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第4章
決起
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8月3日 午前7時
小屋には24人全員が学ランに新品の軍靴を履き揃っていた。まず、1人ずつに大道寺元帥から軍刀と最新のヘルメット、そして階級バッヂが配られて、軍式の紐を使って軍刀を腰に挿した。いよいよ晴人の番だ。大道寺元帥が右手でそれらを出すら、両手で受け取って腰に挿す。そして、晴人は金色の桜バッヂ6個を受け取り、左胸に着ける。次にら大道寺元帥の挨拶だった。
「皆、いよいよだ。最早、国家の行く末は我等に掛かっている。心してかかれ」
そう言うと大道寺元帥は後ろを向き、それに皆も合わせる。二礼、二泊手、一礼。神棚への拝礼だった。そして各員に機関銃や拳銃が渡された。
8時丁度。24人は小屋を発った。これが国を変える第一歩だ、という思いで。大道寺元帥が校舎裏にあり、小屋に1番近い第3通用門から入り、ここからは別行動で三班に分かれる。大道寺元帥と松岡大将率いる一班5人は職員室を占拠し、二班は、14人で、校内制圧を担当する。三班は残りの5人で、他の門からの出入りを見張る。そこで「じゃあ」と言って別れた。晴人は一班で職員室に直に出入りできる扉までひっそりと近づく。
「松岡、時間は?」
と、大道寺元帥が言うと、松岡大将が腕時計を見る。
「8時15分です」
「よし、これから一班、職員室を占拠する」
と、大道寺元帥が2、3班に告げた。この班は全員が短機関銃で武装している。松岡大将が眼前の扉をソッと開ける。
「全員っ、突入」
大道寺元帥を先頭に次々と校舎内、職員室に突入する。前の方に朝礼で集まっていた教師が後ろから入って来た、晴人等をマジマジと不思議そうに見る。
「なんだー、お前等は」
きっとこちらが学ランなのが分かったのだろう。いきなり体育教師の山波が大声を張り上げた。
「皆さん、私達は皆さんに危害を加えるつもりは有りませんが、皆さんが抵抗した場合はやむを得ない場合もあります」
と、大道寺元帥が一方的に宣言した。
「皆さん、今から僕達の言う通りに動いて下さい。まず、第一運動場に……」
「待てやっ、お前等。ふざけるにも度が過ぎとるぞっ。ちょっと来いっ」
と、再び山波が怒鳴って数人の男性教師と共に近寄って来た。大道寺元帥以外の4人がそれ等に銃口を向ける。
「大人しく言う事を聞いて頂きたい。我々も命懸けだ。容赦出来ない」
すると、大道寺元帥は自らの短機関銃で横にあった教師の机を1発撃った。ドンッ。すると、その教師達は足を止めた。
「さあ、第一運動場に出てください」
もう、教師達の顔は先程までの勢いも無く、蒼白と化していた。何が起こったのか理解するのを避けているようだった。すると、校長が他の教師に声を掛けて職員室から廊下に出て第一運動場(校舎前の運動場)に出られる扉を使って晴人等の指示に従い始めた。教職員と言っても5000人以上の大マンモス校なので、400人近く居る。それを外に出す。すると、そこに放送を流す為に職員室のマイクの電源を入れ、話しかける。
『全校生徒の皆さん。おはようございます。生徒会長の安藤です。突然ですが皆さん。この学校は我々皇国再建部改め、皇国再建軍が占拠しました。第一運動場をご覧ください。その教師達が何よりの証拠です。我々の目的はただ一つ。皇国再建です。我々にはこの戦争での十分な勝算があります。状況報告はここまでです。第二皇国再建部員は直ちに第一運動場にクラスごとで整列してください。因みに、各門は封鎖されています。繰り返す。第二皇国再建部……』
10分としない内に続々と第二皇国再建部学校クラスごとで並び始めた。その頃には教師等も整列が終わっていた。ここでもう一度放送を入れる。
『残りの生徒はそこを動かないで下さい。我々の武器は本物です。逆らう事は許しません』晴人も運動場に出ると驚いた。そこに並ぶ生徒の目はどれも朝日の如く輝いていた。これほどまでにこの国の若者は世の中を変えないのか……。先程職員室に入った5人が全校生徒の前に並ぶ。そこに朝礼壇が用意され、大道寺元帥が登る。すると、後者の中にいた14人の内10人が降りて来て、合流した。全校生徒にも、どこか緊張が伝わったか、誰も何も発さない。強く涼しい風が一陣吹いた。この土地は、今でも夏であっても涼しく、28度を超える事は滅多にない。松岡大将がマイクを握った。
「全部員、気を付けー、礼っ」
そのハキハキとした声に皆一斉に礼をする。すると松岡大将は大道寺元帥に目配せをした。
「諸君、おはよう。私は皇国再建部改め皇国再建軍元帥、大道寺利彦である。手短に経緯を説明する。我々はいつまで経っても大政奉還を行わない政府に対し、武力で大政奉還を行わせることに踏み切った。我々には勝算がある。その為に何十年と準備して来た。我々は君等の力を借りて何としてでもそれを行う。以上っ」
晴人の前にいる生徒は皆、感動に打ち震えているようだった。大道寺元帥に代わって松岡大将がマイクを持つ。
「諸君にはこれからそれぞれの教室に戻って座学訓練を受けてもらう。その後、3時間目以降は軍事訓練を受けてもらう。それから、クラスに今残っている第二皇国再建部以外の部員はこの運動場に集めて貰いたい。以上っ、解散。」
それに合わせて降りて来ていた10人も戻って行った。座学訓練の指導にあたるのだ。そして、やがて他部員が降りて来て、第一運動場はその生徒達と教職員だけになった。その生徒達もクラスごとに並ばせる。ようやく10分ほどして整列が完了した。それを晴人が松岡大将に報告する。
「全員、整列完了いたしました」
と、言うと松岡大将は小さく頷いた。今度は最初から大道寺元帥が話し始めた。
「諸君は、我々と行動を共にすることを望まなかった者達だ。ここにいるのを恐怖、また不服に思うものも多かろう。我々もそんな君達に同情する。だが、これよりここは戦場と化す。しかし、これも今日1日か、明日までだ。君らが素直であれば、それまでにはに解放を約束する。まず、1年(中等部1年)は第二体育館へ、2年(中等部2年)は第三体育館へ、3年(中等部3年)は第四体育館へ、4年(高等部1年)は第五体育館へ、5年(高等部2年)は第六体育館へ、6年(高等部3年)は第七体育館へ。以上、移動を開始して下さい。あっ、それから逃げようなんて考えない方がいいですよ、門は全て封鎖しています。また、逃げようとする者には容赦出来ません」
と言うと、生徒達は先程の生徒達とは真逆に恐怖を顔に貼り付け逃げるように小走りでそれぞれの場所へと動いた。大道寺元帥が朝礼壇から降りてくる。
「大原君、あれは飛ばせたか?」
「はい、順調です」
大原が飛ばしてある『あれ』とは安井会長から贈られた軍事用ドローン5台だった。いざとなれば射撃も可能で、これでは脱走防止の人数不足は補える。実は、このドローン「誰が操るかと言った時、2年の大原がプログラムが得意だということが分かり、こうなった。それを大原は特殊な端末で管理している。そうして、職員達も各体育館に付け、晴人等一班は職員室横の校長室に入った。校長室には応接用のソファが有り、その更に隣の部屋には何に使うのか仮眠用のベッドまである。元帥は1番上座のソファに座る。他の者は一旦立ったままだ。
「松岡と楠村と安藤は予定通り、作戦に移ってくれ」
「了解しました」
3人が口を揃えて答える。そう言って校長室を辞した。これから、捕虜を使って裏山にある武器を下に下ろすのだ。特に抵抗しないであろう捕虜にしてある他部員の1から4年生までの1,500人近くを動かすことになる。武器は山の人工洞窟に隠してある為、人力でしか降ろしようが無いのだ。晴人等はまず、1、2年生を動かすことになっている。理由は、1、2年生が入っている第二、第三体育館が隣同士だからだ。1、2年生の捕虜には銃器と銃弾を運ばせる事になっている。まず、入り口側にある銃器を動かさなければ後ろの大砲が動かせないからだ。第二体育館に晴人と楠村大佐が入り、第三体育館に松岡大将が向かった。2人が第二体育館に入った瞬間、まるで誰もそこから消えたように静まり返った。まあ、こうなればこちらはやり易い。
「全員、ここから出て我々に付いて来て下さい。早くっ」
最後だけ楠村大佐は怒鳴った。楠村が先頭に立つと、皆が恐怖に顔を引き攣らせながらゾロゾロとついて行く。五分としない内に体育館は空になった。それに続いて第三体育館からも2年生が続々と出始めていた。今度は、晴人が先頭になる。途中から続々と三八式歩兵銃を2挺ずつ重そうに背負った奴とすれ違い始めた。三八式歩兵銃は一挺3730グラムなので、二挺で7キロを超えて、そこそこの重さになる。それを表からは見えない2面の野球グラウンドまで運ぶ。その数2100挺。晴人は途中で列を外れて行列整理にあたった。1グラウンドに300挺ずつで、第一、第二運動場は外から見えるので2面の野球グラウンドと、サッカーグラウンド2面。それに、第三、第四運動場に置く。三八式歩兵銃の運搬が終わると、次に南部式大型自動拳銃250挺。これは、一箱に10挺ずつ入っているのですぐに25箱全て運び終わった。これを第五運動場に置いた。そして、九九式軽機関銃55挺を一挺3人ずつで運び、余った奴はそれぞれの銃の銃弾を運ばせて、終わったのが1時間目終了のチャイムと同時くらいだった。今、各教室では残った皇国再建軍の兵士達に階級バッヂが配られ、上下関係の説明や、命令系統、軍人の心得などが教えられている。2時間目、今度は3、4年生を使って、同じように九四式三七m m速射砲7門を数人1組で出させ、第一ラグビーグラウンドに裏山を向けてそれらを並べさせた。だが、最後に最も大変な物が残った。九六式十五糎榴弾砲だ。全備重量4140キロにもなる。なんとか一門200人態勢で用意しておいた縄で上からその縄を引きながらゆっくり降ろして行く。裏山から先程の下ろすと、先程の200人程で押して第二ラグビーグラウンドにこれも同じく裏山向きに三門、一定の間隔で置いた。本当であれば、裏山を下ろしてからは車を使えば良かったのだが、それをしなかったのは、捕虜である彼、彼女等の反抗心を削ぐ為である。この捕虜の中で女子が多い中での重労働は、確実に彼等の反抗心を失わせていた。その後、彼等を元の体育館にそれぞれ戻して、晴人等は校長室に戻ると丁度2時間目の終わりをチャイムが告げた。この後は、それぞれ各自の持ち場で訓練に移る。人員はおよそ2700人。2000人が三八式歩兵銃の訓練を行い、2人1組の短機関銃訓練に軍備も入れて180人。そして合計10門の大砲に一門15人ずつ150人が訓練にあたる。因みに、残りの約400人は剣道部60人は竹刀を軍刀に代えて訓練させ、馬術部80人は馬上射撃と伝令の訓練を行い、残りは、輸送と斥候の訓練を受けた。校長室には大原と晴人、大道寺元帥だけが残った。門を見張っていた者の三班全員が訓練の教官になる。そして、以前の訓練と同じように理解した者は次の者に教えていく。ズドンっ、ズドンっと、次々と大砲や銃の音が聞こえ出した。晴人はまだ大道寺元帥とする事があるので校長室に残された。
「そろそろかな、安藤君。行こうか」
「はいっ」
大道寺元帥と2人で校長室を出て向かったのは生徒会堂だった。大道寺元帥には生徒会堂後方から入ってもらい、生徒会幹部室で待っていてもらう。2人とも護身用として拳銃と軍刀を持っている。生徒会堂に入ると、皇国再建軍幹部以外の役員の65人が顔を揃えていた。その中にも、30人ほどが階級バッヂを着けている。晴人は、いつもの生徒会長席に着いた。すると、いきなりバンッと勢いよく机を叩いて1人の男が立った。見ると、この間文句を言いに来た奴だった。
「会長、こんなテロリスト紛いな行為は生徒会長がやるべき行為では無いっ。直ちに生徒会長を辞任し、自首して頂きたい」
ふぅ、こいつは気骨があるが声が鬱陶しい。他のやつが萎縮する中でこいつだけは堂々としている。だが、その願いは叶えてやれない。
「君、とりあえず落ち着け、私達は生徒と戦争するつもりは無い。ただ、この生徒会は生徒の意思を表明する最高機関だ。正直、我が軍はそれを尊重したい。出来る限り、その為我が軍にいる幹部は今、私を除いて全員生徒会役員の職を辞し、後任を大道寺利彦氏に臨時的に任せた。」
すると、
「我々も辞職します」
そう言って次々と生徒会バッヂを外して後任を大道寺利彦氏に任せるとして軍に入っている者を含めて38人が辞任し、これで大道寺元帥は過半数を超える52票を手に入れ、実質的な独裁体制に倣った。
「辞退した軍人は直ちに訓練に合流してください」
そう言うと、次々と人が出て行った。その間もずっと銃と大砲の音が聞こえてくる。
「そんなことは看過出来ないっ」
その声を背中に聞きながら晴人は大道寺元帥を会議室の中に入れた。すると、大道寺元帥は会議室に入って先程までの晴人の席に着くなりいきなりこう言った。
「私は今日より、この機関の長になる。以上っ」
そう言って戻って行って後には唖然とした雰囲気が残った。
「皆、各自の体育館に戻って下さい」
そう言うと、渋々の体で皆帰って行った。そして、もう一度軍に入っている元第二皇国再建部の生徒会役員30人ほどが招集された。指揮官が足りないので階級を上げるのだ。それぞれに准尉任官が言い渡された。その為、金色のバッヂが多く胸に飾られた。しかし、こいつ等は軍の会議には参加しない。あくまで指揮官だ。そして、晴人と大道寺元帥は各訓練を見回りながら校長室に戻った。
「元帥、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「何ですか?」
「どうして生徒会役員を集められたのですか、正直あれは必要無かったのではないか、と」
大道寺元帥は困ったように笑って、
「ふーん……。何となくだよ」
と、笑い飛ばした。
「それより安藤君、」
「はい、何でしょう」
「急な事だが、君には今日の夜から治安隊の体調になってもらう」
「え、治安隊ですか?」
「ああ、人員は野球部から30人ほど出してもらう。もちろん、何も無いのが1番いいのだが、不良等が何をしでかすかも分からんし、政治犯が出る可能性もあるからな。頼めるかな?」
受けるかどうかじゃ無い。受けるしかないのだ。
「軍令に従います」
そう言うと大道寺元帥は満足そうに頷いた。
そして昼休みを挟んで午後5時には訓練は終了し、各自の自教室や空き教室に帰った。因みに、これからは非常用の布団を出して生活する。夕食には安井会長が寄贈した非常食が出される。その間に軍の幹部達は校内の会議室に集まった。そこで、今日の報告が行われ、明日の説明がある。ここで正式に軍編成が決まった。歩兵2000人を50人ずつに分けて40。それの1つが小隊。5個で中隊。10個で大隊と決まった。そしてその割り振りも発表された。そして、そこで正式に晴人が治安隊隊長になる事が発表された。
「皆、今日の夜から明日にかけてキット第一戦が起こる。きっと今頃、寮の管理人が警察に電話しているだろう。今夜はゆっくりと休んで明日以降の戦いに備えてくれ、以上っ」
それではこの軍議は終了した。皆、それぞれに解散する。そして交代するようにそこに体格の良い坊主頭の30人程が入ってきた。30人の先頭のやつが敬礼の合図と共に皆一斉に敬礼のする。皆、階級は四等兵から一等兵までだ。こちらは少し遅れて敬礼を返す。
「治安隊に所属する事が決まりました。野球部主将、一等兵元原です」
「そういうことだ。頼んだよ」
そう言って大道寺元帥は出て行った。
「皆さん、よろしくお願いします」
「はいっ、」
威勢の良い30人の声が揃って返ってきた。そして、その30人に警棒と拳銃とトランシーバーと、手錠を配った。どれも安井会長からの物だ。
「皆さん、射撃は最終手段です。まずは、警棒で鎮圧して下さい。また、逮捕も可能です。それから。元原一等兵をこの治安隊の副隊長に任命します。以上っ、トランシーバーはいつでも使えるようにしておくように。解散っ」
それでゾロゾロと30人が去って行った。晴人は1日で以上に疲れた気がした。今日1日で全てが起こったとは考えれないほどの成果だ。疲れに任せてそこにあった椅子に座った。すると、胸ポケットに入れてあったスマホが震え始めた。これは、大原の改造で電波妨害の中でも通じるようになっている。画面には松岡大将の名があった。
「はい、安藤です」
「安藤、就任早々早速だが、出動だ。生徒会堂で反乱が起きたようだ。じゃな」
と言って電話は切られた。早速の出動だった。どうやらそう休めれない運命のようだ。トランシーバーのスイッチを押しながら言う。
「治安隊隊員。裏玄関に直ちに集合。急げっ」
そう言って晴人自身も走って裏玄関に向かった。既にそこには十数人が集まっていた。その後も、ものの数分で全員が集まった。
「元原副隊長っ」
「はいっ、」
「今回の事案は反乱です。詳細は分かりません。では行きましょう」
そう行って晴人が先頭を切って生徒会堂まで走った。既にそこには人だかりが出来ていた。何やら、中のスピーカーから声がしている。
『諸君、自分の学校をいいように操られ、その上…………』
聞いていて溜め息が漏れた。またあの男だった。こんな事だったら早々に逮捕すればよかった。とりあえず、他の安全確保のため、集まっていた奴等を5分ほどかけて校舎に戻した。どいつも、帰りながら生徒会堂に罵声を浴びせていた。
「おいっ、また君か。すぐに投降しなさい。」
晴人は声を張り上げる。
『君じゃ無い。私は田村良悟だ。君達がテロを諦めるのなら投降する』
ため息では収まらないぐらいに呆れた。
「元原副隊長、直ちに十数人を連れて裏口に回って下さい」
「はい、了解しました」
「それから、出てきた者は皆拘束してください」
「はいっ」
そう言って元原は生徒会堂の裏口へ10人を伴って向かった。
「隊長メガホンです」
そう、差し出してくれたメガホンを受け取る。これは晴人が頼んでおいた物だ。驚いた事に、元々この学校では上下関係がしっかりしていたおかげで、思うより階級がずっとすんなり行き渡っている。
メガホンに叫ぶ。
「中の諸君に告ぐ。5分待つ。5分以内に投降しなければこちらも手段に出る」
そう言って晴人はスマホで時間を確認した。午後7時2分。1分と経たないうちに早速1人、窓を開けて出て来た。見た感じだが、3年生(中等部3年)ぐらいだろう。すぐに1人を向かわせて連れて来させる。
「中に人は何人居る?」
そいつは顔を恐怖で引き攣らせながら口をパクパクしている。
「何人居るんだ?」
もう一度問い直す。
「…………12人」
そして、続け様に3人飛び出てきた。そいつらに問うと、リーダーはやはり先程の田村良悟だと言う。そうこうしているうちに、スマホに仕掛けておいたタイマーが5分を知らせた。
「今、出て来た4人は特別に許す。だが、事が終わるまでここで待っていろ」
そう言うと、投稿して来た4人は一斉に頭を勢い良く縦に振った。
「治安隊、これより突入する。警棒よーい」
すると、残っていた20人全員が一斉に警棒を伸ばす。
「副隊長、これから我々は突入する。裏口から出て来た者を全員拘束せよ」
「了解しました」
そう、元原とトランシーバーでやりとりをして次にこちらの舞台に向き直って言う。
「皆も容疑者確保を何よりも優先し、確保した者には手錠をするように、突入は生徒会堂入り口左右にある窓から行う。二手に別れろ」
そう言うと、さすが野球部、動きは早く、すぐに10人ずつ二つの窓に別れた。
「突入ーー」
そう叫んで、左窓先頭の晴人が警棒を振り上げて窓を叩き割って突入した。早速、入って左から男が殴りかかって来た。それを警棒で受け止めて腹を蹴る。倒れた所を後ろの奴が手錠を掛けた。それを見て、中にいた数人が裏口へ走って行った。しかし、相手には武器らしい武器も無く、10分もしない内に中にいた8人全員を拘束した。そして、生徒会堂正面にそれらを集めた。投稿した4人は事前の約束通り、厳重注意をして、それぞれの体育館に人を付けて送らせ、逮捕した8人については、校舎地下の1室に入れる事になった。それを率いて歩いていると、再びスマホが震えた。今度は小松原中将からだった。
「はい、安藤です」
「安藤君、すぐに先程の会議室に再集合してくれ」
小松原中将は、慌ててそう言うと電話を切った。
「副隊長、後を任せれますか?」
「了解致しました」
そう言われると、晴人は踵を返して会議室へ走った。会議室に入ると、晴人以外の幹部は既に全員揃っていた。
「遅れて申し訳ありません」
と、少々息荒く言う。
「いや、任務遂行御苦労でした」
そう、大道寺元帥が声を掛けてくれた。そして早速と言う面持ちで小松原中将が立ち上がった。
「先程、幾つかの寮の管理人から生徒が帰らないので警察に知らせたと連絡があった。だが、まだこの事を知られるには早計である。よって警察の無電も学園に入った時点で使えないように大原にしてもらった、よって、警察が来れば直ちにそれを拘束する。兵は第一小隊50人に当たってもらう。東堂准尉、その役頼めるな」
「はい、もちろんです。では、準備のため退室します」
「分かった。」
そう言うと、東堂は「失礼します」と言って会議室を出て行った。
「それから、明日のことについても説明しておく。明日は楠村大佐にまず長岡学園小等部を占拠してもらう。実行は午前5時。兵は2個小隊を当てる。それが終われば、続いて小等部より2キロ程先にある旧校舎も占拠してくれ」
「了解しました」
「この命令書は後で作る。続いて中山准尉には1個小隊を率いて長岡学園学生病院を占拠してもらう。治療確保の為だ。その後は、そのまま長岡大学まで行って医学部の教授らを連れてきて加えて治療に当たらせろ。以上。今日の消灯は11時」
そう言ってその会議は終わって楠村大佐と中山准尉は準備の為出て行ったが、他の者は残った。もちろん、警察との事が気になるからだ。
「小松原、校舎外にいる生徒を校舎内に退避させろ」
松岡大将が言い放ってすぐに放送が入り、外は静寂に包まれた。二階のこの部屋からだとまっすぐの校舎まで続く幅35メートル、長さ300メートルのレンガ道が綺麗に見渡せる。9時ごろになってランプだけを回しながら直接第一運動場にパトカーが二台入って来た。
「大原、パトカーはこの二台だけか?」
「そのようです」
「どうやら、警察もまだこちらの事は分かっていないようだな」
と、松岡大将が言った。パトカーからは4人の警官が降りて何事かを言いながら校舎を見上げている。そこに東堂准尉率いる第一小隊50人が三八式歩兵銃を担いで走って後方からパトカーに向かう。パトカーまで残り30メートルというところで警官が振り向いたので小隊もそこで止まって三列になって銃を構える。よく1日でこれだけの訓練ができたものだ。兵達の士気が窺える。警官も慌てて拳銃をそちらに向けた。会議室にもどこか緊張が伝わって来る。トランシーバーをオンにしているのでこちらまで声が聞こえて来た。
「大人しく、投降して下さい。」
と叫ぶ。どうやら東堂の声のようだ。
「ん、君ー…………」
そこからの警官の声は聞き取れなかった。が、警官も不利を悟ったようで、銃を前に放って両手を挙げた。いつの間にか、校舎も静まり返り、他の教室からも大勢の生徒が見ていた。その時、小隊の数人が駆け付け、警官4人の手を後ろに回して拘束した。
「…本部聞こえますか?」
「ああ、聞こえている」
「…東堂准尉、警官4人を拘束しました」
「御苦労、地下の空いている所に入れておけ」
「了解しました」
そう、大道寺元帥が命令を下した。そう言えば、いつの間にか、他の教室には先程以上の活気があった。
「それから、今日の見張りは大泉大尉が第三十九小隊を率いて頼む」
「了解しました」
それで、本当に長い1日が終わった。
小屋には24人全員が学ランに新品の軍靴を履き揃っていた。まず、1人ずつに大道寺元帥から軍刀と最新のヘルメット、そして階級バッヂが配られて、軍式の紐を使って軍刀を腰に挿した。いよいよ晴人の番だ。大道寺元帥が右手でそれらを出すら、両手で受け取って腰に挿す。そして、晴人は金色の桜バッヂ6個を受け取り、左胸に着ける。次にら大道寺元帥の挨拶だった。
「皆、いよいよだ。最早、国家の行く末は我等に掛かっている。心してかかれ」
そう言うと大道寺元帥は後ろを向き、それに皆も合わせる。二礼、二泊手、一礼。神棚への拝礼だった。そして各員に機関銃や拳銃が渡された。
8時丁度。24人は小屋を発った。これが国を変える第一歩だ、という思いで。大道寺元帥が校舎裏にあり、小屋に1番近い第3通用門から入り、ここからは別行動で三班に分かれる。大道寺元帥と松岡大将率いる一班5人は職員室を占拠し、二班は、14人で、校内制圧を担当する。三班は残りの5人で、他の門からの出入りを見張る。そこで「じゃあ」と言って別れた。晴人は一班で職員室に直に出入りできる扉までひっそりと近づく。
「松岡、時間は?」
と、大道寺元帥が言うと、松岡大将が腕時計を見る。
「8時15分です」
「よし、これから一班、職員室を占拠する」
と、大道寺元帥が2、3班に告げた。この班は全員が短機関銃で武装している。松岡大将が眼前の扉をソッと開ける。
「全員っ、突入」
大道寺元帥を先頭に次々と校舎内、職員室に突入する。前の方に朝礼で集まっていた教師が後ろから入って来た、晴人等をマジマジと不思議そうに見る。
「なんだー、お前等は」
きっとこちらが学ランなのが分かったのだろう。いきなり体育教師の山波が大声を張り上げた。
「皆さん、私達は皆さんに危害を加えるつもりは有りませんが、皆さんが抵抗した場合はやむを得ない場合もあります」
と、大道寺元帥が一方的に宣言した。
「皆さん、今から僕達の言う通りに動いて下さい。まず、第一運動場に……」
「待てやっ、お前等。ふざけるにも度が過ぎとるぞっ。ちょっと来いっ」
と、再び山波が怒鳴って数人の男性教師と共に近寄って来た。大道寺元帥以外の4人がそれ等に銃口を向ける。
「大人しく言う事を聞いて頂きたい。我々も命懸けだ。容赦出来ない」
すると、大道寺元帥は自らの短機関銃で横にあった教師の机を1発撃った。ドンッ。すると、その教師達は足を止めた。
「さあ、第一運動場に出てください」
もう、教師達の顔は先程までの勢いも無く、蒼白と化していた。何が起こったのか理解するのを避けているようだった。すると、校長が他の教師に声を掛けて職員室から廊下に出て第一運動場(校舎前の運動場)に出られる扉を使って晴人等の指示に従い始めた。教職員と言っても5000人以上の大マンモス校なので、400人近く居る。それを外に出す。すると、そこに放送を流す為に職員室のマイクの電源を入れ、話しかける。
『全校生徒の皆さん。おはようございます。生徒会長の安藤です。突然ですが皆さん。この学校は我々皇国再建部改め、皇国再建軍が占拠しました。第一運動場をご覧ください。その教師達が何よりの証拠です。我々の目的はただ一つ。皇国再建です。我々にはこの戦争での十分な勝算があります。状況報告はここまでです。第二皇国再建部員は直ちに第一運動場にクラスごとで整列してください。因みに、各門は封鎖されています。繰り返す。第二皇国再建部……』
10分としない内に続々と第二皇国再建部学校クラスごとで並び始めた。その頃には教師等も整列が終わっていた。ここでもう一度放送を入れる。
『残りの生徒はそこを動かないで下さい。我々の武器は本物です。逆らう事は許しません』晴人も運動場に出ると驚いた。そこに並ぶ生徒の目はどれも朝日の如く輝いていた。これほどまでにこの国の若者は世の中を変えないのか……。先程職員室に入った5人が全校生徒の前に並ぶ。そこに朝礼壇が用意され、大道寺元帥が登る。すると、後者の中にいた14人の内10人が降りて来て、合流した。全校生徒にも、どこか緊張が伝わったか、誰も何も発さない。強く涼しい風が一陣吹いた。この土地は、今でも夏であっても涼しく、28度を超える事は滅多にない。松岡大将がマイクを握った。
「全部員、気を付けー、礼っ」
そのハキハキとした声に皆一斉に礼をする。すると松岡大将は大道寺元帥に目配せをした。
「諸君、おはよう。私は皇国再建部改め皇国再建軍元帥、大道寺利彦である。手短に経緯を説明する。我々はいつまで経っても大政奉還を行わない政府に対し、武力で大政奉還を行わせることに踏み切った。我々には勝算がある。その為に何十年と準備して来た。我々は君等の力を借りて何としてでもそれを行う。以上っ」
晴人の前にいる生徒は皆、感動に打ち震えているようだった。大道寺元帥に代わって松岡大将がマイクを持つ。
「諸君にはこれからそれぞれの教室に戻って座学訓練を受けてもらう。その後、3時間目以降は軍事訓練を受けてもらう。それから、クラスに今残っている第二皇国再建部以外の部員はこの運動場に集めて貰いたい。以上っ、解散。」
それに合わせて降りて来ていた10人も戻って行った。座学訓練の指導にあたるのだ。そして、やがて他部員が降りて来て、第一運動場はその生徒達と教職員だけになった。その生徒達もクラスごとに並ばせる。ようやく10分ほどして整列が完了した。それを晴人が松岡大将に報告する。
「全員、整列完了いたしました」
と、言うと松岡大将は小さく頷いた。今度は最初から大道寺元帥が話し始めた。
「諸君は、我々と行動を共にすることを望まなかった者達だ。ここにいるのを恐怖、また不服に思うものも多かろう。我々もそんな君達に同情する。だが、これよりここは戦場と化す。しかし、これも今日1日か、明日までだ。君らが素直であれば、それまでにはに解放を約束する。まず、1年(中等部1年)は第二体育館へ、2年(中等部2年)は第三体育館へ、3年(中等部3年)は第四体育館へ、4年(高等部1年)は第五体育館へ、5年(高等部2年)は第六体育館へ、6年(高等部3年)は第七体育館へ。以上、移動を開始して下さい。あっ、それから逃げようなんて考えない方がいいですよ、門は全て封鎖しています。また、逃げようとする者には容赦出来ません」
と言うと、生徒達は先程の生徒達とは真逆に恐怖を顔に貼り付け逃げるように小走りでそれぞれの場所へと動いた。大道寺元帥が朝礼壇から降りてくる。
「大原君、あれは飛ばせたか?」
「はい、順調です」
大原が飛ばしてある『あれ』とは安井会長から贈られた軍事用ドローン5台だった。いざとなれば射撃も可能で、これでは脱走防止の人数不足は補える。実は、このドローン「誰が操るかと言った時、2年の大原がプログラムが得意だということが分かり、こうなった。それを大原は特殊な端末で管理している。そうして、職員達も各体育館に付け、晴人等一班は職員室横の校長室に入った。校長室には応接用のソファが有り、その更に隣の部屋には何に使うのか仮眠用のベッドまである。元帥は1番上座のソファに座る。他の者は一旦立ったままだ。
「松岡と楠村と安藤は予定通り、作戦に移ってくれ」
「了解しました」
3人が口を揃えて答える。そう言って校長室を辞した。これから、捕虜を使って裏山にある武器を下に下ろすのだ。特に抵抗しないであろう捕虜にしてある他部員の1から4年生までの1,500人近くを動かすことになる。武器は山の人工洞窟に隠してある為、人力でしか降ろしようが無いのだ。晴人等はまず、1、2年生を動かすことになっている。理由は、1、2年生が入っている第二、第三体育館が隣同士だからだ。1、2年生の捕虜には銃器と銃弾を運ばせる事になっている。まず、入り口側にある銃器を動かさなければ後ろの大砲が動かせないからだ。第二体育館に晴人と楠村大佐が入り、第三体育館に松岡大将が向かった。2人が第二体育館に入った瞬間、まるで誰もそこから消えたように静まり返った。まあ、こうなればこちらはやり易い。
「全員、ここから出て我々に付いて来て下さい。早くっ」
最後だけ楠村大佐は怒鳴った。楠村が先頭に立つと、皆が恐怖に顔を引き攣らせながらゾロゾロとついて行く。五分としない内に体育館は空になった。それに続いて第三体育館からも2年生が続々と出始めていた。今度は、晴人が先頭になる。途中から続々と三八式歩兵銃を2挺ずつ重そうに背負った奴とすれ違い始めた。三八式歩兵銃は一挺3730グラムなので、二挺で7キロを超えて、そこそこの重さになる。それを表からは見えない2面の野球グラウンドまで運ぶ。その数2100挺。晴人は途中で列を外れて行列整理にあたった。1グラウンドに300挺ずつで、第一、第二運動場は外から見えるので2面の野球グラウンドと、サッカーグラウンド2面。それに、第三、第四運動場に置く。三八式歩兵銃の運搬が終わると、次に南部式大型自動拳銃250挺。これは、一箱に10挺ずつ入っているのですぐに25箱全て運び終わった。これを第五運動場に置いた。そして、九九式軽機関銃55挺を一挺3人ずつで運び、余った奴はそれぞれの銃の銃弾を運ばせて、終わったのが1時間目終了のチャイムと同時くらいだった。今、各教室では残った皇国再建軍の兵士達に階級バッヂが配られ、上下関係の説明や、命令系統、軍人の心得などが教えられている。2時間目、今度は3、4年生を使って、同じように九四式三七m m速射砲7門を数人1組で出させ、第一ラグビーグラウンドに裏山を向けてそれらを並べさせた。だが、最後に最も大変な物が残った。九六式十五糎榴弾砲だ。全備重量4140キロにもなる。なんとか一門200人態勢で用意しておいた縄で上からその縄を引きながらゆっくり降ろして行く。裏山から先程の下ろすと、先程の200人程で押して第二ラグビーグラウンドにこれも同じく裏山向きに三門、一定の間隔で置いた。本当であれば、裏山を下ろしてからは車を使えば良かったのだが、それをしなかったのは、捕虜である彼、彼女等の反抗心を削ぐ為である。この捕虜の中で女子が多い中での重労働は、確実に彼等の反抗心を失わせていた。その後、彼等を元の体育館にそれぞれ戻して、晴人等は校長室に戻ると丁度2時間目の終わりをチャイムが告げた。この後は、それぞれ各自の持ち場で訓練に移る。人員はおよそ2700人。2000人が三八式歩兵銃の訓練を行い、2人1組の短機関銃訓練に軍備も入れて180人。そして合計10門の大砲に一門15人ずつ150人が訓練にあたる。因みに、残りの約400人は剣道部60人は竹刀を軍刀に代えて訓練させ、馬術部80人は馬上射撃と伝令の訓練を行い、残りは、輸送と斥候の訓練を受けた。校長室には大原と晴人、大道寺元帥だけが残った。門を見張っていた者の三班全員が訓練の教官になる。そして、以前の訓練と同じように理解した者は次の者に教えていく。ズドンっ、ズドンっと、次々と大砲や銃の音が聞こえ出した。晴人はまだ大道寺元帥とする事があるので校長室に残された。
「そろそろかな、安藤君。行こうか」
「はいっ」
大道寺元帥と2人で校長室を出て向かったのは生徒会堂だった。大道寺元帥には生徒会堂後方から入ってもらい、生徒会幹部室で待っていてもらう。2人とも護身用として拳銃と軍刀を持っている。生徒会堂に入ると、皇国再建軍幹部以外の役員の65人が顔を揃えていた。その中にも、30人ほどが階級バッヂを着けている。晴人は、いつもの生徒会長席に着いた。すると、いきなりバンッと勢いよく机を叩いて1人の男が立った。見ると、この間文句を言いに来た奴だった。
「会長、こんなテロリスト紛いな行為は生徒会長がやるべき行為では無いっ。直ちに生徒会長を辞任し、自首して頂きたい」
ふぅ、こいつは気骨があるが声が鬱陶しい。他のやつが萎縮する中でこいつだけは堂々としている。だが、その願いは叶えてやれない。
「君、とりあえず落ち着け、私達は生徒と戦争するつもりは無い。ただ、この生徒会は生徒の意思を表明する最高機関だ。正直、我が軍はそれを尊重したい。出来る限り、その為我が軍にいる幹部は今、私を除いて全員生徒会役員の職を辞し、後任を大道寺利彦氏に臨時的に任せた。」
すると、
「我々も辞職します」
そう言って次々と生徒会バッヂを外して後任を大道寺利彦氏に任せるとして軍に入っている者を含めて38人が辞任し、これで大道寺元帥は過半数を超える52票を手に入れ、実質的な独裁体制に倣った。
「辞退した軍人は直ちに訓練に合流してください」
そう言うと、次々と人が出て行った。その間もずっと銃と大砲の音が聞こえてくる。
「そんなことは看過出来ないっ」
その声を背中に聞きながら晴人は大道寺元帥を会議室の中に入れた。すると、大道寺元帥は会議室に入って先程までの晴人の席に着くなりいきなりこう言った。
「私は今日より、この機関の長になる。以上っ」
そう言って戻って行って後には唖然とした雰囲気が残った。
「皆、各自の体育館に戻って下さい」
そう言うと、渋々の体で皆帰って行った。そして、もう一度軍に入っている元第二皇国再建部の生徒会役員30人ほどが招集された。指揮官が足りないので階級を上げるのだ。それぞれに准尉任官が言い渡された。その為、金色のバッヂが多く胸に飾られた。しかし、こいつ等は軍の会議には参加しない。あくまで指揮官だ。そして、晴人と大道寺元帥は各訓練を見回りながら校長室に戻った。
「元帥、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「何ですか?」
「どうして生徒会役員を集められたのですか、正直あれは必要無かったのではないか、と」
大道寺元帥は困ったように笑って、
「ふーん……。何となくだよ」
と、笑い飛ばした。
「それより安藤君、」
「はい、何でしょう」
「急な事だが、君には今日の夜から治安隊の体調になってもらう」
「え、治安隊ですか?」
「ああ、人員は野球部から30人ほど出してもらう。もちろん、何も無いのが1番いいのだが、不良等が何をしでかすかも分からんし、政治犯が出る可能性もあるからな。頼めるかな?」
受けるかどうかじゃ無い。受けるしかないのだ。
「軍令に従います」
そう言うと大道寺元帥は満足そうに頷いた。
そして昼休みを挟んで午後5時には訓練は終了し、各自の自教室や空き教室に帰った。因みに、これからは非常用の布団を出して生活する。夕食には安井会長が寄贈した非常食が出される。その間に軍の幹部達は校内の会議室に集まった。そこで、今日の報告が行われ、明日の説明がある。ここで正式に軍編成が決まった。歩兵2000人を50人ずつに分けて40。それの1つが小隊。5個で中隊。10個で大隊と決まった。そしてその割り振りも発表された。そして、そこで正式に晴人が治安隊隊長になる事が発表された。
「皆、今日の夜から明日にかけてキット第一戦が起こる。きっと今頃、寮の管理人が警察に電話しているだろう。今夜はゆっくりと休んで明日以降の戦いに備えてくれ、以上っ」
それではこの軍議は終了した。皆、それぞれに解散する。そして交代するようにそこに体格の良い坊主頭の30人程が入ってきた。30人の先頭のやつが敬礼の合図と共に皆一斉に敬礼のする。皆、階級は四等兵から一等兵までだ。こちらは少し遅れて敬礼を返す。
「治安隊に所属する事が決まりました。野球部主将、一等兵元原です」
「そういうことだ。頼んだよ」
そう言って大道寺元帥は出て行った。
「皆さん、よろしくお願いします」
「はいっ、」
威勢の良い30人の声が揃って返ってきた。そして、その30人に警棒と拳銃とトランシーバーと、手錠を配った。どれも安井会長からの物だ。
「皆さん、射撃は最終手段です。まずは、警棒で鎮圧して下さい。また、逮捕も可能です。それから。元原一等兵をこの治安隊の副隊長に任命します。以上っ、トランシーバーはいつでも使えるようにしておくように。解散っ」
それでゾロゾロと30人が去って行った。晴人は1日で以上に疲れた気がした。今日1日で全てが起こったとは考えれないほどの成果だ。疲れに任せてそこにあった椅子に座った。すると、胸ポケットに入れてあったスマホが震え始めた。これは、大原の改造で電波妨害の中でも通じるようになっている。画面には松岡大将の名があった。
「はい、安藤です」
「安藤、就任早々早速だが、出動だ。生徒会堂で反乱が起きたようだ。じゃな」
と言って電話は切られた。早速の出動だった。どうやらそう休めれない運命のようだ。トランシーバーのスイッチを押しながら言う。
「治安隊隊員。裏玄関に直ちに集合。急げっ」
そう言って晴人自身も走って裏玄関に向かった。既にそこには十数人が集まっていた。その後も、ものの数分で全員が集まった。
「元原副隊長っ」
「はいっ、」
「今回の事案は反乱です。詳細は分かりません。では行きましょう」
そう行って晴人が先頭を切って生徒会堂まで走った。既にそこには人だかりが出来ていた。何やら、中のスピーカーから声がしている。
『諸君、自分の学校をいいように操られ、その上…………』
聞いていて溜め息が漏れた。またあの男だった。こんな事だったら早々に逮捕すればよかった。とりあえず、他の安全確保のため、集まっていた奴等を5分ほどかけて校舎に戻した。どいつも、帰りながら生徒会堂に罵声を浴びせていた。
「おいっ、また君か。すぐに投降しなさい。」
晴人は声を張り上げる。
『君じゃ無い。私は田村良悟だ。君達がテロを諦めるのなら投降する』
ため息では収まらないぐらいに呆れた。
「元原副隊長、直ちに十数人を連れて裏口に回って下さい」
「はい、了解しました」
「それから、出てきた者は皆拘束してください」
「はいっ」
そう言って元原は生徒会堂の裏口へ10人を伴って向かった。
「隊長メガホンです」
そう、差し出してくれたメガホンを受け取る。これは晴人が頼んでおいた物だ。驚いた事に、元々この学校では上下関係がしっかりしていたおかげで、思うより階級がずっとすんなり行き渡っている。
メガホンに叫ぶ。
「中の諸君に告ぐ。5分待つ。5分以内に投降しなければこちらも手段に出る」
そう言って晴人はスマホで時間を確認した。午後7時2分。1分と経たないうちに早速1人、窓を開けて出て来た。見た感じだが、3年生(中等部3年)ぐらいだろう。すぐに1人を向かわせて連れて来させる。
「中に人は何人居る?」
そいつは顔を恐怖で引き攣らせながら口をパクパクしている。
「何人居るんだ?」
もう一度問い直す。
「…………12人」
そして、続け様に3人飛び出てきた。そいつらに問うと、リーダーはやはり先程の田村良悟だと言う。そうこうしているうちに、スマホに仕掛けておいたタイマーが5分を知らせた。
「今、出て来た4人は特別に許す。だが、事が終わるまでここで待っていろ」
そう言うと、投稿して来た4人は一斉に頭を勢い良く縦に振った。
「治安隊、これより突入する。警棒よーい」
すると、残っていた20人全員が一斉に警棒を伸ばす。
「副隊長、これから我々は突入する。裏口から出て来た者を全員拘束せよ」
「了解しました」
そう、元原とトランシーバーでやりとりをして次にこちらの舞台に向き直って言う。
「皆も容疑者確保を何よりも優先し、確保した者には手錠をするように、突入は生徒会堂入り口左右にある窓から行う。二手に別れろ」
そう言うと、さすが野球部、動きは早く、すぐに10人ずつ二つの窓に別れた。
「突入ーー」
そう叫んで、左窓先頭の晴人が警棒を振り上げて窓を叩き割って突入した。早速、入って左から男が殴りかかって来た。それを警棒で受け止めて腹を蹴る。倒れた所を後ろの奴が手錠を掛けた。それを見て、中にいた数人が裏口へ走って行った。しかし、相手には武器らしい武器も無く、10分もしない内に中にいた8人全員を拘束した。そして、生徒会堂正面にそれらを集めた。投稿した4人は事前の約束通り、厳重注意をして、それぞれの体育館に人を付けて送らせ、逮捕した8人については、校舎地下の1室に入れる事になった。それを率いて歩いていると、再びスマホが震えた。今度は小松原中将からだった。
「はい、安藤です」
「安藤君、すぐに先程の会議室に再集合してくれ」
小松原中将は、慌ててそう言うと電話を切った。
「副隊長、後を任せれますか?」
「了解致しました」
そう言われると、晴人は踵を返して会議室へ走った。会議室に入ると、晴人以外の幹部は既に全員揃っていた。
「遅れて申し訳ありません」
と、少々息荒く言う。
「いや、任務遂行御苦労でした」
そう、大道寺元帥が声を掛けてくれた。そして早速と言う面持ちで小松原中将が立ち上がった。
「先程、幾つかの寮の管理人から生徒が帰らないので警察に知らせたと連絡があった。だが、まだこの事を知られるには早計である。よって警察の無電も学園に入った時点で使えないように大原にしてもらった、よって、警察が来れば直ちにそれを拘束する。兵は第一小隊50人に当たってもらう。東堂准尉、その役頼めるな」
「はい、もちろんです。では、準備のため退室します」
「分かった。」
そう言うと、東堂は「失礼します」と言って会議室を出て行った。
「それから、明日のことについても説明しておく。明日は楠村大佐にまず長岡学園小等部を占拠してもらう。実行は午前5時。兵は2個小隊を当てる。それが終われば、続いて小等部より2キロ程先にある旧校舎も占拠してくれ」
「了解しました」
「この命令書は後で作る。続いて中山准尉には1個小隊を率いて長岡学園学生病院を占拠してもらう。治療確保の為だ。その後は、そのまま長岡大学まで行って医学部の教授らを連れてきて加えて治療に当たらせろ。以上。今日の消灯は11時」
そう言ってその会議は終わって楠村大佐と中山准尉は準備の為出て行ったが、他の者は残った。もちろん、警察との事が気になるからだ。
「小松原、校舎外にいる生徒を校舎内に退避させろ」
松岡大将が言い放ってすぐに放送が入り、外は静寂に包まれた。二階のこの部屋からだとまっすぐの校舎まで続く幅35メートル、長さ300メートルのレンガ道が綺麗に見渡せる。9時ごろになってランプだけを回しながら直接第一運動場にパトカーが二台入って来た。
「大原、パトカーはこの二台だけか?」
「そのようです」
「どうやら、警察もまだこちらの事は分かっていないようだな」
と、松岡大将が言った。パトカーからは4人の警官が降りて何事かを言いながら校舎を見上げている。そこに東堂准尉率いる第一小隊50人が三八式歩兵銃を担いで走って後方からパトカーに向かう。パトカーまで残り30メートルというところで警官が振り向いたので小隊もそこで止まって三列になって銃を構える。よく1日でこれだけの訓練ができたものだ。兵達の士気が窺える。警官も慌てて拳銃をそちらに向けた。会議室にもどこか緊張が伝わって来る。トランシーバーをオンにしているのでこちらまで声が聞こえて来た。
「大人しく、投降して下さい。」
と叫ぶ。どうやら東堂の声のようだ。
「ん、君ー…………」
そこからの警官の声は聞き取れなかった。が、警官も不利を悟ったようで、銃を前に放って両手を挙げた。いつの間にか、校舎も静まり返り、他の教室からも大勢の生徒が見ていた。その時、小隊の数人が駆け付け、警官4人の手を後ろに回して拘束した。
「…本部聞こえますか?」
「ああ、聞こえている」
「…東堂准尉、警官4人を拘束しました」
「御苦労、地下の空いている所に入れておけ」
「了解しました」
そう、大道寺元帥が命令を下した。そう言えば、いつの間にか、他の教室には先程以上の活気があった。
「それから、今日の見張りは大泉大尉が第三十九小隊を率いて頼む」
「了解しました」
それで、本当に長い1日が終わった。
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