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第47話 帰路1

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「……あ、あ、け、今朝は誠に有難うご、御ぜぇめしたぁ……。」


シェール……怖いのか?噛んでるぞ。
今朝、『太陽の風』の4人は前日に酒を飲み過ぎてギルドの集合時間に遅刻してしまったのだ。
まるで蛇に睨まれたなんとやら状態だ。
シェールとジンは一瞬でシュンと縮こまりステフに礼を言う。


「礼はこっちのパンツ兄ちゃんにいいな。おめぇ達を呼びに来てくれたのは兄ちゃんなんだからな!」
「兄ちゃん、すまねぇな。命も助けて貰った上に……借りばっかり作っちまって……。兄ちゃんが呼びに来てくれなかったらマジでやばかったぜ。」


シェールがそういいながら頭を下げる。


「そうだ!兄ちゃん達、村に帰るって言ってたよな?どこなんだ?」
「え?メリッサ村だけど。」


シェールの問いかけにアイルが答える。


「ヨシっ!決めた!!」
「「「?」」」
「借りを返しきれる訳じゃないが、俺達が村まで護衛してやるよ!」
「えぇ!いや、いいよ!別に!そんなつもりで助けた訳じゃないし!」


シェールが護衛の提案をすると、アイルが戸惑った様に答える。


「いや!させてくれ!メリッサ村ってマゾン草原の近くだろ?勿論、依頼料なんていらないし、道中の夜の見張りは俺達が担当するからぐっすり眠れるぞ?」


「ど、どうする?パンツ?」


アイルはまだ戸惑いの表情をしながら俺の顔を覗きこんだ来る。
ソフィちゃんはもうワイバーン肉に齧りついてハムハムしている。


「御好意に甘えていいんじゃないか?護衛してくれるならこちらとしても有り難いし。」
「そ、そうかな……。私はパンツがいれば道中、モンスターに襲われても大丈夫だと思うけど……。」
「夜、見張りをしなくていいんだぞ?道中の5日間。それだけでも有り難いだろ?」
「そ、そうだけど……。」
「ヨシッ!決まりだな!」


シェールはアイル団長の答えを聞かずに俺達に付いて来る事を決めた様だ。
決断早えぇな。シェールの隣りでジンは頭を抱えてるし、この場にいないエチルさんとカバールさんにも相談してない。
こんな調子で突っ走るから他の3人が巻き込まれるんだなきっと。
悪い奴じゃないけど、天然で周囲を振りまわすタイプだ。

そしてそれぞれ夕食を済ませて明日の道程について1階でアイルと相談していると、部屋へ先に戻った4人の部屋から聞き取り辛いが怒声が聞こえて来る。


「……なん……いつ……勝手に………るのよ!」
「……そう……すよ!!買い出しもしなきゃ……んですよ!!」
「アイルちゃん達に……迷惑に……でしょ!!」


相談もなく勝手に俺達に付いていく事を咎められているのだろう。
エチルさんとカバールさんにこっぴどくお説教をされている様だ。
シェールが縮こまり2人にお説教されている状況が目に浮かぶ。
暫くするとエチルさんとカバールさんが俺達の元に降りてきた。


「アイルちゃん、ごめんね。うちのバカが勝手に付いて行くなんて言い出して。迷惑じゃない?」
「え?いいえ?私達は別に……むしろありがたいと思ってますけど。」
「ほんと?……ほら、アイルちゃんとパンツ君……やっぱり……男女の旅でしょ?……邪魔しちゃ悪いかなって思ったのよね。」
「………///!?そ、そそそそ、そんな!パンツとそんな関係じゃないですから!!な、ななななな何を言ってるんですか!?エチルさん!!それにソフィだっているし!!!」


アイルはワタワタと手を振り頭を振り顔を真っ赤にして否定する。
そこまで必死に否定されると寂しいよ。おじさんは……。


「そこで、明日の朝から食料の買い出しに行きたいと思っているので出発は昼からにして頂けないかのご相談に来たのです。」


カバールさんがこのパーティ雑務全般の担当って言ってたな。
買い出しから宿の手配まで……大変だな。
買い出しについては俺達も同様に明日の朝、向かう予定だったので一緒に付き合う事を決めた。そうだ。胡椒も買わないと行けないし!


翌朝


「絶対また来るんだぞ!」


俺達3人が旅支度を終え、1階へ降りると既にステフおっさんが待ち構えておりアイルとソフィちゃんにハグをして『途中で食べてくれ』とポーク肉をパンで挟んだサンドイッチを持たせてくれた。


「あいつら(4人組)も付いていくんだろ?奴らの分も一応、あるからよ。」


ステフおっさん、ホントいい人だな。見た目怖いけど。
1階で雑談をしていると例の4人組が降りてくる。


「おめぇら、アイル達を絶対に守れよ!」
「ヒッ!!あ、当たり前ですよ!おやっさん!!俺達はこう見えても白金級プラチナのパーティですよ?それに兄ちゃん達は命の恩人なんですから俺達の命に代えても守って見せますよ!!安心して下さい!」
「おぅ!宜しく頼むぜ!!もしアイル達に何かあったら……分かってんだろうな?」


ステフがシェールに腕を回し顔を近づけて威嚇する様に耳元で囁くと小さく『ヒッ!』と呻く声が聞こえてくる。
白金級プラチナ冒険者の護衛を怯えさせる宿の店主てどうなんだよ。

そうして俺達はステフおっさんに礼を言い、街で買い出しを終えてメリッサ村、アイル達の故郷へ帰路につく。
道中初日、街道沿いを馬車をアイルが操り、それを護衛する様に四方にシェール達が陣取りのんびり進んでいく。
出発したのは予定通り昼過ぎだったので街道沿いの木陰に馬車を止め、ステフから貰ったサンドイッチをシェール達にも手渡し小休憩を挟む。


「うめっ!!」
「ほんと美味しッ!!」


ジンとエチルさんはサンドイッチを頬張りながら満足そうに笑う。


「あのおっさん、見た目は怖ぇえけど、いい人だよな。」
「えぇ。それに料理も美味しかったですし。」
「だよな!それに久々に帝国の酒も飲めたし最高だったぜ!!またあそこに泊まろ!!」


シェールとカバールもステフの宿を気に入った様だ。


「シェールさん達、ほんとに良かったんですか?金にもならないのに俺達の護衛なんて受けちゃって。」
「ん?シェールでいいぜ。敬称なんて堅苦しいモン俺は苦手なんだ。」
「じゃぁ俺もパンツと呼んで下さい。」
「おう!パンツ兄ちゃん!!」
「それで、良かったんですか?」
「あぁ。命の恩人だからな!全然気にしてねぇぜ!こいつらだって同じ気持ちだよ。」
「そうだよパンツ君。気にする事ないよ。」


エチルさんも頷きながらそう答える。


「それに、マゾン草原にも寄ろうと思ってたしな。手頃な魔獣でも狩って金と経験値を上げてこいつらも早く白金級プラチナに上がって貰わないといけねぇし。」


シェールは3人を親指で指しながらそう話す。


「そうすればもっと………」


シェールの言葉を断ち切る様にジンが俺達に向け手を挙げ周囲を伺う仕草をする。


「ど、どうかしたんですか?ジンさん?」
「シッ………モンスターがいる。多いな。」
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