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第19話 救出1
しおりを挟む「ねぇ、本当にキラーアントがこっちに来てるの?」
アイルが不安そうに囁く。
「う~ん、キラーアントから逃げている連中の先に俺達がいる…って感じかな?」
「嘘でしょ?パンツ、何でそんな事分かるの!?」
…………。
「う~ん…………修行?………したから??」
「何で疑問形なのよ。」
俺が腕組みをしつつ頭を傾げながら答えるとアイルが疑いの眼差しを向けて来る。
ちなみに『修行?』の時に左、『したから??』の時に右に頭を傾けている。
だってしょうがないじゃないか。
修行なんてしてないけど…。もう面倒くさいからそういう事にしておこう。
何か問われたら『シュギョウシタカラ』…ヨシ!この便利フレーズで行こう!!
するとそこにソフィちゃんが助け舟を出してくれる。
「お姉ちゃん…森の奥…後ろの方から魔力の揺らぎを感じるから何かこっちに来てるみたいだよ?」
「え?ホント?じゃ助けなきゃ!!」
おい、何でソフィちゃんの言う事は素直に聞くんだよ。
「助けると言ってもキラーアントってDランクなんだろ?ヤバくないか?」
「でも、ほっとけないでしょ?助けなきゃ!!」
アイルは既に決意が固まっている様だ。
俺が止めろと言っても聞いて貰えなそうだし…やるしかなさそうだ。
「……分かったよ…。でもどうするんだ?」
「こっちには誰がいると思ってるの?」
「……?」
俺を頼りにしてるって事か?
「そう!ソフィがいるのよ!!ソフィの炎で蟻なんて燃やし尽くしてやりなさい!!」
……!?
まさかナウ○カに出てきた、あの姫様の『薙ぎ払え!』的な事っすか!?
ソフィちゃんが巨○兵的な立場で…まだ早いんじゃ…。
「ソフィちゃん、大丈夫?いける?」
「うん!大丈夫!!薙ぎ払うよ!!」
何なの?この子たち?巨神○の転生者じゃないよね?
「でも詠唱に時間がかかるから少し時間が欲しいな…。」
流石のソフィちゃんでも魔法の詠唱に時間が掛かるらしい。
○神兵みたいにいきなり口からビームをぶっ放す訳じゃないからそりゃそうか…。
しかし追われている連中の状況は芳しくなさそうだ。
青い4つビーコンに多数の赤いビーコン、つまりキラーアントが徐々に追いつきつつあるのだ。
青いビーコンに追いつこうとする赤いビーコンが幾度か消えて行くので、倒しながら逃げているのだろう。
しかしキラーアントはまだまだ無数に群がっている。
「アイル!俺達も加勢しに行くぞ!今は応戦しながら逃げているっぽいが状況はよくなさそうだ!」
「オッケー!!」
アイルはそう答えると腰から剣を抜き走り始める。
「おい!アイル!!そっちじゃなくてこっち!!」
アイルがいきなり逆方向に走り始めたので直ぐに呼び止める。
『テヘッ』
また舌を出してテヘペロしているが、アイルの方向音痴っぷりヤバい。
カワイイから許すけど…。
「じゃあソフィちゃんは詠唱を開始しておいて。どれぐらい時間稼げばいい?」
「広範囲魔法の詠唱には時間がかかるので5分ぐらいあれば…。」
「よし!アイル!行くぞ!時間が経ったらこっちに引き連れてくるからソフィちゃん、宜しく頼むよ!」
「うん!分かった!お兄ちゃん!!」
俺はまた逆方向に走り出そうとするアイルを捕まえてキラーアントに追われている4人がいる方向へ走り出した。
…………
俺とアイルはキラーアントに追われていると思われる4人の所へ走り続けている。
むむむ…。やはり体力的におかしいな。
俺の記憶なら30秒も全力疾走すればバテて動けなくなったのに…。
しかし…アイルの運動能力も…すげぇな…。
息切れもする事なく走り続けている。
俺がそんな事を思いながらアイルに目をやると「ん?どした?」と言った風にキョトンとした顔を向けて来る。
「パンツ!どうしたの!?もう着くの?」
「後、もう少しだ!そろそろ4人が見えてくる筈…ん?何だあれ?」
俺達の目の前には乗用車のSUVぐらいの赤いデカいモノが動いていた。
「うげぇ…!デカッ!!あれがキラーアントか?」
「……ホントにいた。そう。あれがキラーアントよ。」
ホントにいた…って、信じてなかったのかよ…。
しかし虫は苦手なんだよなぁ…。
普通の蟻ぐらいは何とも思わないけど…さすがにこのデカさじゃキモさも倍増どころの話じゃないな…。
そんな事を思っていると1匹のキラーアントがこちらに気付き突撃してきた。
「あ!ばれた?」
アイルはそう言うや否や瞬時に飛び上がり上段に構えてキラーアントに剣で斬り付けようとする。
「え?アイル!!危ないよ!!」
「やぁああゃぁぁぁあ!!」
アイルがキラーアントに向かって剣を一閃すると大きな左目から血しぶきが吹き出しキラーアントがたじろぐのが分かる。
するとアイルは剣を振り下ろし着地した後、一瞬で首元に潜り込み下から剣を一気に突き上げるとキラーアントの首が刈り取られ絶命した。
「………アイル…すげぇ…。」
俺はその光景を茫然と見ていた。
あれ?キラーアントってランクDのモンスターだったよね?
冒険者なら『金級』が単独で倒せるモンスターの筈…。
『銀級』のアイルじゃ敵わない筈なんじゃ…。
そんな事を思っているとアイルがニカッと笑いながら俺に向けてVサインをしてくる。
アイル…何かすげぇ余裕なんだけど…。何で?
「ど~お?私も中々やるもんでしょ?ふふ~ん」
そんな事を言いつつこちらに歩きながら自慢げに語りかけてくるアイル団長。
「あぁ…すげぇな…。でもランクDのモンスターって『金級』じゃないと倒せないんじゃなかったっけ?」
「…あ…あぁ…その事…。まぁ…いいじゃない!!」
何か歯切れの悪い感じで話を誤魔化そうとするアイル団長。
これは何かありまくりんぐだな…。
そこに新たなキラーアントが俺達に襲い掛かってきた。
「うわ!!アブねッ!!」
俺はアイルを抱えてキラーアントの体当たりを躱す。
しかしマジでキモいな…。SUV並みの大きさの蟻とか…。
するとまたキラーアントが大きな顎を開きながら突っ込んで来る。
俺は咄嗟にアイルと同様にキラーアントの懐に潜り込み、頭部にアッパーを食らわせると頭が一瞬で吹き飛んだ…。
「………。」
「………。」
相変わらず規格外の攻撃力だなぁ…。
そんな事を思っているとアイルがこちらにやってくる。
「パンツって…ウェアウルフの時も思ったけど、呆れる程の破壊力よね…。」
「…力加減が難しくてね‥…。」
「でも余りモンスターを粉みじんにしちゃうと討伐報酬に影響でるから最低限、原型だけでも残しとかないとダメね。それに虫系の頭部は高く売れるんだから…。」
「はい…。以後善処します…。」
それにしても虫の頭って高く売れるのか…。蟻の頭を何に使うのか…。
アイルは剣を右肩に乗せ、先ほど刈り取った60cm程の蟻の頭を左手でポンポン上下に投げて時たまバスケットボールの様に指先で器用にクルクル回したりしている。
……。
「それ…なんに使うの?」
「あ、これ?顎の部分はナイフにしたり、目は綺麗だからくり貫いて宝飾品、胴体は毒薬(蟻酸)に使うらしいわよ。」
俺はアイルが左手で遊んでいる蟻の頭を見ながら聞いてみると捨てる所なしの美味しい?モンスターさんだったみたいです。
虫の苦手な俺が勝手にげんなりしているとアイルが突然叫ぶ。
「あッ!」
「え?何?またキラーアント?」
「あそこ!!4人組が居たわ!!」
アイルが指さす先にキラーアントに囲まれている4人のパーティが見えた。
………
「…マジでじり貧じゃねーか…。マジックアイテムもポーションも使いきっちまった…。」
神官風の男がそう呟く。
「私の魔力ももう尽きかけてるよ…。」
エルフの女の子も肩で息をして辛そうだ。
「クソッ…。おまえら、すまなかったな…おれみたいな間抜けなリーダーのせいでこんな事になっちまって、ほんとうにすまん…。」
銀色の鎧を纏う戦士風の金髪男が口惜しそうに項垂れる。
「へっ、今までの冒険も悪くなかったぜ、シェール。」
項垂れているシェールと呼ばれた金髪男にそう語りかけるサル顔の男。
「そうよ…。でももっと王都のスイーツ食べたかったけどなぁ…。」
エルフの女の子は名残惜しそうな表情をする。
今4人は森の中で息をひそめて隠れているが、周囲はキラーアント達に囲まれて逃げ出す事は困難な状況だ。
「シェール、どうするよ…。街道には逃げれないぜ。」
「…となるとまた森の奥にこいつらを引き連れていかなきゃならないな…。」
「俺達のせいで街の連中を犠牲にする訳にはいかねぇからな。」
サル顔の男と金髪男シェールが言葉を交わす。
「じゃぁ4人バラバラになって逃げだそう。そうすれば誰か生き残れるかもしれん。」
神官の男はそう提案する。
「嫌だよ!私たち4人揃って『太陽の風』のパーティなんだよ!
今まで4人で冒険して来たじゃない!!最後まで…みんな…一緒だよ…。」
エルフの女の子は涙を流しながらそう呟く。
それを聞くと、3人の男たちは黙ってしまった。
「「「「………。」」」
そして一人の男が口を開く。
「実はよ、俺、このパーティ抜けようと思ってたんだよな!だからお前たちと離れるのは何ともないぜ?」
サル顔の男が突然、そんな事を言い始める。
「おい!お前、本当なのか!?」
「あぁ。そうだぜ?だからお前たちはさっさと街道沿いに逃げな。俺は逆方向に逃げさせて貰うぜ。お前たちを囮にしてな。」
シェールとサル顔の男が見つめ合う…。
「「……。」」
金髪男のシェールは何かを察した様にサル顔の男に肩を添える。
「分かったよ。」
「「シェール?」」
エルフの女の子と神官の男は「何を言ってるんだ?」と言う表情をしている。
「俺達3人は街道沿いに逃げるぞ。ジンとはここでお別れだ…。」
「あぁ…分かってくれて良かったぜ。流石リーダーだな!」
ジンと呼ばれたサル顔の男はニカっ笑う。
「え?何で?なんでよ!嫌だよ!3年も一緒に活動してきたのにこんなあっさり解散しちゃうの!?」
エルフの女の子は涙を流しながら抗議の声をあげる。
「…さぁ行くぞ。俺が奴等の前に煙幕を投げるからお前たち3人は街道沿いに走って行け。」
その時、エルフの女の子と神官の男はサル顔のジンが何をするのか理解した。
ジン1人で囮になり3人を逃がそうとしているのだ。
「駄目よ…ジン!」
「わりぃな。最後ぐらい恰好つけさせてくれや。」
そんなやり取りをしていた時に1匹のキラーアントがこちらに気付き突っ込んで来る。
「シェール(金髪男)!!エチル(エルフの女の子)!!カバール(神官の男)!!3年間楽しかったぜ!!じゃあな!!」
ジンはそう言い残し、キラーアントの前に飛び出し注意を惹きつけようとする。
「ジーン!!ダメ―!!」
エルフの女の子のエチルが絶叫する中、ジンがキラーアントの目前で煙幕を投げつけようとした時に目の前のキラーアントが動きを止めた。
パギャァァッァ!!ピクピクピク
ジンが視線を上げるとそこには頭部が無くなったキラーアントが佇んでいた。
ズズズン…。
頭部を無くしたキラーアントはその場に崩れ落ちる。
「うわぁ……。軽く飛び蹴り入れたつもりなのにまた頭無くなった…オエッ…。やっぱ虫グロいな…。勢い付け過ぎたか…。今度はもっと力を加減しないといけないな…。アイルにまた『頭は残せ』って怒られるかなぁ…。」
4人の目の前に立つ一人の男がそんな事を言いつつ頭を掻きながらこちらを振り返る。
「あ、ども…大丈夫ですか?」
「「「「………え?」」」」
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