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第7話 帰村報告

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「よし荷馬車の準備は出来たし、行くぞ!」

ゲイブルが御者となり出発の合図を送る。

馬車2両が連なりマゾン魔物草原を抜け街道沿いを進む。



のんびりした街道をパカパカと幌馬車が進んでいく。

こうしていると昨夜の事も忘れそうになる程の長閑さだ。



俺は子供の時にテーマパークで馬車に乗り込む際にアイスを落とした事を思い出す。

この記憶は現実なのか?夢なのか?今、目の前の光景を見ながら自分の記憶に自信が持てなくなりまた不安が過よぎる。

そんな時、正面に座っていたアイルが話かけて来た。



「そう言えばパンツは何処のギルドに所属してるの?」

「ギルド?なんだそれは?」

「水革袋の事もそうだけど、記憶を無くしてるからって…。パンツ、世間一般の事、本当に何も知らないのね‥。」



その通り。俺はこの世界の常識を全く知らない…それとも忘れたのか?兎に角今のうちに情報は聞いておいた方がいいな…。



「その『ギルド』って何なのか教えてくれない?」



「簡単に言うとギルドは、冒険者を纏めている組織。基本的に冒険者たちはどこかの都市、王国などのギルドに全員所属しているの。」



「そのギルドに登録するとどうなるんだ?」



「モンスター退治やら薬草の採取、アイテム回収やらギルドから仕事の斡旋を受けられる様になるし、各ギルド間との橋渡しや情報交換したり、

今回みたいに突発的に襲撃、討伐した際にもギルドに証拠品を提示すれば報酬を貰える様になっているの。昨夜のウェアウルフの一部も採取してあるわ。」



なるほど…。昨夜、ゲイブル達がウェアウルフの牙やら爪を取っていたのはその為か…。



「アイル達パーティも全員ギルドに登録してるって事?」



「会ったばかりの時に言ったでしょ?ギルドに登録してるって。それにしてもパンツって本当に何も知らないのね。あれだけの腕を持ってるのに…。」



あぁ、確かそんな事を言っていた気がする。意味が分からなかったからスルーしてたけど…。



「え?あ…あぁ…そう、だな。山奥で武道の修行を幼い頃からしていたからな…世間を知らないんだよ。ははは…。」(って事にしておこう。汗)



「ふーん…それで何も知らないの?…もしかしてどっかの箱入りのおぼっちゃんとかじゃない?」



「そんな訳ないだろ!全裸で草原をかけまわるおぼっちゃんなんている訳ないし(笑)」

「あははは!それもそうね!!(笑)



そう言うとアイルは快活そうに笑った。アイルの隣にいるソフィちゃんが顔を赤くしているが…。

俺のマイサンの事でも思い出しているのだろうか…。んもぅ…ヤダー。



…取りあえず、この世界の事を全く知らないのは非常にまずい。元々この世界の住人であるかもしれないが、あの記憶が残っている世界が現実世界の筈なのだが…。自信が揺らいでいる…。



あの記憶の世界に戻る?若しくは行けたりするのか?

兎に角、情報が全くない今は情報を集める為にもギルドには登録しておいた方がいいかもな…。



そうして村へ帰る途中、街道沿いで商売をしていた商人キャラバン隊から食料を買い込みながら帰村した。



村到着



マゾン草原から丸3日半を掛けて村落と思しき村が見えて来た。



「見えて来た!メリッサ村だ!」



アイルとソフィ達は喜色満面で幌馬車から身を乗り出している。俺も二人が乗り出している隙間からその村を伺う。



数日間とはいえ、やはり無事に地元に帰れると嬉しいよな。

俺の地元はどちらの世界が地元なのか分からないままだが…。

そう思っていると村の外で子供達と数人の大人達がこちらを見ているのが見えた。



「アイルお姉ちゃん達がもう帰って来たよ~!」子供

「え?随分早い帰りだねぇ」おばちゃん

「天才のソフィだし、もうレベル挙げちまって帰って来たんじゃないか?」おじちゃん

「それにしても早すぎるよ…まだ出て行って6日しか経ってないんだから。行って直ぐに帰って来たぐらいの日数だよ…。」おばちゃん



「ゲイブル、どうしたんだい、やけに早い帰りじゃないか。もうレベルを挙げられたのかい?」



村の入り口で馬車を止めると、50歳半ばだろうと思われるおばちゃんがゲイブルにそう語りかけて来た。



「いや…。詳しい事は後で話すが、バイスとニック、ザノフ、ロックンの家族に知らせてくれないか。」

ゲイブルは2両目の馬車を見やりそう答える。



「ま、まさか…。」

「すまない…仲間を守りきれなかった…。」

「…分かったよ…。詳しい事は今夜教えておくれ。」

村の中に馬車を乗り入れて死体袋を村の教会と思しき所に運び込まれる。



遺族の泣き叫ぶ声が村中に響き渡る中、その教会の神官により葬儀が直ぐに執り行われ、聖水で死体を清められた後、火葬後に骨をバラバラに砕き埋葬されていた。



骨を砕いてバラバラにするのは、この世界ではスケルトンとして復活する事を防止する為だとアイルが俺に教えてくれた。



スケルトン…骨の亡霊か…。ゾンビやらスケルトンやらウェアウルフやら…全く、この世界、危険すぎるだろ…。



しかも骨をバラバラにして埋葬したとしても高位の魔法使いであればアンデットとして復活させる事は可能の様だが、バラバラになった骨をスケルトン1体として復活させる為には『魔素』?を大量に消費しパズルを組上げて行く感覚らしく効率が悪く面倒だとソフィちゃんが教えてくれた。



だから映画やゲーム、ラノベである様に死霊使いがスケルトンをワラワラ生み出す事は出来ないらしい…。

だがそれも誰かに埋葬(供養)された場合に限るらしいので、そこいらで野垂れ死にとか戦争で死んで埋葬されない場合は……ワラワラ復活するとの事…。







「いったい、何があったんだ?」



その夜、教会の隣にあるログハウスの様な大き目の館、集会所に村民の代表者と思われる一団が集まっており、村長と呼ばれる男、ガガンと言う60代前後と思われる白髪白髭を蓄えた男がそう話を切り出した。

俺も当事者としてこの会議に参加させられている。



パーティリーダーのゲイブルが重々しく口を開く。



「ウェアウルフの集団に襲われたんだ。…10以上はいたと思う…。」

「10!?…10匹以上のウェアウルフなんて…。白銀級でも苦労する程の数じゃないか…よく生きて帰れたな。」



代表者たちは一斉にざわつき出し、信じられないと各々口にしている。



「私達だけじゃ恐らく全滅していたと思う。でも助かったのはこの人に助けて貰ったからなんだけどね。」

アイルが俺に目配せしそう告げる。



村長ガガンはアイルから俺に目を移す。



「葬儀でバタバタしていていたからご挨拶もまだでしたな。私はこの村の村長を務めているガガン・エリーゼです。」



「初めまして、パンツァーです。この度は村のお仲間を亡くされ…お悔み申し上げます。」



俺は簡単に自己紹介を済まし、今回の事の顛末をゲイブルとアイルの補足説明を入れて貰いながら、話し終えた。



「マゾン草原に入った直後に襲われたのか…。あの草原付近は魔物・魔獣が多く出現する場所。あそこに立ち入る冒険者はそれなりの装備を整えて足を踏み入れる。

そこで冒険者相手に野盗を行うなど…。そのウェアウルフどもはそれなりに腕に自信がある連中だったのだろうな。」



マゾン草原は魔物・魔獣が沸き立つ地。そこに入り込む冒険者は今回のゲイブルのパーティの様に戦いの経験値を上げる為や、ギルドからの討伐依頼が出ている様なモンスター退治を生業とする冒険者達だ。



当然、魔物・魔獣を倒す前提の為、それなり腕に覚えがある連中や装備も整えられており、おいそれと野盗がターゲットにしたとしても返り討ちにされるのがオチだ。



しかしその冒険者達を倒せば食料、貴金属、マジックアイテムを奪えるハイリスクハイリターンって事らしい。

まして夜間に奇襲されれば見張りがいるとは言え、迎撃の初動に遅れが出るのは間違いない。



それを分かっているからこそ襲撃する側は事前に襲われる側の行動を予め予測して襲ってくるのだからいやらしい。

今回は俺と言うイレギュラーな存在が居た為に失敗した様だが。



「助けられんかったあいつらには悪いが、この子達を助けてくれて感謝する。アイルとソフィはうちの子なんだ。」



村長は俺の手を握り感謝を述べた。

あんな力があるなんて俺自身まだ信じられないんですけどね‥。



しかしこの二人、本当に姉妹なの?この村長夫婦は普通の人間に見えるけど、人間から亜人とエルフが生まれる事なんてあるのだろうか?

この世界は分からない事ばかりだが、俺はあえてその事をこの場では口にしなかった。



「泊まる宿もないんだろう?何も特別なもてなしは出来ないがうちに泊まっていけばいいさね。お前たちもいいだろ?」



村長の奥さん、つまりアイルとソフィの母親コフィが二人を交互に見ながら同意を求める。



「えぇ…構わないけど…。パンツは変態だからソフィと私は一緒に寝るからね!」

べー!



アイルはソフィを守る様に抱きながら俺にあっかんべーをしてくる。

変態!まだ言うのか!?しかもご両親の前であらぬ誤解が起きたらどうするんだ!!



「俺は恩人じゃなかったの!?」

「恩人でも変態は変態でしょ!ねぇお父さん、お母さん!こいつあのマゾン草原で真っ裸だったんだよ!?どこから見ても変態だよね?」



「真っ裸……それは確かに変態だ……。」

村長と奥さんは目が点になりながら唖然としてる。



「おいおい!お父様とお母様に変な先入観を持たせちゃだめでしょ!!あ、あれは修行の一環だったんだって!(嘘だけど)」



俺は焦りながらも何とか二人の誤解を解いて村長の家にお邪魔する事にした。

そこで食事と湯浴みを頂き、10畳ほどのリビングで俺とアイル、ソフィで白湯を飲みながら寛ぎながらお互いに遭遇した時の事を話していた。



「ねぇ…さっき、真っ裸でいたのは修行の一環とか言ってだけど一体、何の修行?全裸で修行て…。」



隣に座るソフィちゃんは耳まで赤くしてモジモジしている。また俺の全裸を思い出しているのか?カワイイなぁ。



「そ、それは、あれだ…その…大地や草木からの「気」を分けて貰って、精神統一をしていたんだよ…。」

ドラゴ○Bールでもそういってたし。多分、今ならかめ○め波…いや…元○玉も撃てる気がする…。勿論、妄想だけど…。



「精神統一…?」

アイルは草原を全裸で満面の笑顔で駆け回るパンツを思い出し顔が赤くなる。///

あれが精神統一の修行?でもパンツの力を見ちゃうと否定し難いのよねぇ…。



「ね、ねぇ、さっき「気」?とか言ってたけど何それ?魔素の事を言ってるの?」

「魔素?何だそれは?」



そう言えばスケルトンの話をしていた時にも『魔素』がどうのこうの言ってたな。聞き慣れない単語だったので華麗にスルーしてた。

しかも俺は質問を質問で返すアホなやり取りをしてしまった。



「…ほんとにパンツって何も知らないのね…呆」

く、悔しい…でもそのジト目で見られるのも…いいかもニヤニヤ。



「何でニヤニヤしてるの…気持ち悪いなぁ…。



『魔素』って言うのは、この世界のあらゆるものに含まれる生命の源の事。魔法もこの魔素を消費して魔法を発動させているの。」



「無知ついでに聞くが、魔法ってのは誰でも使えるものなのか?」

「魔素は誰でも検知する事は出来るけど、魔法…それを顕現化させるには本人の素質と属性によって使える魔法も決まって来るのよ。」



「素質と属性?」



「火・水・風・土・天・冥の6種類が属性。

大体、一般的な魔法使いマジックキャスターはそのどれか一つの属性を素質を持って生まれてくるんだけど、極稀に複数の属性を持って生まれてくる人もいるの。

複数持ちマルチプルキャスターって言われてるわね。」



何?その太陽系の惑星覚える感じ…。

「ふ~ん…それはかなり珍しい事なのか?」



「当たり前よ!『魔法使いマジックキャスター』の素質を持って生まれてくるのも珍しいのにそれを複数属性を持っている人は必ず白銀級以上のマジックスキルをマスターできる素地があるって言われてるわ。勿論、本人のやる気次第みたいだけどね。」



そうなのか…。まだ魔法について分からない事だらけで実感として何が凄いのか分からないな…。



「へぇ~…ところでアイルは魔法はどうなんだ?ソフィちゃんは魔法使いってのは知ってるけど。」



「私?私は…1種類の水属性しか使えないよ。しかもLv2までしか使えないし…。」



「え?使えるの?見せてくれよ!その魔法!」

「え?そんな大したものじゃないから見せたくないよ!」

「いやいや、みたいみたい!見せてくれよ!!ガシッ(肩掴み!)」

「わ、分かったから…だから、その離してくれない…?///」

「え?あぁ、ゴメン…。」



俺は掴んでいたアイルの両肩を咄嗟に離した。アイルも顔が赤くなっている。こんなおっさんに肩を掴まれて照れているのか?案外、ウブな所もあるではないかグッフフフ。うん…キモいね。俺。



そう思っている傍からアイルが自分の正面に手をかざしながら魔法詠唱を開始する。



「我は求める、この大地の恵みとなる水の精霊達よ。我の元に集いたまえ!水零漲ウォーターオーバーフロウ!」



魔法の詠唱を終えると同時にアイルが手をかざす先に水が集まりだし、サッカーボール程の大きさの水球が目の前に発現する。



おぉぉお!!す…すげぇ!何もない所から水が…。



「一応、この水はヒーリング効果も多少付与されているから飲んだり傷口に塗れば切り傷ぐらいは治癒できるよ。」

「はぁー…、アイルさん…すげぇな…。」



俺はその水球を見ながら素直に感嘆の声を漏らす。

ソフィちゃんの火の攻撃魔法も見てはいたが、戦闘中だった事もありマジマジと見た訳ではなかったし、ヒーリングについても俺が無傷だった為、感覚的な事でしか感じとる事しか出来ずいまいち魔法を実感出来なかった。



しかし今、目前で何もない所から水…。水を発現させる事が出来るなんて…正しく『魔法』だ…。



俺の記憶の中で水を求める為には、蛇口を捻るかスーパーやコンビニで購入するしかなかった。



「アイル!凄いよ!!」

俺は感動の余り、隣にいたアイルの肩をまたガッシりと掴み俺の正面にクルリと向ける。



するとアイルはビクリと体を震わせて驚いた表情をしたのも束の間、俺の頭上にあった水球が力を失った様に落下し全て俺に降り注いだ。



「パンツがびっくりさせるからでしょ…?」

「はい。すみません…。」

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