上 下
31 / 109

第30話 悪魔の水との付き合い方

しおりを挟む


「……何の話してんのぉ?」

ドキッ!!

声の方向に目をやると、アイルが手摺に手をかけて階段を下りてくる所だ。
しかし二日酔いなのか、もう片方の手で頭を押さえている。


「うううぅぅうう……気持ち悪いし頭、痛いぃい……。パンツ、私に何か変な事してないでしょうねぇ?」


ドキキッ!!
アイルをおぶって『背中でoppaiの感触を存分に堪能してました』なんて言える訳がない……。


「え?な、なな、なんの事かな?俺は何もしてないぞ?」
「…………あっ、そう。うぅぅ、ぎもじわるぃぃい。」


そう言いながらアイルはトイレに行ってしまった。
調子が悪いからなのか、いつものツッコミ鉄拳制裁がなかったな。

ちなみにこの世界のトイレも水洗式。
水の魔石が設置してあり属性に関係なく魔力を流すと水が流れる仕組みだ。
この世界の住人は大小問わず魔力を扱えるからな。
息をするぐらい当たり前の存在だ。
しかし6属性の魔法を扱えるのは適正が必要となってくる。


「さて、夜も更けて来たし、晩飯の用意でもするか。宿屋で手伝ってくれる話は考えといてくれな。勿論、給金も出すからよ。」
「分かりました。……あ、晩飯の準備、俺も手伝いますよ。」

ステフおっさんと元おっさんの俺達で厨房でオーク肉を焼き、スープを注いで人数分用意していく。
するとそこに料理の匂いに釣られてきたのか『太陽の風』の4人組が部屋から出て来る。
4人は宿に来てから部屋で武具の手入れや体力回復の為に寝て過ごしていた。


「おおうまそうだな!おい!暖かい食事は久しぶりだぜ!!」


テーブルに並べられた料理をみてジンがそう叫ぶ。


「わぁほんと!!」
「料理もだが、あれだろ?やっぱし!!」
「そうですねぇ…。じゅるり」

エチルさん、シェール、カバールさんがそれぞれ呟く。


「親父さん!!帝国の酒!!持って来てくれ!!」
「お?どの酒がいいんだ?」
「そうだなぁ……まずはこのオーク肉に合う酒がいいなぁ。」
「そうか。それならこいつがいいだろうな。」


シェールがリクエストするとステフおっさんが、赤い液体の入った瓶を取り出しコップに注ぎいれて4人に提供していく。


「それは去年の赤葡萄酒だが肉料理に合うと思うぞ。」


4人はそれぞれ思い思いのペースで飲み始める。


「うまっ!!やっぱり帝国のお酒は格別ね!!」


エチルさんがその赤葡萄酒の味に感嘆の声を漏らす。
他の3人も満足そうに飲み干しあっと言う間に1本を空けてしまった。
俺はその間にアイルとソフィちゃんを呼びに2階へ上がる。


「アイル~?ソフィちゃ~ん。晩御飯の時間だよ~。」


俺は扉をノックしてそう告げる。
すると中からソフィちゃんが直ぐに出てきた。
あれ?アイルは?


「ソフィちゃん、お姉ちゃんは?」
「頭が痛いから食事いらないって。」


まだ二日酔いみたいだな。
無理に起こすのも悪いし、少し顔色だけでも見て行くか。


「食事、ソフィちゃんの分、用意出来てるから冷めない内に先に降りて食べてていいよ。」
「うん。分かったぁ!」


パタパタと走ってソフィちゃんは階段を降りて行く。
さて、アイル様のご機嫌はいかがですかね?


「アイル~?入るよ~?」
「パンツ?」
「大丈夫か?」
「う~~まだ頭が痛いぃ~。お酒って飲むと皆こんな事になるの?何?お酒って毒なの!?」


アイルはベッドに横になり頭に手をやり呻いていた。


「飲み過ぎたり、お酒に弱い人はアイルみたいに体調を崩す人もいるねぇ……。飲み過ぎれば毒にもなるけど、酒は百薬の長とも言うしねぇ……。」
「何?それ?」
「ま、何事も『ほどほど』にって事だね。」
「~~……もうお酒は二度と飲まないわ。」
「うん。アイルは止めておいた方がいいかもね。」


俺の為にも。
酒飲んで毎回、暴れてボコられそうだし。


「今日はこのまま寝てた方がいいみたいだな。何か必要な物とかる?」
「……水が欲しい。」
「水?水ならアイルが魔法で出せるじゃないか?」
「頭が痛くて魔力の制御が出来ないのよ……。」


へぇ~。体調が悪いと魔法も使いづらくなるのか。


「よし。ちょっと待ってて。直ぐ水持ってくるからさ。」


俺は直ぐに1階に降りてピッチャーに水を入れて用意すると、
汗もかいているだろうから桶に水を入れ、身体を拭ける布も用意する。


「アイル。ここに水、置いておくからな?後、気分が良くなってからでいいから汗を拭いた方がいいよ。」
「……パンツって……気が利くのね。ありがとう。」


俺はベッド脇にピッチャーとコップ、桶と布を用意すると、アイルが感謝の言葉を発したではないか。
あれ?調子狂うな。
ここ数日、殴られてばかりだったし。(笑)
しかしこうして弱々しくしているアイルもカワイイな。
いつもこれぐらい萎しおらしくしていればもっと魅力的なのになぁ……。


「よし!感謝されたついでにアイルの身体も綺麗に拭いてあげまし……」


シュラン……。
何時の間に剣を抜いたのか、俺の喉元にアイルが無言で剣先を付きつける。


「や、やだなぁ……アイル様……冗談ですよ?ジョーダン。マイ○ルジョーダン。なんつって!!(テヘペロぺロ)」
「……何?マ○ケルジョーダンて。意味わからないし。もういいから出て行ってよ。」
「承知しました!アイル様!!」


俺はそそくさと部屋を後にした。
下に降りるとソフィちゃんとステフのおっさんが一緒に食事をしていた。
俺もそこに加わり、多少なりお手伝いした晩飯にありつく。


「うん!美味い!!このオーク肉のハーブソテー美味しい!」
「気に入ったか?」


ステフおっさんが嬉しそうに語りかけてくる。
これは豚カツにすればもっと美味くなりそうだ!是非やりたい!!後はポークカツレツとか……うぅうう。パン粉と卵があれば出来そうだし今度やってみよう。

ソフィちゃんも美味しそうにもぐもぐと一生懸命にオーク(ポーク)ソテーを食べている。
カワイイなぁ。ほんと、小動物ハムスターみたいでカーワイイ。
ステフのおっさんと元おっさん俺の二人で微笑ましい気持ちになりながらソフィちゃんの食事風景を見守る。

そして夜は更けていっていった。


翌日……


起きろー!!!パンツ~お・き・ろーーー!!!


ドンドンドンドン!!


朝早くから騒々しく俺の部屋を叩く音がする。


「何だ‥…うるさいなぁ……頭いたいぃ………。」


実は昨夜、俺も『太陽の風』の4人とステフおっさんも交えて酒盛りになってしまい二日酔いになってしまっていた。


「パンツ!入るよ~!!入っちゃうよ~!!!」
「ん~~何だよ……女の子が『入る』なんてハシタない事言っちゃいけません……。」

ガチャ……タタタタタ……


「とぉ~~っ!!!」
「やぁぁあぁあ!!」
「ぐぅぇぇッ!!」


二日酔いで苦悶してベッドで寝ている俺に対してアイルとソフィちゃんがジャンピングボディプレスを仕掛けて来た。


「な~に?パンツ!元気ないわね!!今日も冒険者日和だよ!!」
「だよ~!!」


アイルとソフィちゃんが爽やかな笑顔を浮かべながら部屋の窓を開放する。


「ううぅぅ……余り大きな声で話さないでくれ……頭痛い……。」
「全く。だらしないわねぇ!!私なんかもう回復したわよ!!」
「そりゃ半日以上も寝てれば回復するだろ……。」
「お蔭でもうお腹ペコペコよ!!早く朝食に行くよ!!」
「行くよ~!」


ソフィちゃんが俺のベッドを容赦なくバンバン叩きながら催促する。
うぅぅ……子供って手加減って知らないから痛い……。
このままソフィちゃんも成人したらアイルみたいに口より先に手が出る様な子に育ってしま………。


ドカッ!!


Oh!!痛ッった!!
アイルが俺の顔面にエルボーを落として来る。


「また変な事考えてたでしょ?」


………ホント怖い。この子。


「パンツ……昨日はありがとね。」
「え?」
「さ!朝食に行くよ!!」
「え?今何て?」
「もう///いいから!!早くいくよ!!」


アイルは照れながら俺の手を引っ張り無理矢理起こそうとする。
感謝された?何?ギャップルールですか?
これは俺の記憶の世界でもあったツンデレ属性と言う奴ですか!?

くぅうう……悔しいけど感謝されて嬉しいと思ってしまった。
恐るべし!ツンデレ!!
俺はアイルとソフィちゃんに無理矢理ベッドから引きづり出されて朝食の為に1階へ降りて行った。
そこには丁度、ステフおっさんがテーブルに朝食を配膳している所だった。


「お?パンツ兄ちゃん、起きたか?」


ステフおっさん、昨夜は俺以上に飲んでいた筈なのにケロリとしている。


「ステフさん、昨夜あんなに飲んだのに何ともないんですか?」
「あったりめぇ~だろ!!俺をどこの出身だと思ってんだ?酒の国、プリンタイ帝国の出だぜ!?あの程度じゃ飲んだ内にもはいりゃしねーや!!」


そう言いながら『ガハハハハ』と快活そうに笑うステフおっさん。
すげぇな……ステフおっさんだけで軽く赤葡萄酒を10本以上空けてた気がするが……。

そして俺達3人は席に着く。
今日の朝食はパンと目玉焼き、そして昨夜余分に作ってあったオーク肉ソテーを細切れにしてキャベツと一緒に煮込んだスープだ。

アイルは余程、腹が減っていたのか、朝食をガツガツと貪りスープのおかわり3杯目をステフおっさんにお願いしている。
昨夜から何も食って無かったから仕方ない。
ソフィちゃんはその隣でパンをハムハム啄ついばんでいる。
対照的な姉妹だなぁ……。


「ムグムグ……パンツも早く食べなさいよ。」
「アイルも今、俺の気持ち分かるだろ?頭痛いんだよ……。」
「え?何で?」
「昨日、少し飲み過ぎてさ……。」
「バッカじゃないの!?何で飲みすぎるの?頭、痛くなって気持ち悪くなるのは分かってるんだから加減すればいいのに。パンツも昨日、『ほどほどに』って言ってたじゃない。」


そう。そうなんだよね。分かってるんだよ。飲み過ぎは良くないって……。
でもお酒の力って怖いよね。
飲んでる間は気分が高揚してついつい飲み過ぎてしまう『悪魔の水』だよ。ホント……。

次回から気を付けよう……。ってこの戒めを守れた事が無いんだけど。
俺はパンを一齧りしてスープで無理矢理流し込む。
そう言えば、例の4人組は大丈夫だったかな?


「ステフさん、一緒に飲んだ4人組は大丈夫でしたか?」
「あいつらもまだ起きて来てねぇな。兄ちゃんと一緒で二日酔いになってんじゃねーか?」


やっぱりあの4人もKOされてたか。
あれ?そう言えば、今日、ギルマスに報告に行くとか言ってなかったっけ?




……………ま、いいか!

まだ朝早いし昼頃までに起きて来なかったら起こしてやろう。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。 突然足元に魔法陣が現れる。 そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――― ※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...