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第74話 思惑2
しおりを挟むでっぷりとして腹をゆらしながら目の前で笑うシェイン殿下。
そして私の首に手を回してくる副ギルドマスターの『カロリーナ・ヴィスラ』。
このヴィスラ、冒険者ランクは尖晶石級で職種は忍導師。
普通であれば、他の都市や村などのギルドマスターを任せてもいいのだが、本人が他の街へ行く事を頑なに拒否するので仕方なく私の傍に置いている。
髪は淡い紫がかったショートカットで左目には私には読めない文字なのか紋様なのか何かのマーク入りのアイパッチ。
しかしこのアイパッチ、日によって左右変わるので恐らく意味はないのだろう。
上半身は黒装束、下半身は白と黒で彩られた前後にスリットが入ったスカートを着ており、スラリとした脚が覗いている。
脚には脛当て、両腕には籠手を装備し腰には短刀、背中に大きな1本の刀を差し、自信ありげな笑みを浮かべている子供好きの変態女で見た目が子供っぽいと言うだけで私を子供扱いする失礼な奴だ。
◇忍導師
忍術と呼ばれる独自の術と併せ、通常の魔法も使用可能。
剣術や徒手空拳にも秀でており、暗殺も熟す事が出来る上、毒物の扱いにも長けている。
下位の職種として忍がある。
魔法使いの弱点である体術の弱さを克服しており、戦闘職としてほぼ完成形と言える。
「ちょ……ヴィスラ……降ろして。まだ話終わってないから。」
私を持ちあげて高い高いしているヴィスラに降ろす様に言う。
「んもぅ……私の事は『カロリーナ♡』って呼んでって言ってるのにぃ!後でもっと高い高いしてあげるね!!」
いややめて欲しい。
恥かしいしこの間も後ろからいきなり高い高いして危うく心臓が止まるかと思った。
他界他界になってしまう所だった。
ゆっくり降ろして貰い報告を続ける。
「私もその事が信じられず、何かの間違いではないかと思い、再度、報告書を検めなおす様、返したのですが……ギルマスのレトがその者と実際に手合せをしたらしく、その実力は自分に匹敵……もしくはそれ以上の力を有する可能性があるとの事でした……。」
「………それは真か?しかも6属性の魔法を使うのだろう?……御伽噺の世界ではないか。信じられん。」
「殿下、6属性の適正とは言っても、まだ魔法を使ったと言う報告はありません。これは私の推測でしか無いのですが、恐らく魔力が少ないのかもしれません。」
「適正があっても魔力が乏しければ使う事もない。それで武闘家をしている……と言う事か?」
「……恐らく。一定基準の魔法が使えるのであれば、危険を犯してまでわざわざ近接戦闘が得意なウェアウルフ相手に素手で戦いを挑むなど正気の沙汰ではありません。」
「ふむ。……確かにそうだな。しかし真偽を我々自身でも確かめる必要がありそうだな。」
「と、言うと?」
「王都にその者を呼び寄せて余が直接この『眼』で鑑定してやろうではないか。」
シェイン殿下はそう言うと、左手の人差し指と親指で、左目の上下瞼を拡げる仕草をする。
殿下は人の能力を『視る』事が出来る光魔法『能力可視化(アビリティビュー)』の使い手なのだ。
本人も詳しくは口外しないので、どの程度まで視れるのかは不明だが、魔法の属性や魔力量は見えている“らしい”。
「そこまでしなくてもよろしい気がしますが……。」
「優秀な冒険者であれば王国の騎士として引き入れてもよかろう?」
「いえいえ、それでは将来的に我々ギルドの稼ぎ頭がいなくなってします……。」
「兎に角、この件については王より勅命を出す。彼の者を王都へ呼ぶのだ。よいな?」
「……は。仰せの通り致します。殿下。」
その言葉を聞いて満足したのか、王子は御付騎士を伴って部屋を退出する。
「ふぅ……。」
会議が終わり私は息を吐く。
普段の定例会議では各地方ギルドの魔獣出現状況と討伐状況の報告。
そしてギルドの運営状況の報告で終わる筈なのだが、今回は一人の冒険者について言及があった。
『グネグネグネール・パンツ』
このかわいそうな名前の新人冒険者についてだ。
いつもの報告を終えると、軽食を摘まみながら雑談で終える筈が、今回はシェイン殿下から唐突にこの冒険者の話題を振られたのだ。
ギルドから王国側へ報告書は定期的に提出しているが、どうやらちゃんと読んでいるらしい。
このパンツと言う男。
私の推測通り魔力量が低く碌な魔法が使えないのであれば魔法使いとしての需要はほぼないだろう。
しかし武闘家としての力についてはレトの報告書から大体察する事が出来る。
間違いなく金緑石級以上の力を保有している筈だ。
この様な優秀な冒険者をみすみす王国へ引き渡してなるものか。
「お疲れ様だったね。ユーユリスたん。」
「あぁ。いつもすまないね。ヴィスラ。」
「ん、気にする必要はないよー。しかしその『グニャグニャパンツ』だったっけ?」
「『グネグネグネール・パンツ』さんです。」
「変な名前だねぇ。その『グネグネ』って子、久しぶりの実力者みたいじゃないか?レトの奴と互角なんだって?」
「……そう、らしいですね。私も一度、会っておいた方がいいかもしれませんね。」
「会いに行くの?ユーユリスたん。」
「いえ、先ほどもシェイン王子がお話していた通り、こちら(王都)へ来る様、王の勅命で召喚命令が出ますから、その際にお会いできればよいです。」
「王の勅命と言っても、あのデブ王子が勝手に王の名を語って召喚書を作ってるだけでしょー。」
「しかし我々がそれを証明する手立てはありませんからねぇ。」
「それで?どうするの?グネグネ君を王国側に引き渡すの?」
「前途有望な冒険者をおめおめ渡したくないですし……。」
「でもこのままじゃ王国騎士に引き抜かれちゃいそうじゃない?いいの?」
「………ヴィスラ。お願いがあるのですが、頼まれてくれますか?」
「お?その顔は面白そうな事を思いついた時のユーユリスたんの顔だ!高い高いしてあげる!!どっこいしょ!!」
「いやぁ!!やめてぇええ!!」
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