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第2章
新年度
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四月五日
新年度の始業式が行われ、新五年生、普通の高校で言うと高校二年生に進級した。クラス替えでは、再び吉彦とは同じクラスだった。が、クラスの五割から六割は喋ったこともないような奴だった。いよいよ放課され、皆思い思いに席を立ち歓談に耽ったりしている中、一緒に帰ろうと吉彦の席に行くと、すでに先客とはなしていた。他のやつと帰ろうかと思って歩こうとした時、吉彦が気付いて声を掛けてきた。
「あっ、ちょうどよかった晴人。こいつ、新聞部の斉木。今から今度の取材したいんだって。」
「初めまして斉木です。同級なのでお見知り置きを。申し訳ないが、あまり時間が無くて今日お願い出来ますか?」
斉木は眼鏡をかけた背の高い男だった。
「ええ、じゃ、早速行きますか」
そう言うと、斉木はニコッと笑って歩き始めた。
「新聞部の部室は文化部部室棟の二階です」
斉木はそう言った。うちの学校には部室棟(もはや、普通の校舎のような)がそれぞれ違った場所に三つある。一つ目はスポーツ系の部室棟。例えば野球、サッカー、ラグビーなどが入っている。二つ目は、武道系の部室棟。こちらは弓道、柔道、剣道、少林寺拳法などが入る。そして最後が新聞部などが入っていて、校舎と唯一連絡橋で繋がっている文化系部室棟だ。どの文化系部室棟は三階建で、三階に連絡橋があるので3階まで降りる。連絡橋を渡り、部室棟内の階段を二階まで降りる。その1番奥の部屋が新聞部となっていた。
「みんなー、安藤君と安倍君を連れて来たよ」
斉木はノックもせず、入ると挨拶もせずに中に呼び掛けた。部室一つは教室と同じくらいか、それより若干広いくらいの大きさである。新聞部はその部室の半分ほどを壁で区切って出入り口側に近い方は机やパソコンやカメラなどが置いてあって機材が置いてあった。奥には新聞の印刷に使う印刷機などが置かれているらしい。晴人と吉彦は6人掛けの机に案内されて座って待っていた。
「少し待っていて下さい、奥の部屋の奴らに声かけて人呼んできます」
そう言って斉木は奥に入って行った。
「んっ、誰?」
そう言いながら出入り口の扉から肩にカメラをかけた女子生徒が入って来た。背は女子にしては高く、細くて足が長く端正な顔の美形だ。
「初めまして、お世話になる安藤です」
「安倍です」
晴人に続いて吉彦も挨拶をする。
「ん、ああ、君等がそうか。話は聞いてるよ」
そう言って向かいの席に腰を下ろす。
「新聞部部長の六年渡部楓です。よろしくね」
そこに斉木がもう1人を連れて戻って来た。
「あっ、渡部先輩。ようやくきましたか」
「サボってたみたいに言わないでよ、写真撮ってたんだよ」
そう言って渡部はカメラを掲げて見せた。
はいはいと言って笑いながら斉木は連れて来たもう1人と渡辺を挟むようにして座った。もう1人、渡辺の横に座ったのは中等部三年の大森と名乗る背の小さい女生徒だった。
「では、時間も無いだろうし、早速取材始めますか」
と斉木が言って取材に行きそうなのを
「その前に少し新聞部の事が聞きたいなぁ」
と晴人の口から自然に出た言葉が遮った。斉木は困りながらも頷き、渡部に説明を促したが、渡部はずっとカメラのレンズを磨いていたのでため息を一つ吐いて斉木が喋り始めた。
「では、僕が話します。新聞部は部員12人。今、本校の中では同好会、部活含めて1番小さい部活になります。四年前に当時の情報発信部から雑誌課が独立して雑誌部になったので一気に部員が減りました」
「あー、あの生徒会誌とか、部活誌作ってる部活?」
「そうです、元は情報発信部と言う一つの部活でした」
もういいか、と言う具合にこちらを見てくるのでこちらも頷く。何故か斉木、渡部、大森の表情は憎々しげだった。この時の晴人にその表情の意味はまだ分からなかった。
「では、改めて質問します。ここからはボイスレコーダーも並行で使わせて貰いますね」
と言って斉木がボイスレコーダーのスイッチを入れて机の上に置いた。大林はメモを出して、早速何かを書き込み始めている。
「では、質問です。そもそも、皇国再建部って何の部活ですか?」
隣に少し視線を送ったが、吉彦は答える気が無いらしい。
「皇国再建部とは名前の通り、強く美しい日本を再建し、日本国本来の統治の姿を実現しようという部活で、政治思想は、畏れ多くも天皇陛下を戴いた政治を行おうという学生政治団体です」
晴人の話で斉木と大森の目は輝きを見せていた。当たり前だ。今は、日本全体が右傾化していて、その発端が皇国再建部の様な学生団体なのだから。
「では、部員はどのようなメンバーなのですか?」
「今までは、部の方で毎年、新入生を審査し、部の方から声を掛けて来ていました。その審査は、大変厳しいものでしたが、いよいよ国際情勢が悪化する今日。若者に政治活動の場を与えるために、我が部は僕が生徒会長になった暁には『第二皇国再建部』を作り、生徒の皆さんにも門を開くつもりです。因みに、今の部員の年齢は中等部二年から大学院のメンバーです。」
「それは…それは女子も男子も関係なくですか?」
大林が恐る恐るという感じで聞いてくる。
「はい。もちろん。女子も歓迎します。」
斉木は少し下を向いていたが、顔を上げて質問を続けた。
「しかし、そうなるとこの御時世、我が校で最大の部員を誇る部活になるのではないですか?」
「ええ、おそらくそうなるでしょう。ですから『第二』が付くのです。第一が企画し、第二と共に行う。これが我々の理想です」
斉木は何度も顔を縦にゆっくり振った。
「分かりました。ではあと二つです。一つ目、言わば、政治的な部活になりますが、教師たちの反応は大丈夫でしょうか?」
「ええ、我が国では一昨年法律が変わり、高校生以上には全選挙の投票権が与えられ、中学生には地方選挙のみですが選挙権が認められました。なので、その点に私達は不安はありません」
「では最後になります。読者に対して一言お願いします。」
「皆さん。皆さんも私達と日本を変えるために是非第二皇国再建部へ入部してください。我々は同志をいつでも歓迎します」
そう言うと、まだ斉木と大森は感動しているようだったが、斉木がボイスレコーダーのスイッチを切った。そして1、2分談笑していると、渡部がカメラを置いて話しかけて来た。
「安藤君と安部君だっけ」
渡部が誰に問うとなく一人で喋る。
「何で私があなた達を今年応援する事に決めたか分かる?」
「政治思想に共感して頂いたわけでは…ないですよね?」
渡部が頷く。
「もう1人、新聞部に協力を頼んできた奴がいた。けどそいつが先に雑誌部に声を掛けてたから。それだけ」
渡部はニヤニヤしながらそう言うと奥の部屋に入って行ってしまった。それから何枚かの写真を撮ってその日の取材は終わった。その後は新聞部を後にして学生寮に帰ることにした。新聞部を出ると、ちょうど同じ時に隣の扉も開いて人が出て来た。1人の男子生徒のようだった。そいつはこちらを見て一瞬目を大きくして近付いて来る。
「君が安藤晴人君ですか?」
「いかにも、僕が安藤です」
「そうですか、僕は浜内峰斗と言います。以後お見知りおきを。では」
そう言って浜内は回れ右してこちらに背を向けて行ってしまった。意表を突かれてしばらく混乱した。
「吉彦、浜内って次の生徒会長候補の浜内か?」
「そう、みたいだな」
「あいつが相手か…」
「おいおい、そう弱気になるなよ。この選挙には俺らの作戦が掛かってるんだからな」
「そうだな、」
どうやら吉彦はこの前の大道寺元帥の近田ノートの話を励ましと捉えたようだが、晴人の考えは違う。あの話の途中、大道寺元帥は例えに歯車を持ち出した。近田先輩の作戦は一つの歯車が動かないと全てが動かない、と。しかし、あの話は励ましとは言い難い。あの例えは、俺の作戦には代えの歯車がある。だから失敗はお前らの評価に関わる、と。そんな暗示ではなかったのだろうか。浜内が出てきた扉はまで行き、立ち止まって扉の上を見る。『雑誌部』と、扉の上にはあった。
「吉彦…良いことを思い付いたぞ、放送部だ。放送部へ行くぞ」
と言って部室等の真ん中にある階段に走った。
「待てっ晴人」
もう少しで階段というところで立ち止まって振り返る。
「お前、放送部がどこか知ってんのか?」
「………」
そういえば…知らない。ただ、降りようとしていた。2人の間には少しの間を取って沈黙が訪れた。新聞部に一度戻って放送部の場所を聞くと、一階の新聞部の真下だと教えてくれた。階段を降り、一階の放送部の扉の前に立つと、扉越しでも色々な声が聞こえて来た。騒いでいるのとは違う。きっと放送についてだろう。
「晴人、何をするんだ?」
横に立っている吉彦が聞いて来る。
「三国同盟ならぬ、三部同盟だよ」
吉彦は未だ分からない顔をしている。
「ま、いいか。晴人に任せる」
その言葉に晴人は返答の替わりに頷く。ノックをして扉を開けた。その瞬間に中の喧騒は止んだ。
「どちら様ですか?」
1人の安藤よりだいぶ背の小さい女子が声をかけて来る。
「あれ、安藤君と安倍君じゃん。どうしたの?」
そう言って顔を見せたのは、去年、今年と、同じクラスの立脇と言う女子生徒だった。立脇は明るい性格で誰にでも好かれていた。
「部長さんいる?」
「私ですけど」そう言ったのは奥に立っている女子だった。
「あっ、この人が部長の伊岡さん。伊岡さん、この二人は安倍くんと安藤くん」
「立脇、紹介ありがとう。伊岡さん、改めて安藤と言います」
伊岡は何の話かと、眉を寄せて訝しんでいる。
「あのですね、少し伊岡さんにお話が…放送部についてのことで」
未だ伊岡はこちらを訝しそうな目で見ている。それもそうか、突然知らない後輩が部活のことで話があると訪ねて来たのだから。伊岡は振り返って壁掛けの時計を見る。じこくは15時四十八分。
「5時に商業街のスターバックスで待ってて、じゃあ」
そう言って扉は閉じられてしまった。中からは女子の騒ぐ声が聞こえた。
「吉彦、時間が無い。まず新聞部に戻る。その後、調べ物がある手伝ってくれ」
「ああ」
新年度の始業式が行われ、新五年生、普通の高校で言うと高校二年生に進級した。クラス替えでは、再び吉彦とは同じクラスだった。が、クラスの五割から六割は喋ったこともないような奴だった。いよいよ放課され、皆思い思いに席を立ち歓談に耽ったりしている中、一緒に帰ろうと吉彦の席に行くと、すでに先客とはなしていた。他のやつと帰ろうかと思って歩こうとした時、吉彦が気付いて声を掛けてきた。
「あっ、ちょうどよかった晴人。こいつ、新聞部の斉木。今から今度の取材したいんだって。」
「初めまして斉木です。同級なのでお見知り置きを。申し訳ないが、あまり時間が無くて今日お願い出来ますか?」
斉木は眼鏡をかけた背の高い男だった。
「ええ、じゃ、早速行きますか」
そう言うと、斉木はニコッと笑って歩き始めた。
「新聞部の部室は文化部部室棟の二階です」
斉木はそう言った。うちの学校には部室棟(もはや、普通の校舎のような)がそれぞれ違った場所に三つある。一つ目はスポーツ系の部室棟。例えば野球、サッカー、ラグビーなどが入っている。二つ目は、武道系の部室棟。こちらは弓道、柔道、剣道、少林寺拳法などが入る。そして最後が新聞部などが入っていて、校舎と唯一連絡橋で繋がっている文化系部室棟だ。どの文化系部室棟は三階建で、三階に連絡橋があるので3階まで降りる。連絡橋を渡り、部室棟内の階段を二階まで降りる。その1番奥の部屋が新聞部となっていた。
「みんなー、安藤君と安倍君を連れて来たよ」
斉木はノックもせず、入ると挨拶もせずに中に呼び掛けた。部室一つは教室と同じくらいか、それより若干広いくらいの大きさである。新聞部はその部室の半分ほどを壁で区切って出入り口側に近い方は机やパソコンやカメラなどが置いてあって機材が置いてあった。奥には新聞の印刷に使う印刷機などが置かれているらしい。晴人と吉彦は6人掛けの机に案内されて座って待っていた。
「少し待っていて下さい、奥の部屋の奴らに声かけて人呼んできます」
そう言って斉木は奥に入って行った。
「んっ、誰?」
そう言いながら出入り口の扉から肩にカメラをかけた女子生徒が入って来た。背は女子にしては高く、細くて足が長く端正な顔の美形だ。
「初めまして、お世話になる安藤です」
「安倍です」
晴人に続いて吉彦も挨拶をする。
「ん、ああ、君等がそうか。話は聞いてるよ」
そう言って向かいの席に腰を下ろす。
「新聞部部長の六年渡部楓です。よろしくね」
そこに斉木がもう1人を連れて戻って来た。
「あっ、渡部先輩。ようやくきましたか」
「サボってたみたいに言わないでよ、写真撮ってたんだよ」
そう言って渡部はカメラを掲げて見せた。
はいはいと言って笑いながら斉木は連れて来たもう1人と渡辺を挟むようにして座った。もう1人、渡辺の横に座ったのは中等部三年の大森と名乗る背の小さい女生徒だった。
「では、時間も無いだろうし、早速取材始めますか」
と斉木が言って取材に行きそうなのを
「その前に少し新聞部の事が聞きたいなぁ」
と晴人の口から自然に出た言葉が遮った。斉木は困りながらも頷き、渡部に説明を促したが、渡部はずっとカメラのレンズを磨いていたのでため息を一つ吐いて斉木が喋り始めた。
「では、僕が話します。新聞部は部員12人。今、本校の中では同好会、部活含めて1番小さい部活になります。四年前に当時の情報発信部から雑誌課が独立して雑誌部になったので一気に部員が減りました」
「あー、あの生徒会誌とか、部活誌作ってる部活?」
「そうです、元は情報発信部と言う一つの部活でした」
もういいか、と言う具合にこちらを見てくるのでこちらも頷く。何故か斉木、渡部、大森の表情は憎々しげだった。この時の晴人にその表情の意味はまだ分からなかった。
「では、改めて質問します。ここからはボイスレコーダーも並行で使わせて貰いますね」
と言って斉木がボイスレコーダーのスイッチを入れて机の上に置いた。大林はメモを出して、早速何かを書き込み始めている。
「では、質問です。そもそも、皇国再建部って何の部活ですか?」
隣に少し視線を送ったが、吉彦は答える気が無いらしい。
「皇国再建部とは名前の通り、強く美しい日本を再建し、日本国本来の統治の姿を実現しようという部活で、政治思想は、畏れ多くも天皇陛下を戴いた政治を行おうという学生政治団体です」
晴人の話で斉木と大森の目は輝きを見せていた。当たり前だ。今は、日本全体が右傾化していて、その発端が皇国再建部の様な学生団体なのだから。
「では、部員はどのようなメンバーなのですか?」
「今までは、部の方で毎年、新入生を審査し、部の方から声を掛けて来ていました。その審査は、大変厳しいものでしたが、いよいよ国際情勢が悪化する今日。若者に政治活動の場を与えるために、我が部は僕が生徒会長になった暁には『第二皇国再建部』を作り、生徒の皆さんにも門を開くつもりです。因みに、今の部員の年齢は中等部二年から大学院のメンバーです。」
「それは…それは女子も男子も関係なくですか?」
大林が恐る恐るという感じで聞いてくる。
「はい。もちろん。女子も歓迎します。」
斉木は少し下を向いていたが、顔を上げて質問を続けた。
「しかし、そうなるとこの御時世、我が校で最大の部員を誇る部活になるのではないですか?」
「ええ、おそらくそうなるでしょう。ですから『第二』が付くのです。第一が企画し、第二と共に行う。これが我々の理想です」
斉木は何度も顔を縦にゆっくり振った。
「分かりました。ではあと二つです。一つ目、言わば、政治的な部活になりますが、教師たちの反応は大丈夫でしょうか?」
「ええ、我が国では一昨年法律が変わり、高校生以上には全選挙の投票権が与えられ、中学生には地方選挙のみですが選挙権が認められました。なので、その点に私達は不安はありません」
「では最後になります。読者に対して一言お願いします。」
「皆さん。皆さんも私達と日本を変えるために是非第二皇国再建部へ入部してください。我々は同志をいつでも歓迎します」
そう言うと、まだ斉木と大森は感動しているようだったが、斉木がボイスレコーダーのスイッチを切った。そして1、2分談笑していると、渡部がカメラを置いて話しかけて来た。
「安藤君と安部君だっけ」
渡部が誰に問うとなく一人で喋る。
「何で私があなた達を今年応援する事に決めたか分かる?」
「政治思想に共感して頂いたわけでは…ないですよね?」
渡部が頷く。
「もう1人、新聞部に協力を頼んできた奴がいた。けどそいつが先に雑誌部に声を掛けてたから。それだけ」
渡部はニヤニヤしながらそう言うと奥の部屋に入って行ってしまった。それから何枚かの写真を撮ってその日の取材は終わった。その後は新聞部を後にして学生寮に帰ることにした。新聞部を出ると、ちょうど同じ時に隣の扉も開いて人が出て来た。1人の男子生徒のようだった。そいつはこちらを見て一瞬目を大きくして近付いて来る。
「君が安藤晴人君ですか?」
「いかにも、僕が安藤です」
「そうですか、僕は浜内峰斗と言います。以後お見知りおきを。では」
そう言って浜内は回れ右してこちらに背を向けて行ってしまった。意表を突かれてしばらく混乱した。
「吉彦、浜内って次の生徒会長候補の浜内か?」
「そう、みたいだな」
「あいつが相手か…」
「おいおい、そう弱気になるなよ。この選挙には俺らの作戦が掛かってるんだからな」
「そうだな、」
どうやら吉彦はこの前の大道寺元帥の近田ノートの話を励ましと捉えたようだが、晴人の考えは違う。あの話の途中、大道寺元帥は例えに歯車を持ち出した。近田先輩の作戦は一つの歯車が動かないと全てが動かない、と。しかし、あの話は励ましとは言い難い。あの例えは、俺の作戦には代えの歯車がある。だから失敗はお前らの評価に関わる、と。そんな暗示ではなかったのだろうか。浜内が出てきた扉はまで行き、立ち止まって扉の上を見る。『雑誌部』と、扉の上にはあった。
「吉彦…良いことを思い付いたぞ、放送部だ。放送部へ行くぞ」
と言って部室等の真ん中にある階段に走った。
「待てっ晴人」
もう少しで階段というところで立ち止まって振り返る。
「お前、放送部がどこか知ってんのか?」
「………」
そういえば…知らない。ただ、降りようとしていた。2人の間には少しの間を取って沈黙が訪れた。新聞部に一度戻って放送部の場所を聞くと、一階の新聞部の真下だと教えてくれた。階段を降り、一階の放送部の扉の前に立つと、扉越しでも色々な声が聞こえて来た。騒いでいるのとは違う。きっと放送についてだろう。
「晴人、何をするんだ?」
横に立っている吉彦が聞いて来る。
「三国同盟ならぬ、三部同盟だよ」
吉彦は未だ分からない顔をしている。
「ま、いいか。晴人に任せる」
その言葉に晴人は返答の替わりに頷く。ノックをして扉を開けた。その瞬間に中の喧騒は止んだ。
「どちら様ですか?」
1人の安藤よりだいぶ背の小さい女子が声をかけて来る。
「あれ、安藤君と安倍君じゃん。どうしたの?」
そう言って顔を見せたのは、去年、今年と、同じクラスの立脇と言う女子生徒だった。立脇は明るい性格で誰にでも好かれていた。
「部長さんいる?」
「私ですけど」そう言ったのは奥に立っている女子だった。
「あっ、この人が部長の伊岡さん。伊岡さん、この二人は安倍くんと安藤くん」
「立脇、紹介ありがとう。伊岡さん、改めて安藤と言います」
伊岡は何の話かと、眉を寄せて訝しんでいる。
「あのですね、少し伊岡さんにお話が…放送部についてのことで」
未だ伊岡はこちらを訝しそうな目で見ている。それもそうか、突然知らない後輩が部活のことで話があると訪ねて来たのだから。伊岡は振り返って壁掛けの時計を見る。じこくは15時四十八分。
「5時に商業街のスターバックスで待ってて、じゃあ」
そう言って扉は閉じられてしまった。中からは女子の騒ぐ声が聞こえた。
「吉彦、時間が無い。まず新聞部に戻る。その後、調べ物がある手伝ってくれ」
「ああ」
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