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第30話 悪魔の水との付き合い方
しおりを挟む「……何の話してんのぉ?」
ドキッ!!
声の方向に目をやると、アイルが手摺に手をかけて階段を下りてくる所だ。
しかし二日酔いなのか、もう片方の手で頭を押さえている。
「うううぅぅうう……気持ち悪いし頭、痛いぃい……。パンツ、私に何か変な事してないでしょうねぇ?」
ドキキッ!!
アイルをおぶって『背中でoppaiの感触を存分に堪能してました』なんて言える訳がない……。
「え?な、なな、なんの事かな?俺は何もしてないぞ?」
「…………あっ、そう。うぅぅ、ぎもじわるぃぃい。」
そう言いながらアイルはトイレに行ってしまった。
調子が悪いからなのか、いつものツッコミ鉄拳制裁がなかったな。
ちなみにこの世界のトイレも水洗式。
水の魔石が設置してあり属性に関係なく魔力を流すと水が流れる仕組みだ。
この世界の住人は大小問わず魔力を扱えるからな。
息をするぐらい当たり前の存在だ。
しかし6属性の魔法を扱えるのは適正が必要となってくる。
「さて、夜も更けて来たし、晩飯の用意でもするか。宿屋で手伝ってくれる話は考えといてくれな。勿論、給金も出すからよ。」
「分かりました。……あ、晩飯の準備、俺も手伝いますよ。」
ステフおっさんと元おっさんの俺達で厨房でオーク肉を焼き、スープを注いで人数分用意していく。
するとそこに料理の匂いに釣られてきたのか『太陽の風』の4人組が部屋から出て来る。
4人は宿に来てから部屋で武具の手入れや体力回復の為に寝て過ごしていた。
「おおうまそうだな!おい!暖かい食事は久しぶりだぜ!!」
テーブルに並べられた料理をみてジンがそう叫ぶ。
「わぁほんと!!」
「料理もだが、あれだろ?やっぱし!!」
「そうですねぇ…。じゅるり」
エチルさん、シェール、カバールさんがそれぞれ呟く。
「親父さん!!帝国の酒!!持って来てくれ!!」
「お?どの酒がいいんだ?」
「そうだなぁ……まずはこのオーク肉に合う酒がいいなぁ。」
「そうか。それならこいつがいいだろうな。」
シェールがリクエストするとステフおっさんが、赤い液体の入った瓶を取り出しコップに注ぎいれて4人に提供していく。
「それは去年の赤葡萄酒だが肉料理に合うと思うぞ。」
4人はそれぞれ思い思いのペースで飲み始める。
「うまっ!!やっぱり帝国のお酒は格別ね!!」
エチルさんがその赤葡萄酒の味に感嘆の声を漏らす。
他の3人も満足そうに飲み干しあっと言う間に1本を空けてしまった。
俺はその間にアイルとソフィちゃんを呼びに2階へ上がる。
「アイル~?ソフィちゃ~ん。晩御飯の時間だよ~。」
俺は扉をノックしてそう告げる。
すると中からソフィちゃんが直ぐに出てきた。
あれ?アイルは?
「ソフィちゃん、お姉ちゃんは?」
「頭が痛いから食事いらないって。」
まだ二日酔いみたいだな。
無理に起こすのも悪いし、少し顔色だけでも見て行くか。
「食事、ソフィちゃんの分、用意出来てるから冷めない内に先に降りて食べてていいよ。」
「うん。分かったぁ!」
パタパタと走ってソフィちゃんは階段を降りて行く。
さて、アイル様のご機嫌はいかがですかね?
「アイル~?入るよ~?」
「パンツ?」
「大丈夫か?」
「う~~まだ頭が痛いぃ~。お酒って飲むと皆こんな事になるの?何?お酒って毒なの!?」
アイルはベッドに横になり頭に手をやり呻いていた。
「飲み過ぎたり、お酒に弱い人はアイルみたいに体調を崩す人もいるねぇ……。飲み過ぎれば毒にもなるけど、酒は百薬の長とも言うしねぇ……。」
「何?それ?」
「ま、何事も『ほどほど』にって事だね。」
「~~……もうお酒は二度と飲まないわ。」
「うん。アイルは止めておいた方がいいかもね。」
俺の為にも。
酒飲んで毎回、暴れてボコられそうだし。
「今日はこのまま寝てた方がいいみたいだな。何か必要な物とかる?」
「……水が欲しい。」
「水?水ならアイルが魔法で出せるじゃないか?」
「頭が痛くて魔力の制御が出来ないのよ……。」
へぇ~。体調が悪いと魔法も使いづらくなるのか。
「よし。ちょっと待ってて。直ぐ水持ってくるからさ。」
俺は直ぐに1階に降りてピッチャーに水を入れて用意すると、
汗もかいているだろうから桶に水を入れ、身体を拭ける布も用意する。
「アイル。ここに水、置いておくからな?後、気分が良くなってからでいいから汗を拭いた方がいいよ。」
「……パンツって……気が利くのね。ありがとう。」
俺はベッド脇にピッチャーとコップ、桶と布を用意すると、アイルが感謝の言葉を発したではないか。
あれ?調子狂うな。
ここ数日、殴られてばかりだったし。(笑)
しかしこうして弱々しくしているアイルもカワイイな。
いつもこれぐらい萎しおらしくしていればもっと魅力的なのになぁ……。
「よし!感謝されたついでにアイルの身体も綺麗に拭いてあげまし……」
シュラン……。
何時の間に剣を抜いたのか、俺の喉元にアイルが無言で剣先を付きつける。
「や、やだなぁ……アイル様……冗談ですよ?ジョーダン。マイ○ルジョーダン。なんつって!!(テヘペロぺロ)」
「……何?マ○ケルジョーダンて。意味わからないし。もういいから出て行ってよ。」
「承知しました!アイル様!!」
俺はそそくさと部屋を後にした。
下に降りるとソフィちゃんとステフのおっさんが一緒に食事をしていた。
俺もそこに加わり、多少なりお手伝いした晩飯にありつく。
「うん!美味い!!このオーク肉のハーブソテー美味しい!」
「気に入ったか?」
ステフおっさんが嬉しそうに語りかけてくる。
これは豚カツにすればもっと美味くなりそうだ!是非やりたい!!後はポークカツレツとか……うぅうう。パン粉と卵があれば出来そうだし今度やってみよう。
ソフィちゃんも美味しそうにもぐもぐと一生懸命にオーク(ポーク)ソテーを食べている。
カワイイなぁ。ほんと、小動物ハムスターみたいでカーワイイ。
ステフのおっさんと元おっさん俺の二人で微笑ましい気持ちになりながらソフィちゃんの食事風景を見守る。
そして夜は更けていっていった。
翌日……
起きろー!!!パンツ~お・き・ろーーー!!!
ドンドンドンドン!!
朝早くから騒々しく俺の部屋を叩く音がする。
「何だ‥…うるさいなぁ……頭いたいぃ………。」
実は昨夜、俺も『太陽の風』の4人とステフおっさんも交えて酒盛りになってしまい二日酔いになってしまっていた。
「パンツ!入るよ~!!入っちゃうよ~!!!」
「ん~~何だよ……女の子が『入る』なんてハシタない事言っちゃいけません……。」
ガチャ……タタタタタ……
「とぉ~~っ!!!」
「やぁぁあぁあ!!」
「ぐぅぇぇッ!!」
二日酔いで苦悶してベッドで寝ている俺に対してアイルとソフィちゃんがジャンピングボディプレスを仕掛けて来た。
「な~に?パンツ!元気ないわね!!今日も冒険者日和だよ!!」
「だよ~!!」
アイルとソフィちゃんが爽やかな笑顔を浮かべながら部屋の窓を開放する。
「ううぅぅ……余り大きな声で話さないでくれ……頭痛い……。」
「全く。だらしないわねぇ!!私なんかもう回復したわよ!!」
「そりゃ半日以上も寝てれば回復するだろ……。」
「お蔭でもうお腹ペコペコよ!!早く朝食に行くよ!!」
「行くよ~!」
ソフィちゃんが俺のベッドを容赦なくバンバン叩きながら催促する。
うぅぅ……子供って手加減って知らないから痛い……。
このままソフィちゃんも成人したらアイルみたいに口より先に手が出る様な子に育ってしま………。
ドカッ!!
Oh!!痛ッった!!
アイルが俺の顔面にエルボーを落として来る。
「また変な事考えてたでしょ?」
………ホント怖い。この子。
「パンツ……昨日はありがとね。」
「え?」
「さ!朝食に行くよ!!」
「え?今何て?」
「もう///いいから!!早くいくよ!!」
アイルは照れながら俺の手を引っ張り無理矢理起こそうとする。
感謝された?何?ギャップルールですか?
これは俺の記憶の世界でもあったツンデレ属性と言う奴ですか!?
くぅうう……悔しいけど感謝されて嬉しいと思ってしまった。
恐るべし!ツンデレ!!
俺はアイルとソフィちゃんに無理矢理ベッドから引きづり出されて朝食の為に1階へ降りて行った。
そこには丁度、ステフおっさんがテーブルに朝食を配膳している所だった。
「お?パンツ兄ちゃん、起きたか?」
ステフおっさん、昨夜は俺以上に飲んでいた筈なのにケロリとしている。
「ステフさん、昨夜あんなに飲んだのに何ともないんですか?」
「あったりめぇ~だろ!!俺をどこの出身だと思ってんだ?酒の国、プリンタイ帝国の出だぜ!?あの程度じゃ飲んだ内にもはいりゃしねーや!!」
そう言いながら『ガハハハハ』と快活そうに笑うステフおっさん。
すげぇな……ステフおっさんだけで軽く赤葡萄酒を10本以上空けてた気がするが……。
そして俺達3人は席に着く。
今日の朝食はパンと目玉焼き、そして昨夜余分に作ってあったオーク肉ソテーを細切れにしてキャベツと一緒に煮込んだスープだ。
アイルは余程、腹が減っていたのか、朝食をガツガツと貪りスープのおかわり3杯目をステフおっさんにお願いしている。
昨夜から何も食って無かったから仕方ない。
ソフィちゃんはその隣でパンをハムハム啄ついばんでいる。
対照的な姉妹だなぁ……。
「ムグムグ……パンツも早く食べなさいよ。」
「アイルも今、俺の気持ち分かるだろ?頭痛いんだよ……。」
「え?何で?」
「昨日、少し飲み過ぎてさ……。」
「バッカじゃないの!?何で飲みすぎるの?頭、痛くなって気持ち悪くなるのは分かってるんだから加減すればいいのに。パンツも昨日、『ほどほどに』って言ってたじゃない。」
そう。そうなんだよね。分かってるんだよ。飲み過ぎは良くないって……。
でもお酒の力って怖いよね。
飲んでる間は気分が高揚してついつい飲み過ぎてしまう『悪魔の水』だよ。ホント……。
次回から気を付けよう……。ってこの戒めを守れた事が無いんだけど。
俺はパンを一齧りしてスープで無理矢理流し込む。
そう言えば、例の4人組は大丈夫だったかな?
「ステフさん、一緒に飲んだ4人組は大丈夫でしたか?」
「あいつらもまだ起きて来てねぇな。兄ちゃんと一緒で二日酔いになってんじゃねーか?」
やっぱりあの4人もKOされてたか。
あれ?そう言えば、今日、ギルマスに報告に行くとか言ってなかったっけ?
……………ま、いいか!
まだ朝早いし昼頃までに起きて来なかったら起こしてやろう。
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