Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎

文字の大きさ
上 下
46 / 109

第45話 グリフォン便3

しおりを挟む

「それで、あんた達、当然ウチに用があって来たんでしょう?中に入って話しましょ?」


ライオン顔はそう言うと、事務所に入る様に促す。
未だにライオンが普通に喋る事に違和感を覚えながらも俺達は事務所の中へと入っていった。
グリフォン便の事務所は入って直ぐの所にカウンターがあり、その先には応対用と思われる応接セットが設置されていた。
俺達はその応接セットの長椅子に進められるままに座り対面にオカマライオンが座る。
座ると言っても猫が横になる様な感じだ。


「さぁて、私はこのグリフォン便ルク・スエル支所の所長の『プリンシパル・ダモン』と言う者よん。気軽に『プリンちゃん』って呼んでねぇ~ん。宜しくぅ。それで、今回はどちらに行きたいのかしらん?それともお荷物のお届け依頼かしらぁ?」


ライオン顔はねっとりとして口調で挨拶をすると器用にタバコに火を付けながら尋ねて来る。
しかし目の前のプリンちゃん、思っていたより小さいな。シェールに聞いていた話だと体長5m×体高3m程度、俺の記憶の世界では象ぐらいの大きさだと聞いていたのだが。
プリンちゃんは体長3m×体高2m程度でサイやカバぐらいの大きさだ。
勿論、普通の人間からしたら十分に大きいのだが。


「どうしたのぉん?お兄さん?じ~っと私を見つめちゃって。私に惚れちゃったぁ?」


んなわきゃ~ない。
とんでもない事言い出すなこのオカマライオン。略してカマオンめ。


「あ、すみません。グリフォンを始めて見たので見とれてしまいました。……御不快な思いをさせてしまってすみません。」


と言っても、翼の有無だけで見た目、普通のライオンだよ。
見た事あるよ。動物園で。


「あらぁ。私に見惚れるなんて、あなた……いい目を持っているわねぇ~ん。今度、お食事にでもいかなぁ~い?」


何言ってんだ?このカマオン。
と言うか、多分、性別オスだよね?たてがみあるし、これでメスなら申し訳ないけども。


「しかし綺麗な翼ですね。」


するとライオン顔は顔を赤らめながらまんざらでもない口調で答える。


「まぁねぇ。この翼は私達グリフォンにとって全てと言っても過言じゃないからぁ、お手入れも十分にしているわよぉん。」


そう言うとカマオン……プリンちゃんは金色の翼をバサァと広げて前足で毛づくろいを始めた。
その前足の爪にもマニキュア?が施されている。
アイルよりも女子力高いな。このカマオン。
俺はチラと横目でアイルとソフィちゃんを見やると二人とも俺と同じくプリンちゃんに視線が釘付けだ。


「それで、要件はなにかしらぁん?」
「え~とですね、今後、利用させて頂く事もあるかもしれないので、料金とか発着先とか教えて頂こうかと思って来ました。」
「あら、そ~ぉ?是非使ってねぇ~ん。詳細はこれに書いているから持っていっていいわよぉん。」


プリンちゃんはごろりと体勢を後ろに向けるとそこから1枚の紙片を取り出し俺に渡してきた。
そこには料金表と発着先が記載されていた。

え~と……ルク・スエルからロマーデンまでは……金貨1枚/1名か。
俺の記憶の世界観で換算すると10万円/1名か。
シェールが言っていたがやっぱり高いな。


「その下にも書いてるけど、利用する日取りが1か月前に分かっていて利用するつもりなら早期割引もあるわよぉ~ん。」


俺は視線を下に移すと『早期予約割引で更にお得!!』とか太字で書いてる。
早期予約割引なら銀貨7枚/名(7万円/名)か。
記憶の中にある航空会社も同じ様な事をしていた様な気がする。早割とかやってたな。


「お兄さんが私とお食事に行ってくれるなら半額でもよくってよぉ~ん。」


プリンちゃんはそう言うと、俺に流し目を送ってくる。
俺はゾゾゾと寒気を感じてアイルに縋りつく。


「パンツ、食事、付き合ってあげれば?安くなるってさ。」
「いやいや、それは……流石に……。」
「だってオスでしょ?このグリフォン。」
「んまぁあ~!!失礼な小娘ね!!『オス』だなんて!!私はそこらの女に負けないぐらい心は『乙女』なのよ!!」
「いやでもオスじゃん。」
「違うわよぉ~!!あんたみたいなガサツな小娘と違って私の心はレディなのよぉん!!」
「でもオスじゃん。」
「ムキィィイイイィイィイ!!!」


オカマグリフォンが机をバンバン叩いて悔しがっている。
やっぱりオカマグリフォンだったんだ。
カマグリ?カマフォン?………………プリンちゃんでいいや。
プリンちゃんは翼をバッサバッサとはためかせてまだ悔しそうだ。


「所長……何やってんスカ?」
「ィィイイイ……あッ!『キュウちゃぁん!』お疲れ様ぁ!配達終わったのぉん?」


『キュウちゃぁん!』と呼ばれたグリフォン、今度こそイメージ通りのグリフォンの顔、鳥の顔が奥の大きな引き戸扉からこちらを覗き込み様子を伺っていた。


「キュウちゃぁぁあん!聞いてよぉおお!!この小娘が私の事を『オス』だとか言うのよぉお!!酷いと思わなぁああい?」


プリンちゃんはアイルを指して喚いている。


「いや所長、どこから見ても立派な『オス』じゃないスカ。」
「まぁ~!なぁ~に言ってんの!キュウちゃん!?私の心は『女』だっていつも言ってるでしょぉ~ん!!」
「でもオスじゃないスカ。それにその立派なたてがみ(笑)」
「んもぉぉおぉおぉお!!やっぱりこのたてがみがいけないの?剃っちゃう?剃っちゃった方がいいわよね!?あなたもそう思うでしょぉん?」


プリンちゃんは俺を見ながら同意を求めてくる。
いや、俺に振られても……。
プリンちゃんは一回り大きい『キュウちゃん』と呼ばれるノーマルグリフォンの胸をバシバシ叩いている。


「そんな事より所長、五日前に王都に向かった『カン』の奴が帰って来ないッス。」
「え?『カンちゃん』が?帰って来るのはいつだったかしらぁん?」
「予定では昨日にはこっちに帰り着いてないとおかしいッス。あいつは『速急便』担当だったッスから、ここから王都まで四日もあれば往復できる筈ッス。」


『速急便』?俺は手元の料金表を見ると裏には荷物専用お届け便として『通常便』と『速急便』の料金表が記載されていた。
『速急便』はどうやら『通常便』より割高だが荷物を早く届けてくれるらしい。
その料金表にはディフォルメされた鳥グリフォンがウィンクして翼で親指を立てている。


「あいつが帰って来なくて荷物が期日通り届けられなくなってるッス。」
「あらぁ、それは困ったわねぇ……。『チョーちゃん』は?」
「『チョー』の奴は今、ロマーデンの通常便担当なんで今朝出発したばかりッス。」
「仕方ないわねぇ……お休み中で申し訳ないけど、『ブーサちゃん』に休出をお願いしないと行けないわねぇ……。」
「その方がいいと思うッス。俺は今から王都へ通常便配達に行って来るッスから、本部の連中に『カン』の奴の事を聞いてみるッス。」
「すまないわねぇん。宜しく頼むわぁん。気を付けてねぇん。」


2人?2匹?2頭?の話が終わると、プリンちゃんはこちらに向き直る。


「ごめんなさいね。ちょっと忙しくなりそうだからまた今度来て貰えるかしらぁん?そっちの小娘は来なくていいわよぉぉん!!」


俺達は料金表を片手に持ち、そそくさとその場を後にした。
アイルとプリンちゃんは帰り際までお互いに『ベー』と舌を出して挑発しあっていた。

俺達はそのまま宿へ戻ろうと道を歩いていると、上空にあのオカマライオンのプリンちゃんがバッサバッサと翼をはためかせ天を駆ける様に飛んで行くのが見えた。

飛べたんだ。あのライオン…………じゃなくてグリフォン。
『さて!『ブーサちゃん』に休出のお願いしに行かなきゃ!!』と帰り際に聞こえたからきっとそれだろう。
所長さんも大変だね。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...