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プロローグ

死神赤ずきん

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裏業界の人間なら、誰もが知っている。
夜に現れる、フード付きのコートを深く被った人物。
その男に声をかけたら最後。
男のコートが血で真っ赤に染まるまで身体を切り刻まれる。
その姿から人々は彼をこう呼ぶ。


「死神の赤ずきん」と。








「貴方、そのコートとても素敵ね。パーティに疲れたの?テラスに居ては身体が冷えてしまうわ。休みたいのなら、私の部屋に来ない?シャワーもあるし、飲み直しに上等なワインも用意してあるわ」
セレブ達が集うパーティ会場のテラスで、1人の男が、胸元が大きく開いた真っ赤なドレスを着た女性に声を掛けられた。
「……良いのですか?主催者ミセスがパーティを抜けちゃって」
「良いのよ、私はただのお飾りだし。そんなことより、貴方と部屋で飲む方が楽しそうなんだもの」
そう言って女は男にわざとらしく寄りかかり、二人はパーティ会場を後にする。


……これが最後のパーティになるとも知らずに。


数分後、先程まで散々色気を覗かせていたのに、打って変わって青々とした顔で男に涙と鼻水混じりの顔を押し付けていた。
「ぉ………お願い……お願いしますお願いします!!何でもするから!!お金ならいくらでも払うわ!!」
何度も懇願の意を繰り返し、男の足にしがみついている。その様はなんともみっともなく、今朝傲慢な態度でテレビに映っていた女と同一人物とは思えない。
その様子を見下ろした男は、細い声で女の耳元で囁く。

「……ミセス。顔を上げて。よく見せて…?」

あまりにも優しい声だったので、女は荒げていた呼吸を少し整え男の方を見やる。すると思いがけず柔らかくキスをされた。戸惑いながらも少し緊張を解いたのも束の間。

次に見えたのは男の顔ではなく、銃口だった。

「あ……ぁぁあ……」
「死に怯える貴方の顔は実に美しい。テレビで見る貴女より、よっぽど綺麗だ。ありがとう、イイもの見せてくれて」
それだけ言うと、男は優しく微笑むと今褒めたばかりの顔に向かって銃声を響かせた。
下のパーティ会場では丁度、シャンパンが開けられている最中で誰も不自然な音には気づかない。
それも計算のうちだったのか、男は慌てる様子もなく誰かと連絡を取る。

「……終わった。迎えはまだか」
「…………」
しかし受話器の向こうから応答は得られない。
コートから火薬と鉄の香りが漂い始める。
男の素振りからして何かしらの問題は発生しているようだが、それでも眉さえ動かす事はなかった。
「……酷い仕打ちだ」
それだけ留守電に残すと男は通話を切った。




程なくしてパトカーや救急車のサイレンがさっきまでいたビルに集まってきている。
男は既に包囲網の外であったが、流石に格好も格好であり見つかるのも時間の問題だ。
連絡手段も失った男は、一先ず隠れられる空き家を探した。

そして行き着いたのが、彼の運命を大々的に変えるハウスだった。
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