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第三章

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「ここ……が……?」
 森の奥深くにある人形の館は本当に広いお屋敷だった。時代劇で見た江戸時代の大臣屋敷を思い浮かべてもらえればいいだろう。この広い館に城島青砥が一人で住んでいることに、少しだけゾッとする。椎菜は一人でいることを大して気にしないが、それでも、来るのが一苦労な屋敷に一人で暮らすのは寂しい気がする。こんなところにい続けたら狂ってしまいそうな、そんな予感さえ感じる。
「シーナ様でしょうか?」
 静かな女性の声に椎菜は瞬時にライターとしての仮面をつける。
 落ち着いた作業着を着ている女性が椎菜の背後に立っていた。城島家のお手伝いさんだろうか。
「……本日は取材を受けていただきありがとうございます」
 深く頭を下げるが、女性は表情一つ変えなかった。まるで能面のような表情に、よくお手伝いさんやら家政婦系の仕事なんてやっているなというのが椎菜の印象だった。
「奥で旦那様がお待ちです」
 静かな声に椎菜はついていく。城島青砥はどういう人間なのだろう。詩音は基本的に青砥は一人を好むと言っていて、お手伝いや使用人の類がいるとは聞いていない。彼女が特別なのか、それとも詩音が家を出てから雇われたのか。今の椎菜には判断がつかない。
「こちらになります」
 椎菜が案内されたのは、屋敷の奥にある一室だった。中に入った瞬間椎菜は目を瞬く。そこは広いフローリングだったが、その部屋が狭く見えるほどにさまざまなものが雑多に置いてある。ところどころ白いものがこびりついているのは蝋だろう。その部屋の中央に椎菜より少しだけ背の高いお城が鎮座している。白く透明感のある城はまるで見たものを童話の世界に誘《いざな》おうとしているかのように見えて、目を離すことができない。
 作品には作り手が宿る。どんなに綺麗に形を整えても作り手の心がなければ、見たものに冷たい印象しか与えない。青砥の作る作品は不思議だった。透き通る白が氷のように見えるからか、氷の城のような冷たさを感じると同時に見る者の心を温かくするような温もりを感じる。
 かしゃり、無意識にシャッターを切っていた。今、目の前にあるこの瞬間を切り取らないという選択肢は椎菜の中にはない。
「まだ、未完成なので雑誌への掲載は控えていただけますか?」
 困ったような声音に振り向くと、入り口に線の細い男性が立っていた。写真で見たのと同じ顔をしているが、浮かべている表情は柔和で、どこか違う印象を感じた。椎菜を見て、作品に目を移す青砥が浮かべているのはとても優しい表情だった。こんな顔を椎菜は何度も目にしたことがある。自分の作品が愛しくて、愛しくてたまらないという、そんな慈愛に満ちた表情だ。今の段階で判断を下すのは時期尚早だとは思うが、それでも行方不明者が多いのは単なる偶然ではないか、そう思ってしまう。
「素晴らしい、作品ですね……氷のお城……みたいです」
「……ええ、タイトルは氷の城です。溶けない氷でできた。今は色はどちらかというと雪に近いですが、完成したらもう少し透明感を出す予定なので、その頃にまた見ていただきたいです」
 ふわり、と笑う青砥は本当に綺麗ないい表情をしている。
「本日は、取材を受けていただき誠にありがとうございます」
「詩音の頼みなので……どのように取材をされますか」
「そうですね……できれば家の中を見せていただいても?今回のメインは詩音さんですので、彼女が生活した家を見せていただきたいのですが……?」
 青砥は少し考え込むように沈黙し、小さく頷いた。
「わかりました。ご案内しながらお話をする、という形でよろしいでしょうか?」
「よろしくお願いいた
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