Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎

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第22話 周辺国家

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「それはね……。」
「それは……?」
「…………死霊使い……って事。」
「………!?」


エチルさんが不気味な笑みを浮かべながら俺達3人に詰め寄ってくる。
近い……あれ?チューしていいのかな?ん~……。

ボココッ!!


アイルが右横から、左からソフィちゃん、正面からエチルさんの3方向パンチが俺の顔面を捕える。
おかしい……こちらの世界?に来てから殴られる頻度が高すぎる気がする。

記憶の世界では殴られた事なんてほぼなかったのに……。
親父にだって殴られた事あるのに……!!


「……で、その死霊使いが何なんですか?」


アイルが何も無かったかの様にエチルさんに話を続ける様に促す。

「死霊使い……その字の如く、スケルトンとかゾンビを使役や創造出来る事は知ってるわよね?」


確かに『冥魔法』って字面からして陰鬱そうなイメージだもんな……。
しかも『死霊使い』なんてそのまんまじゃないか……。

おどろおどろしい雰囲気で黒のローブで身を包み、部屋には妙な壺に紫色の液体がポコポコ沸騰していたり、髑髏の置物とか常備していそうな……感じだろきっと。


「その死霊使いがこの『水革袋』を制作している『冥魔法使い』じゃないかって噂があるのよ……。」

「え?そうなんですか?」

「いえ、あくまで噂よ?ギルド職員の噂話が聞こえてきただけだから確証なんてないわ。」


……俺は分からない。だから何だ?って話だ。
死霊使いでもなんでも役立つアイテム作ってくれるなら問題ないだろ?


「その死霊使いだと何か問題があるんですか?」

「それ自体は問題じゃないんだけどね……その冥魔法使いが居を構えている『ロマーデン』の街周辺に夜な夜な血まみれのスケルトンやらゾンビがうろついてるらしくて、そして偶に旅人や商人が行方不明になっているのよ……。」

「……な、なんですかそれ……。その冥魔法使いが人を襲わせているかもしれないって事ですか?」

「あくまで噂なんだけどね。」

「ギルドに調査して貰えばいいじゃないですか?」



アイルがそう提案する。
街周辺にモンスターが出没するなら討伐対象となる筈だ。
放置すると交易が止まってしまうからな。


「ギルドも対策しようとしてるんだけど、その冥魔法使いは『水革袋』の製作者でしょ?旅人から冒険者までMUSTアイテムだからかなり儲けてるらしくて、街に納めている税金も莫大らしいのよ。だから余り強く出られないっ…て事らしいわ。あくまで噂だけど。」


ふむ。その冥魔法使いが街に多額の税金を納めているので強く言えないって事か。
街としてもその冥魔法使いの税金が無くなる事を懸念している訳ね……。
だからと言って旅人や商人を襲わせる理由が分からないな。
俺は当然の疑問をエチルさんにぶつけてみる。



「その、旅人をスケルトンとかに襲わせる理由って何なんですかね?」

「さぁねぇ?噂によると、新しい『冥魔法』の実験でもしてるんじゃないかった事らしいわ。噂だけど。」


エチルさん、噂好き過ぎだろ……。


「そのロマーデンて街はどこにあるんですか?」

「ロマーデンはルク・スエルから北にある街です。王都に近い街でルク・スエルに匹敵する大きな街ですよ。」



横から神官風のカバールさんが教えてくれた。
ほぉ……ルク・スエルに匹敵する街かぁ……行ってみたいな。


「そこにその冥魔法使いがいるって事か…。カバールさん、そのロマーデンまでは遠いんですか?」

「そうですねぇ…。ルク・スエルからだと馬車で1週間って所でしょうか…。」


Oh……結構かかるな……。移動手段が馬車しかないんじゃ仕方ないか……。


「グリフォン便ならまだ早く移動できますけど高いですからねぇ……。」

「グリフォン便?」

「ええ。グリフォンに乗って空を移動するんです。それなら1日~2日で着きますよ。」


グリフォンて……あの鳥の怪物みたいな奴かな?
俺の記憶では鳥の頭に獅子の胴体に翼が生えているだったかな?
一応確認してみるか。



「あの、グリフォンて何ですか?」

「え?グリフォンを知らないんですか?」



カバールさんは驚きの表情をする。
エチルさん以下、アイル、ソフィちゃんまで驚いている。


「はあ……そうだった。パンツは何も知らない赤ちゃん並みの知識しかないんでちたね~?かわいそうでちゅね~?」


アイルが人差し指で俺の額をつんつんしながら赤ちゃん言葉を使ってディスってくる。
……カワイイじゃねぇか。もっと赤ちゃん言葉使っていいぞ。
赤ちゃんプレイのオプション料金は払わないけどな!

俺がアイルの赤ちゃん言葉に勝手に萌えているとリーダー(仮)残念白銀級プラチナのシェールが続けて教えてくれる。


「グリフォンにも色々いるが、基本ライオンの身体に鳥の頭が通常種だな。大きさはそうだな……さっきエチルが作った土壁ぐらいの大きさが普通だな。
それにユニークモンスターでは稀にライオンの身体にライオンの頭のグリフォンもいる。」


……いや、それただのライオンじゃね?


「簡単に言うと翼が生えてるライオンと思ってくれればいいな。」


それもグリフォンの括りなんだ…。
それって俺の記憶の世界では『キマイラ』とか『キメラ』とか言われていた様な……。

しかしデカいな……幅5m×高さ3m程度の生き物とかそれ……象ぐらいあるじゃん……。


「それに鳥の身体に鳥の頭のグリフォンもいる。」


……いや、もうそれただのデカい鳥だろ。


「そのグリフォンに乗って移動できるのがグリフォン便って事ですか……。」

「そう!略して『グリ便』。」


『グリ便』て……一文字違うとトイレに籠ってしまいそうな略し方だな……。

「俺も違う行先で一度乗ったんだが死ぬかと思った……。」


シェールがいきなり物騒な事を言い出す。


「……?死ぬ?ってどういう事ですか?間違って喰われたり……とか?」

「喰われる事はねぇけど……あれな…羽を羽ばたかす度に上下に揺れて気持ち悪くなるんだ…。」


あぁ……酔うって事か。


「高い金払って乗ったはいいが、移動している2日間、吐きまくりだったぜ……。あれじゃ『グリ便』じゃなくて『ゲロ便』だぜ。」


……シェールが『決めちゃった』的な顔をしてニヤリとどや顔してる。

うまくねぇよ。


「あら?私は平気だったけどね~。楽しかったよ~。また乗りたいなぁ~。」


エチルさんは酔わなかったのか楽しげに話している。


「私以外の男どもは情けない事に全員やられちゃってさぁ。折角の空の旅なのに私だけ元気で3人はずーっと吐いてるか寝込んでたわ。」


当時の事を思い出したのか男3人は青ざめた顔をしている。
……エチルさん、カワイイのに逞しいな……。

もうこのパーティのリーダー、エチルさんがリーダーでいいんじゃないかな?
とも思ったりする。

しかしグリフォンに乗れるのか……。


「そのグリフォン便てどこで乗れるんですか?」

「ルク・スエルからも色んな街や王国、帝国に定期便が出てる筈よ。」


機会があれば乗りたい……しかし高いらしいから今は無理かな……。
って……帝国……!?


王国はまぁ分かるけど……帝国って俺の知る限りじゃ、覇権主義を掲げる邪悪の根源みたいな描かれたしてる国なんだけど、そんな国があるの?

怖い!?
俺の中では『帝国』に対して負のイメージしかないので聞いてみる。
映画やラノベ、ゲームどれをとっても『帝国』は大体、主人公に敵対する国、民衆を苦しめる国として存在するからなぁ。


「あの…すみません…。エチルさん、『帝国』ってどんな国なんですか?」

「帝国?帝国って言ったら『プリンタイ帝国』の事よ。」


何だ?そのビールに沢山含まれてそうで痛風になりそうな国名は……。
おっさんとしては気になる名前だ……。

そう言えば俺の記憶の世界では、健康診断を受けた時期だったなぁ…。
ちょっと腹にお肉がぽよぽよと付き初めて医者に運動しろって言われたっけ…。
でも社会人になると時間がなぁ…なんて言い訳してゴロゴロしてるだけだったりしたけどさ。(笑)


「……プリンタイ帝国。そこって、やっぱり民衆を扇動して周囲の国に戦争を仕掛けたりする覇権国家だったり恐怖政治をしてたりするんですか?後は市民を虐殺したり………。」

「……何でパンツ君がそんなに『帝国』に対して物騒なイメージを持ってるのか知らないけど、プリンタイ帝国は農業が盛んな国でお酒とかお酒とか、そう、一言で言うとお酒の国よ。」

「………オサケノクニ?」

「そう。お酒の国。」

「オサケって飲むお酒ですか?」

「そう。そのお酒。それ以外にないでしょ?私もあの国が作ってるお酒大好きなんだよね~。」


エチルさんの顔はうっとりニヤケ顔になっている。
どうやらお酒には目が無さそうな雰囲気だ。


「確かに!あそこの酒は銘酒が多いからな!!やべっ飲みたくなってきた!」

「俺も!!」

「私も飲みたくなりましたねぇ。」


エチルさんがお酒大好き発言をすると、シェールとジン、カバールさんも同意する。


「オサケノクニ…。」


…相撲取りの四股名みたいな異名だな。
どうやら俺がイメージしている悪の『帝国』とは全く異なる国らしい。


酒か…。そりゃおっさんとしては酒は飲みたい!!そのプリンタイ帝国にも行きたいぞ!!おっさんは!!痛風にならない程度に飲み捲りたい!!


「パンツ、お酒飲みたいの?」


アイルが不思議そうな顔をしながら俺の顔を覗き込んで来る。


「え?あぁ、そうだね。その銘酒とか飲んでみたいなぁ。」

「ふ~ん。その銘酒かどうかは分からないけれど、確かステフおじさんの宿にも帝国のお酒があった筈よ?」

「「「「「「え?マジで?」」」」」

「う、うん、マジで。」


俺と4人組が一斉に食いついて来た。


「なぁ!その宿はどこにあるんだい?お嬢さん!!」


シェールが興奮気味に聞いてくる。


「私たちが宿を取っている所だけど…。」

「よし!!明日の晩飯は決まりだ!明日はその宿に1泊してから帰るぞ!!」

「「「「異議なし!!」」」


シェールがステフおっさんの宿に1泊宣言をすると他の3人も同意する。
なんだかんだでこの4人、調子合ってるんだよな…。

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