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第29話 お料理レッスン

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「パンツ兄ちゃん、アイルはどうした?」
「あの後、ひと暴れしたら直ぐに寝ちゃったので二階の部屋で寝かしてあります。
と言うか、ステフさん酷いですよ。逃げたでしょ?」

俺はアイルが酔っぱらったタイミングで席を外したステフおっさんに抗議の声を上げる。

「ん~?何の事だぁ?逃げてないぞ?俺はソフィを連れて買い物に行っただけだし?な?ソフィ?」
「うん!!」

ソフィちゃんは何かの分厚い書物を大事そうに抱えてニコニコ顔だ。

「ソフィちゃん、何か買って貰ったの?」
「うん!出たばかりの『風魔法大全』を買って貰っちゃったぁ!!最新刊だよぉぉ!!お兄ちゃんも一緒に読む?読むよね?読まなきゃ損!!ほら読みたくなってきた!!も~う読むしかない!!さぁ読もう!!読むっきゃない!!」
「むぎゅぅう」


そう言いながら辞書みたいな本を俺の顔面に押し付けてくる。
ソフィちゃん……押し売りセールスマンみたいになってるよ……。

しかしソフィちゃん、魔女っ娘だから将来ツインテールとかして衣装を俺がプロデュースしちゃおうかなぁ。『セー○ームーン』とか『プ○キュア』みたいな衣装を。
ソフィちゃんも美少女だからきっと似合うぞぉ!

「で、こいつら何だ?」

ステフが両腕にぶら下げている二人を睨み付けながら訝しげに尋ねる。

「あぁ……その人達がさっき話した、この宿に予約のお願いした4人ですよ。」
「何だ。客だったのか。俺の宿で騒ぎを起こすんじゃねぇぞ。直ぐに叩きだすからな。」
「「コクコクコク!!」」

シェールとジンは頭を高速で上下に動かして頷いていた。
そしてアイルは結局、昼間は起きて来なかった。

ソフィちゃんもステフおっさんに買って貰った魔術書を部屋で読み耽って引きこもってしまったので俺だけやる事がないので以前、この宿の朝食で食べたトマト煮込みのスープの作り方をステフに教えて貰えないか尋ねる。
あれ美味かったんだよな。

「ステフさん、前、朝食で出したトマト煮込みのスープの作り方を教えて貰えないですか?」
「ん?どうしたんだ?いきなり。」
「美味しかったので、自分でも作れたらいいなぁと思ったんですが……でも調理レシピ非公開とかなら諦めますけど……。」
「そうか!美味かったか!別にいいぞ!!隠し立てする様なものじゃねぇし美味いと言ってくれたら俺も嬉しいしな!」

そう言うとステフは嬉しそうに笑いながらキッチンに案内してくれた。
綺麗なキッチンだなぁ。
そこにはきちんと整理整頓がされている綺麗な厨房があった。

日本の個人で経営している厨房が油まみれの様な料理店ではなく、清潔に整えられている。
巨漢のステフおっさんがその厨房に入ると窮屈そうだが特に不自由を感じさせない身のこなしで料理の下ごしらえを始める。
丁度、これから夜の食事提供の為に下ごしらえをするらしい。

「ステフさん、野菜とか材料を切るぐらいなら俺でも出来るので手伝いますよ?」
「お?そうか?助かる!いつも1人で下ごしらえの準備してるからな。いつもぎりぎりなんだよ。」

今日の宿泊客で晩御飯を用意するのは俺達3人と『太陽の風』の4人、そして残り2人組のパーティ分で合計9人分らしい。

今夜の晩飯は、俺のリクエストしたトマト煮込みに豆を入れたスープと黒パン、そしてオーク肉の香草焼きの3品との事。
最初にトマト煮込みの準備をする。

玉ねぎっぽい野菜とキャベツっぽいの野菜を適当に乱切りにし火にかけた大なべに油をひいてそこに二つの食材を投入して軽く炒めた後、水を注ぎいれ煮立ってきたらトマトを切りまくりその鍋に次々投入して一煮立ちさせて塩と胡椒で味を調えたら完成だ。
意外に簡単だな。俺の世界ならここでコンソメとかいれそうだがこの世界にはないのかな?

と言うか、コンロに火をつける時、ステフがいきなり指先から炎の魔法を使用したので驚いた。
魔法も使えるのか……冒険者をしていたとはアイルから聞いてたが、もしかしてステフのおっさんてこのガタイでまさかの魔法使マジックキャスターいだったりする?
見た目はゴリゴリの戦士風なんだけど……。

この世界でのコンロには炎の魔石が使われており、火打ち石や魔力で火を起こす切欠を与えると、火が付く仕掛けだ。
炎の魔石が俺の知っているガスの役割なんだな。
火力の調整も魔石で簡単に出来る。

う~む。やはり科学が発達していないのは魔法による影響だなこれは。
なんせ火や水など魔法で自在に作り出せる世界だし。
改めて凄い世界だと実感する。

次はオーク肉の下ごしらえだ。
オーク肉……つまり豚肉ポークだな。

ステフおっさんに教えて貰ったのだが、簡潔に言うと『二足歩行している豚』らしい。これもファンタジーでは定番のモンスターだけど……二足歩行しているモンスターを食材にするのは若干抵抗があるが、肉自体は俺の知っている豚肉そのものだ。

うまそう。とんかつとかトンカツとか豚カツを食べたいなぁ……。
とんかつならソースだけどこの世界にソースの代替品になりそうな調味料があればいいな。塩でも美味しいけど。

後はしょうが焼きとか……豚汁とか……と妄想しているとステフがオーク肉の切り身を香草で挟んでミルフィーユみたいに肉・香草・肉・香草と重ねていく。

「その挟んでいる草はなんですか?」
「あぁ。これはハーブだ。これで肉の臭みも決して焼いた時に香も良くなるんだ。後は提供する前に塩・胡椒で焼くだけで完成だ。」

流石、手際がいいな。

「パンツ兄ちゃん、手伝ってくれて助かったぜ。いつもよりかなり早く準備が終わったぞ。」
「そうですか?それは良かったです。俺も料理教えて貰いましたし気にしなくていいですよ。」
「兄ちゃんも料理とかした事あるのか?手慣れた感じだったが。」

俺の記憶では、アラフォーおっさん38歳独身満喫中だったしね。
偶に簡単な手料理ぐらい作る事もあったさ。
白菜と豚のミルフィーユ鍋とか……白菜を適当に切って豚肉重ねるだけだけど。
一人鍋……誰かに食べさせる事は無かったけどねぇ……。

「えぇ……自己流で少々。」
「そうか。よかったら俺の所で働かないか?」
「え?」
「アイルの知り合いで素性も知れてるし腕もそこそこありそうだしな。どうだ?」

いきなり宿屋に転職イベント発生!?
でもアイルのパーティに参加するって約束しちゃったしなぁ。
しかし宿屋で仕事しながら冒険者とか出来るのだろうか?

「ステフさん、宿屋で仕事しながら冒険者とか出来るんですか?」
「ん?出来るぞ。俺ももう引退してる様な感じだがまだ冒険者登録はしてるし兼業してる奴は多いぞ。」

兼業するのは問題ないのか。そう言えばカバールさんも兼業冒険者がどうたらこうたら言ってたな。
俺の記憶の世界では副業とか禁止されてる会社多かったけど……こちらでは問題ないらしい。

「そう言えば、ステフさん、一人でこの宿を切り盛りしてるんですか?」

そう。この宿に宿泊し始めてからステフおっさん以外の従業員?を見ていない。

「……以前は嫁さんと娘と3人でやってたんだがな……。」

急にステフの表情が暗くなる。
あれ……これは聞いちゃいけなかったかな?
もしかして二人とも亡くなってたりとか……。

「あの……言いにくい事でしたら答えて頂かなくて結構ですよ。」
「…………嫁と娘は。」
「……………………。」
「2号店を出してそっちで頑張ってる。」
「え?2号店?」」
「そうだ。王都で『ゆっくりしていっ亭』の2号店。向こうでは『のんびりしていっ亭』って屋号で営業してる。」
「え?そうなんですか?」
「あぁ。発端は娘が魔法大学に行きたいなんていいだしてな。だったら大学がある王都にも宿作れば宿代も必要ねぇから!!って事で二人して王都にいっちまった。」

ステフおっさんはそう言うとしょんぼり肩を落として寂しそうだ。
おっさんが暗い顔するから変な気使っちまったぜ。

「ステフさんは付いて行かなかったんですか?」
「この街に馴染みの常連客も付いてたし、愛着もあったしな。それに嫁は王都出身だったしまぁ都合が良かったんだ。」
「ステフさんはプリンタイ帝国の出身ですよね?」
「あぁ。こいつの国だな。」

ステフおっさんは酒瓶を持ちながらそう話す。

「そう言えばステフさん、今後、アイルに酒飲ませちゃダメですよ?」
「……あぁ、その方が良さそうだな。アイルに暴られちゃぁたまらんしな。」

普段でも暴力性が強いのに酒が入ると手加減なくなるから怖いんだよ……。

「……何の話してんのぉ?」

ドキッ!!

声の方向に目をやると、アイルが手摺に手をかけて階段を下りてくる所だ。
しかし二日酔いなのか、もう片方の手で頭を押さえている。
二日経ってないけど……。

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