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第48話 帰路2

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「ど、どうかしたんですか?ジンさん?」
「シッ………モンスターがいる。多いな。」


俺が問いかけると、斥候役のジンが魔獣の気配をいち早く察知したのか警戒の色を強める。


「マジか?どれぐらいだ?」
「5………6か?気配を感じる。」


シェールがジンに問い正すと確信した様にジンはそう答える。
俺は直ぐにステータスを開き周囲を索敵する。
そこに表示されたのは『ブラッド・ボア』と赤いビーコンが示されていた。


「……ブラッド・ボア?」


俺は独り言の様にそう呟く。
それに反応してジンが呻く。


「え?な、何で兄ちゃん、分かるんだよ?」
「え、ま、まぁ、何となくと言うか、気配でと言うか……。」
「気配だけで魔獣の種類まで特定出来るのかよ?兄ちゃんマジか?俺でも気配と数を察知するぐらいなのに……。」


俺もこのマップ画面がなければモンスターの接近さえ分からなかった。
気配だけで魔獣を察知するなんてジンは優れた冒険者なんだろう。


「ブラッド・ボア……か。よし、仕事の時間だ!やるぜ!お前ら!!」
「「「おう!!」」」
「パンツ兄ちゃん!嬢ちゃん達!俺達に任せてくれ!!」


シェールが叫ぶと3人がそれに答える。


「で、でも、ブラッド・ボアはキラーアントと同じランクDのモンスターだよ!?」
「嬢ちゃん、キラーアントに殺されかけた俺達を心配してくれるのありがたいが、俺達を信じてくれよ。」


アイルの心配を余所にジンは口元に笑みを湛えながらウィンクする。
そうしている間に林の陰から『ブラッド・ボア』が姿を現した。
マップ画面にも表示される数は6頭。

ブラッド・ボア
ランクD魔獣。全身、血の様な真っ赤な体毛に覆われており、体高約3m~5m。体重2.0t~5.0t程度。
下顎の左右からは、天を突くナイフの様な鋭い牙が伸びておりその牙は魔力で伸縮させる事が出来る。
体毛も鉄の様に固く、並みの攻撃では弾き返される程の防御力を持つ。

あれがブラッド・ボアか……。
俺の記憶の世界ならカバ程の大きさの猪だな。

一際大きいブラッド・ボアが前に進み出ると、真っ赤に光る瞳でこちらを睨み付けまるでこちらを値踏みしている様に感じる。
前衛でシェールが前に立ち、後衛に魔法使(マジックキャスター)いのエチルと、カバールが配置に付く。
……ジンの姿は見えない。


「ビゥモモモッモモモオオモモ!!!!」


一際大きいブラッド・ボアが一鳴きすると、それを合図したかの様に後方のいた5頭が一斉に林の奥からこちらに左右から突進して来た。
左から2頭、正面1頭、右2頭のブラッド・ボアが陣形を組みシェールに迫ってくる。


「キラーアントの時はドジッちまったが、やっとこいつ試せる時が来たな!!」


シェールがそう叫ぶと同時に中段に構えていた剣に魔力を込めると剣から炎が噴き出す。
それを見ても5頭のブラッド・ボアは怯む事はなく突進を止める気配はない。


「行くぜ……戦技……龍拡閃撃ぃぃ!!」


シェールは5頭のブラッド・ボアを刃圏限界のギリギリまで引付けると
炎に纏われた剣を肩口に持ち上げ瞬間的に身体を捻り1回転しながら炎の纏った剣を横に一閃する。

すると5頭のブラッド・ボアを切り裂いた傷口内部から炎が止めどもなく噴出し、ブラッド・ボアは丸焼きとなり息絶えた。
周囲には肉の焼ける香ばしい匂いが漂い始める。


「おいしそうな匂いだぁ……。」
「ホントね……。この戦いが終わったら食べよう……。」


ソフィが馬車から身を乗り出して鼻を『スンスン』させながら呟くと続けてアイルも鼻を『ヒクヒク』させてソフィに同意する。

……確かに焼肉屋みたいな美味しそうな匂いが辺りに充満しているけども……。
でもギルド受付嬢Aミリィさんもモンスターは食材になるって言ってたし……ワイバーンのステーキとかオークも美味しかったし、あれも美味いかもしれないな。 


「やっぱすげぇ!大枚を叩いてこいつを買って良かったぜぇ!!ランクD魔獣を一撃だぜ!?しかも5頭纏めて!凄くね!?」


シェールはエチルとカバールに振り向き満面の笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねている。


「馬鹿!まだ戦闘は終わってないわよ!!」


エチルがそう叫ぶと残りの一際大きい軽く体重4tは優に超えていそうなブラッド・ボアが100km程のスピードで突っ込んでくる。
例えるなら中型トラックがシェールに向かって一直線に。
正に猪突猛進。


「大地の精霊達よ、我の声を聴き願いを叶えたまえ、そしてその力をここに示せ!!『山脈脈動(マウンテン・プロージョン)!!』」


エチルが詠唱を終えるとシェールの前に5m程の高さの土壁が一気にそそり立つ。
以前、野営した時に見せてくれた土魔法だ。
あれでブラッド・ボアの突進を防ぐつもりなのだろう。

ブラッド・ボアも目前に現れた巨大な土壁に気付いている筈だが、それを意に介す事なく、更に加速する。
するとブラッド・ボアの赤い瞳が僅かに輝いた刹那、下顎から伸びる鋭い牙が赤いオーラを纏い、己の体長程まで伸び左右交差『X』の形状に変化していた。


「まさか!?あの土壁を正面から破壊するつもり!?」


エチルは信じられないと言った表情でそう叫ぶと同時にそれが土壁に衝突する。


「ドンッ!!!!…………ガパァ!!!」


エチルが作り出した土壁でブラッド・ボアの一瞬突進が止まったかに思えたが、次の瞬間、ブラッド・ボアが土埃をあげ中央に大きな穴を穿ちシェールに迫る。


「ビユモモモオオオオオモモモモモモ!!!!」
「この猪野郎!!来やがれ!!!」
「ガキンッ!!!」


土壁を突破したブラッド・ボアは一直線に突き進みシェールを撥ね飛ば……されずにシェールは正面から剣でそれの突進を受け止めた。


「ええぇええ!マジ!?」
「すごぉおおい!!」
「幾ら土壁で突進力が弱まったからってあれを正面から受け止めるって……マジか……。」


それを見てアイルとソフィちゃんは驚嘆する。
俺も同じく信じられない面持ちでそれを見ていた。
中型トラックの様な猪の突進を受け止めるなんて……俺は白金級(プラチナ)冒険者の実力をかなり甘く見ていた。
アイルが言っていた様に、白金級(プラチナ)は紛れもなく強者なのだ。
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