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第5話 襲撃者
しおりを挟む「ゲイブル!アイル!まずい!!ウェアウルフどもがこっちにやって来るぞ!!」
「え!ウェアウルフ!?嘘でしょ!数は?」
「10以上はいる‥。俺たちだけじゃ撃退出来ない‥一旦、ここを離れた方がいい!」
走りこんで来た男の冒険者とアイルが慌ただしげに会話している。
一気に緊張感が増す事が俺にも分かったが事態が呑み込めずアイルに問いかける。
「え?何?ウェアウルフ?何それ?」
「ウェアウルフは、亜人族の一種族で亜人の中でも身体能力が非常に高くて厄介な相手なの。魔物ランクとしてはCランク。
一般の冒険者じゃ1匹相手するのは厳しい相手よ。」
「それってやっぱり…ここに襲いに来てるって事か?」
「当たり前でしょ!あたし達パーティは10人だけど皆、ギルドランクは銀級で10匹以上のウェアウルフなんて到底相手に出来ない‥。2匹でもやっとかも…。」
な、なんだなんだ?いきなりイベントバトルか?
しかもアイルの表情から察するにかなりヤバい相手っぽいな‥。
「あなたも少しは腕のたつ武闘家なんでしょ?!取りあえず力を貸してちょーだい!!」
え?腕の立つ?そんな事一言も言ってないけど…。違う所は勃つけど。(笑)
「あの…力を貸したいのは山々なんだけどまだこれ…解いて貰ってないんですけど…。モシ゛モシ゛///(腕のを縛られているのを見せる)」
「縄は解くけど変な事しないでよ!!妙なマネしたら私が直ぐに始末しするから…ギロ…。」
アイルは俺に殺意の籠った視線を俺に向けてくる…。
あの…その殺意の波動を向ける相手が違いますよ…きっと…。
「は、はい…(コワい…。)」
そうして冒険者たちはいそいそと野営道具を片付けて撤収準備を始めた。
……
洞窟内から外を伺うとそこには月明かりに照らされている筋骨隆々の人間と思しきシルエットが数体目に入って来た。
しかしその上半身は毛に覆われ狼の姿をしている。
「…狼が二足歩行してる…。と言うか、人間が狼になった感じか。あれがウェアウルフか?ウェアウルフ…狼男?‥。」
「分かってると思うけど、一人で相手をしようと思っちゃだめよ…。私たちじゃまともに戦っても勝ち目なんてないから…。」
アイルの後ろにはソフィも控えているが緊張の面持ちで杖を握りしめている。
囁き声でやりとりしていると前方から叫び声が聞こえた。
どうやら前衛のパーティの誰かが襲われた様だ。
「おい!そっちにいったぞ!」
先に前方に出ていたゲイブルがこちらに向かって叫ぶと洞窟入口の右手の死角から1匹のウェアウルフが走りこんで来るのが見えた。
俺は咄嗟に洞窟内から転がり出て周囲の樹木に身を隠すが月明かりが出ているからなのか夜目が利くのかウェアウルフは何の障害もなく俺を捕え続け追いかけて来た。
そして直ぐ後ろに迫り鋭い爪を振りかぶり攻撃を仕掛けて来た。
俺は振り返りウェアウルフに正対しながら、体の前方で咄嗟に腕を交差し腰が抜ける様な形で大木に背を打ち付けた。
ヒュン…バキバキ…ドスン…。
俺の頭上を掠める様に放たれたウェアウルフの爪は背を預けていた巨木をいとも簡単に両断し俺は絶句する。
「……!?ッ…マジか‥。大木を片手で切断て…。こ、…こいつマジで殺りにきてんじゃねーか…。」
「グルゥウウウウウウウ…。」
ウェアウルフは攻撃を避けられた事が癪に障ったのか俺に睨みを利かせながら追撃をする為に攻撃体制を整えている。
その間にも周囲から立て続けに他の冒険者と思われる叫び声が聞こえてくる。
「他の冒険者の連中も殺られてる……これ…やっぱり現実なのか…?」
アイルやソフィ達は大丈夫だろうか‥アイル達を気にした刹那、ウェアウルフが咆哮を上げならがら攻撃を仕掛けて来た。
「ガァァアァァァァァッァァア!!」
「喰らったら間違いなく死ぬ!」
俺は自然と身構えてウェアウルフの攻撃を迎撃しようと正対する。
するとおかしな感覚に襲われた。
「ん?こいつの動きが遅く感じる?」
ウェアウルフが攻撃を仕掛ける瞬間、攻撃動作がスローモーションの様に見えて俺は悉く攻撃を避ける事が出来たのだ。
「ちょこまかとすばしっこい奴だ…!」
「え?この狼、話す事できるんだ‥?」
俺がウェアウルフの攻撃を避けつつ人の言葉を話す事に驚いていると、そこに炎の槍状の物がウェアウルフの横っ腹に突き刺さりウェアウルフはもんどりうってその場から離れた。
炎の槍が飛んで来た先を見やるとそこには森の奥からアイルとソフィがこちらに駆けて来るのが見える。
アイルが俺の前方に出て剣を構えながら先ほどのウェアウルフを牽制する。
「一人で戦っちゃダメって言ったでしょ!!」
ソフィも遅れて俺の横に走りこむやいなや、俺の肩に手をやり何やら詠唱を始めると暖かな光に包まれる…。
「念の為に 治癒魔法をかけたけど大丈夫ですか?」
ソフィは心配そうにこちらに顔を向ける。
「?あぁ。大丈夫だよ。ありがとう。」
俺は何をされたか分からないが、身体的には傷を負っていない為そう答えるとソフィは安堵の表情を浮かべるとすぐさまウェアウルフへ対峙し新たな詠唱を開始する。
「チッ!マジックキャスターがいやがったのか!しかしマジックキャスターなんぞ先に仕留めて仕舞えば他は雑魚ばかり…へへ。」
ウェアウルフはソフィちゃんを見やりながらそんな事を口走る。
そして口角がニヤリと歪み笑った様に見えた気がした。
イヌ科も笑うんだな…。俺はこんな状況にも関わらずそんな事を思った。
しかしマジックキャスターってのはソフィちゃんの事だよな?大木を両断する様な攻撃をこの娘が防げるとは思えない‥!それにまだ魔法の詠唱途中で無防備になっている‥。
「きゃぁあ!!」
と思った刹那、前方でウェアウルフを牽制していたアイルが突き飛ばされ、ソフィに向かって凄まじい勢いで一直線に攻撃を仕掛けて来る。
「危ない!!」
俺はソフィちゃんを咄嗟に抱きかかえて攻撃を掻い潜り反対側へ転がり込む。
「ソフィちゃん、大丈夫?」
「あ…は、はい。大丈夫です。」
ソフィは何が起きたのか分からずキョトンとしている。
そして俺は再度ウェアウルフと向き合う。
「なんだこいつさっきからチョロチョロ小賢しい!碌な武器も持たずに俺と殺り合おうってのか?!」
苦々しい表情でその狼は俺に冷たい視線を投げかける。
そう、俺は丸腰、しかも真っ裸に近い状態なのだ。
これヤバい。うん。絶対ヤバい。
動きは見切れるとは言っても攻撃手段が何もないんじゃ…。
どうする…どうしよう…。このままじゃ俺だけじゃなく後ろにいるソフィちゃんやアイル、ゲイブル達もやられる…。
言葉が通じるなら説得してみるか‥。
「な、なぁ、何でこんな事をするんだ?」
「はぁ?…何でって?…はっ!当たり前だろ!!金も食料も楽に手に入るからに決まってんだろ!バカかよおめぇ!」
やっぱりこういう類の連中ってどの時代、どの世界にもいるんだな…。
しかもいかにも三下っぽいセリフ吐いちゃって…この追い詰められているこの状況でも多少苦笑いしてしまう。
「てめぇ!何をニヤついてやがる!!」
突然、目前の狼が怒鳴り声を上げる。
え?しまった…。苦笑いがニヤツいてる様に見えた様だ。
「この状況でニヤつくってやっぱりあいつ変態だわ…。」
先ほどウェアウルフに突き飛ばされたアイルが剣を杖替わりにしてヨロヨロと立ちながらそう呟く。
どうやらアイルはダメージは受けた様だが致命傷は受けていない様で俺はホッとするが…
…アイルさん?聞こえてますよ?
「す、すまん、金と食料をやれば見逃してくれるのか?」
「てめぇ、俺を挑発しておいて見逃して貰えると思ってんのか!!てめぇはなぶり殺しだ!!」
そう言うと狼男が再び襲いかかって来る。
ウェアウルフの両碗から凄まじい攻撃が繰り出される…が、俺には当たらない。
「やっぱり動きが遅く見える…。手加減してる様には見えないけど、何なんだろう…?」
攻撃を避けながら考えてみるが当然ながら答えは出てこない。
「信じられない!あの変態…ウェアウルフの攻撃を軽々と躱しているの!?」
アイルさん?だから聞こえてますって…。変態…。
「俺の攻撃を躱すのは褒めてやるがいつまで逃げ続けるつもりだ!?普通の人族のお前じゃその内に直ぐにへばっちまって俺の爪の餌食になるだけだな!ハハハハ!!」
確かにこいつの言う通り避けてるだけじゃ終わらない…。
ダメ元だが、一発食らわせるしかない‥か…。俺の一般人パンチなんて効くとは思えないが…。
「くっそ、やるしかないか!うぉおおお!」
俺は寸での所でパンチを避けてウェアウルフの懐に入り、土手っ腹に思いっきりパンチを繰り出した。
ブシャーァアッァァッァ…メキメキバカアバキバキ………ドーォン………。
無我夢中で繰り出した俺の渾身のパンチはウェアウルフを捕えた筈だがイマイチ手ごたえがない。
攻撃した筈のウェアウルフからも追撃が来ない為、恐る恐る瞼を開く。
追撃も有ろう筈がない。
先ほどまで目の前で対峙していた狼男が、下半身を残し上半身が消し飛んでいたのだ。
またパンチを放った先の森林一体が一直線に抉られ土肌が表面に現出している。
「「「ぽかーん…。」」」
この( ゜Д゜)表現がこれ程当て嵌る事はこれまでの人生で後にも先にも経験した事がない。
俺も含めてアイルとソフィも顎が地面に着かんばかりにあんぐりと口を開けている。
「…………え?…えええええええええッ!!」
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