそうに馬マッチョに抱きつく。
なんだ……この光景。
思考が5秒フリーズする。
店内の視線も一気に集まっている…気がする。
目の前で美女と馬マッチョが腕を絡めながらこちらを向いた。
「みう~~~~。彼氏だよ~。座って!」
美紀の声でハッとして、急いで向かい側の席に着く。
巨大マカロンの置物のおかげで4人席の半分が隠れている。
ふぅ…丸見えじゃなくて良かった。
頭の中はまだ、目の前の2人に混乱中だけど…。
とりあえず落ちつこう。
え、えっと、挨拶、そうだ!挨拶しないと。
「こ、こんにちは。美紀の友達やってます。高畑 海です…」
震える小さい声ではあったが、なんとか返した。
けど、2人とも聞いているのかいないのか、イチャイチャが止まらない。
いまにもキスしそうな距離で見つめ合いながらお互いを褒めあってる。
メニューを開き目の前の2人を遮ぎった。
視界をパフェの写真に移して、何を頼むか考えながら深呼吸。
2人は注文が決まっていたので最後まで悩んでいた私がウエイトレスさんを呼ぶ。
「すみません~」
少し手を上げて近くにいたショートカットの子に声をかける。
美紀は彼氏がころころ変わるので慣れてるよ。
が、今回の彼氏は濃い!
馬マッチョって……
威圧感が半端無いですよ。美紀さん。
心の中で二人には絶対言えない突っ込みをしながらオーダーをする。
「コーヒー2つとイチゴパフェ、バナナパフェ……と、あと桃のジェラード…でお願いします」
ウエイトレスさんは注文をメモしながら、チラチラ並太さんと美紀を見ていた。
2人はおでこをくっ付けたまま見詰め合って腕を絡めてイチャついている。
オーダーを終えペコンとお辞儀をすると、真っ赤な顔で立ち去っていった。
美紀さん、並太さん、ここは公共の場ですよ…
って言っても無駄そうだな。
パフェ……食べたら帰ろう。
頼んだものが届くまで約10分。
その間、完全に2人の世界。
私はオブジェ、蚊帳の外である。
まぁ……話しかけられても困るけど。
彼女の大事な用事ってもしかして彼氏を見せたかったのかなぁ。
そういうことならLINUで充分だよ。
コーヒーやパフェがきてテーブルの上が華やいだ。
相変わらず目の前のカップルと私は線を引いたように会話がない。
黙々と食べ進めながらも、何となく2人を見てしまう。
目の前で美紀が桃のジェラードを並太さんの口に運んでた。
『あ~ん』って、先ほどから食べさせているけれど彼女は一口も食べてない。
『ははっ!これプロティンです!バナナにはこれでしょう!!!』
と言い並太さんはバナナパフェに白い粉をかけて食べてる。
って、プロティンを持ち歩いてるんだ・・。
私はダサ女には似合わないくらい可愛いイチゴのパフェをつついてる。
少し冷静になリ周囲の目が気になりだしてきた。
ここのテーブルの風景は異様に見えるんじゃないか?
案の定、隣のテーブルのお洒落なお姉さまたちが睨んでる。
あちこちから視線を感じる。
場違いな空気を悟ったら居心地が急に悪く感じた。
美紀の用事って彼氏紹介だよね。
挨拶も済んだことだし、食べたらお金置いて先に帰らせてもらおう。
そう決めて美紀に声をかけようとしたとき、並太さんが私に強い視線を送りながら話し始めた。
「美紀さんには……ナンパしてもらって……
まぁ、いわゆる逆ナンってやつですがっ
がははっ!
こんな可愛い娘が自分なんかに?って、驚いたんですよ」
顔を赤くしながら突然、2人の馴れ初めを言い始めた。
えっ。このタイミングで話し始める??
で、内容も濃い!!
並太さんの自由な行動に圧倒されて、どういう顔をしてどういう返答をしていいのか困ってしまう。
言葉に詰まり曖昧に苦笑いしたとき…
〝 ガッシャーンッ 〟
広い店内に金属音が響く。
美紀が彼の言葉に慌てたらしくスプーンを落とす。
手をぶんぶん振り、並太さんの胸を叩きながら真っ赤な顔で抗議してきた。
「も!!!!
や!!!!やめてって!
海にそれ以上言わないでっ!」
甲高い彼女の大声がお店の中に流れる………。
一気に店内の注目を集めて美紀が小さくなってしまった。
いつも冷静な彼女がこんなに慌ててるのは珍しい。
友人に〝 逆ナン 〟していることがばれたら、そりゃ恥ずかしいか。
近くの店員さんにスプーンをお願いしてから2人に言う。
なるべく自然な笑顔で。
「幸せそうだね。仲良しさん(笑)
でも、もう少し小さい声でお願いします」
アクシデントが多々あったが、一緒にパフェを食べている間に場も和んできて、昼も近くなってきた。
緊張が緩んできたせいか眠気が襲ってくる。
もう限界かなと思い〝 帰るね 〟と、話を切り出そうとしとき、美紀がトイレに立ってしまう。
並太さんと向かい合わせで2人きり…
何か話そうか考えをめぐらせてはみるが何も出てこない。
パフェやコーヒーはほぼ完食しており気まずい空気が漂った。
甘い香りがする中、私は4人席の端っこで困惑中。
男の人と二人きりとか無理っ
美紀、早く帰ってきて!
困っていると低い声が上から降る。
「ここから近いみたいですよ。」
並太さんが真剣な顔で話しかけてきた。
急に声を掛けられて頭に?がいっぱい浮かぶ。
近いって何?
このあと遊びにでも行くのかな……この3人で?!
眉を下げて考え込んでいたら、並太さんはハハッと豪快に笑う。
白いキレイな歯を見せる。
「美紀は……話して無かったんですね?
言いにくかったのかな。
バイトを紹介したいって聞いてますよ。」
並太さんの気兼ねしない物言いと、会話の内容に彼への壁は消えていた。
私は驚いて瞬きをしながら、最近の美紀との会話を思い出してみるが…記憶にない話だ。
残ったイチゴをクチに放り込むと、奥歯に甘酸っぱさが広がって頭が少しすっきりする。
「バイト……ですか?
何も聞いていません…
えっと、でも今……実は3つ掛け持ちしていてシフトぎゅうぎゅうなんです。
だからもう、これ以上は無理かなぁ
お金は欲しいですけどね(笑)」
並太さんにフレンドリーに返答している自分に驚く。
急にこんな態度で失礼だと思ってないかな……と様子を窺ってみるも、全く気にした様子は見えなかった。
太い腕を組みながら首をかしげ、
「忙しいんですね…
ん~じゃぁ、なんで美紀は、そんなに忙しい みうちゃんにバイトの紹介なんて。
知ってるはずですもんね?暇じゃないこと。」
と小さい目をパチクリさせた。
ふいに後ろから肩を叩かれる。
「みう、ごめんね。待った?」
うわさの本人が戻ってきた。
トイレが長いと思ったら、ばっちりメイクが決まってる。
流石です。美紀さん。
美紀は元の席に座りながら、片方の眉を上げて意地悪そうな声を出す。
「2人でなぁに~?
並太ぁ、みうにちょっかいかけちゃ駄目だよ~。
この子……処女なんだからっ。」
並太さんがぶっと噴出しながら私をジロジロ見る。
その視線に顔が熱くなってきた。
「美紀っ!………そういうのは止めてよ。
並太さんからバイトの話を聞いてたの。
紹介って何?わたしバイト間に合ってるよ?」
美紀は、あぁ、と言う表情で言葉を続けた。
「紹介っていうよりは、お願いって感じなの。
実は、その仕事ってモニターなんだけど、特殊らしくてね…。
条件がいくつかあって……」
長い指を折りながら1つ1つ確認するように説明してくれる。
「まず…
20代で学生、女子。
ここの駅の近くに住んでる。
モニター内容を一切言わないこと。SNSもダメ。
彼氏がいない。
友達も少なめ希望。」
「って、この前まで私も条件に入ってたんだけど…
ほら、ね?」
と並太さんと腕をからませてくっつく。
「あぁ……ハイハイ。彼氏が出来たから代わって欲しいってことなのね。」
なるほど、と理解しつつ、ふと思う。
「でもさ、それなら断っちゃえばいいんじゃない?」
美紀は人差し指を立て振りながら言う。
「ノンノンノン。金額がすごいのよ。
もったいないじゃない?
だから、いつも金欠で困ってる友人に……って。」
したり顔で見つめてきた。
話は見えた。
この流れは、美紀にバイトを押し付けられるってことか…。
う~ん。何とかシフト調整すれば大丈夫かな。
大学絡みの事では迷惑かけてるし仕方ないなぁ……。
美紀って言い出したら曲げないもんね。
「それって、何日ぐらいやるの?
1、2週間ならなんとかできると思うけど……」
やる気になった?って顔を美紀がする。
「えっと確か……半年だよ。」
「あ~なるほど。6ヶ月……
って、えぇっ長くない??」
とても無理だと頭を振るけど、美紀は引き下がらない。
「長いけど終わったら3桁もらえるよ。」
「………。ひ、ひゃくまん?!」
びっくりして声がひっくり返る。
「うん。そう聞いた。
でも、そこまでしか知らないの。
内容とかそういうのは、本当にやるって決まってから説明するって。」
「とりあえず…。
行って聞いてみなよ。
危ないな~とか思ったら、受けなきゃいいんだし。」
並太さんまで美紀の言葉にうんうん、と頷いている。
「1ヶ月に15万以上もらえるバイトなんて……
キツイに決まってるよう。」
無理という表情を作って訴えるが、最後の嘆きは美紀に響かない。
『今日のは奢るから!さ、行くよ!』と強引にレジに向かってしまう。
何度、泣き言を言っても笑うだけの美紀には勝てず…。
このまま強引にバイト場所まで連行されることとなった。
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もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
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