上 下
19 / 42

19.支援役ロベル 『月の聖女』のお願いを受け入れる

しおりを挟む


「…………」



「…………」



 俺とトウナの間には、気まずい空気が流れ続けていた。



「………………」



「………………」



「……………………」



「……………………」



 と、とにかく何かしゃべらないと。



「「あ、あの」」



「うっ」



「あっ」



 ……このぎこちない距離感。
 どうしたもんだろう。



「さ、先にしゃべっていいよ、トウナ」



「わ、私はあとからでいい」



 うーむ。
 まあ、気にしすぎもよくないか。



「よし」



 あえて。
 ここは慎重にいくのをやめよう!




「それにしてもさ。意外だったよ」



「意外?」



「トウナって、案外おっちょこちょいだったんだなぁ」



「なっ……」



「勇者パーティーにいた頃のトウナは、いつもクールで冷静だっただろ? 何だか新鮮だよ」



「ち、違う。今のドジは例外中の例外。普段はこんなバカみたいなヘマはしない」



「ホントかぁ?」



「は、恥ずかしいから。はやく忘れて」



 ……うーむ。
 そう言われてもな。



「正直に言うけど、かなりむずかしい。あまりにもインパクトが強すぎて」



「ダメ! 今すぐ忘れて!」



「ははは……努力はしてみるよ」



 ……ムリっぽいけどな。



「それにしても、ロベル様」



「様ってのは……まあいいや。どうした?」



「勇者パーティーにいた頃から、ずいぶん雰囲気が変わった。もちろん、いい意味で」



「そう? 確かにパーティーを抜けたあと、いろいろあったからな。おかげさまで、そこそこ強くなったよ」



「そこそこなんてレベルじゃない。ひかえめに言って別人レベル。私のロベル様を見る目に狂いはない」



「ま、これからいろいろ見せるよ。機会はいくらでもありそうだから」



「機会?」



「ああ」



 俺は心を決め、本題に入る。




「手紙、読んだよ」




「…………」



 トウナは何も言わない。
 俺は続ける。



「俺は勇者パーティーにいる間、ずっとトウナに苦手意識を持ってた」



「……そう」



「はっきり言うとさ。嫌われてるだろうな、って思ってたよ」



「……仕方がないと思う」



「でもさ。それはカン違いだったんだよな」



 そうだ。
 全部、俺の勝手な思い込みだったんだ。



「手紙を読んで、はっきりわかったよ」



「ロベル様は何も悪くない。いけないのは私。口ベタだから、思ってることを話せなかっただけで――」



「ありがとう、トウナ」



「あっ……」



「俺をずっと見ていてくれて」



「……ロベル様」




「それで、だ」



 俺は深呼吸し、続ける。



「手紙の返事なんだけど」



「……うん」



「俺はトウナが思っているような、立派な人間じゃない。用心深くて慎重で目立つのが苦手な、ただの『支援役』さ」



「そんなことない! ロベル様は最高の――」



「そんな俺でもよければ」



「っ!」



「一緒にパーティー、組もうか」



「あ……!」



「もちろん無理にとは言わないけど――」



「はい……お願いします」



 俺の手を、トウナがぎゅっと握る。



「そのお言葉、ずっと待っていました……」



「トウナ……」



「うれしい……主様」



「ま、まああれだ! トウナがまたドジらないように、ちゃんと見張ってないといけないしなー」



「あ、主様! それを持ち出すのは反則!」



「ははは……。それに、まじめな話もあるんだ」



「え?」



 首をかしげるトウナに、俺は言う。



「『大陸3大聖女』の力を狙うヤツは多い。『太陽の聖女』も『光の聖女』も、野望を持った連中に目をつけられた」



「ウワサは私も知ってる」



「となると、だ。トウナの力も、今後狙われる可能性はあるだろ?」



「同感。主様の言う通り」



「昔のよしみじゃないけど、俺でよければボディー・ガードになるさ。頼りにならなるかはわからないけど――」



「頼りになるに決まってる」



 トウナが俺の胸に、顔をうずめる。



「主様に守っていただける。こんなに光栄なことはない」



「そ、そんなに顔をくっつけられると、恥ずかしいんだけど?」



「離れないとダメ? しょぼん」



「べ、別にかまわないよ。トウナさえイヤじゃなければ」



「ふふ。イヤなはずがない。主様の体、神聖そのもの」



 あ、主様。
 主様、主様、主様……ね。



「そ、そのさ。さっきから言ってる、『主様』って呼び方だけど。ちょっと肩がこるっていうか、なんていうか」



「主様は主様だから。ダメ?」



「かなーり照れくさいんだけど」



「主様って呼ぶの、ずっと夢だった。でも、主様がイヤならあきらめる。しゅん」



「呼んでくれ呼んでくれ! いくらでもトウナの呼びたいように呼んでくれ!」



「ふふふ。主様、ありがとう」



 ……やれやれ。



 サミーの『お兄様』からの、アンリの『あなた様」からの、トウナの『主様』か。
 ま、そのうちなれるだろう。きっと。



「しばらくこのままでいさせて。今の私、主様エネルギー不足だから」



「あ、主様エネルギー? 何だいそりゃ?」



「主様エネルギーは主様エネルギー。主様のそばじゃないと、満たすことができない」



「わかったような、わからないような、やっぱりわからないような――」




「お兄様ーーーーー!」




 いきなり。
 遠くから聞き覚えのある声がひびいた。



「っ!?」



 トウナがギクッと体をふるわせ、俺から身を離す。



「この声は……サミーか!」



 『ワンズ王国』内から、かわいらしい金髪の女の子が走ってくる。
 『太陽の聖女』にして俺のおさななじみ、サミーにまちがいなかった。



「サミー、ひさしぶりだな! 元気だったか?」



「うん! お待たせお兄様! 『大聖堂』の事後処理、ぜーんぶ終わったよ!」



「えっ、もう? ずいぶん早くないか?」



「うん! あたし、がんばっちゃった!」



「そ、そうか。がんばるだけで、何とかなるものかなぁ?」



「だってだって! はやくお兄様とパーティー組みたかったんだもん!」



「ははは。やっぱりサミーはいろいろすごいなぁ――」




「あなた様ーーー!」




 またも。
 遠くから聞き覚えのある声がひびいた。



「今度は……もしかしてアンリか?」



 王国の外から、清らかな雰囲気をまとった銀髪の女の子が走ってくる。
 『光の聖女』にしてエルフのプリンセス、アンリにまちがいない。



「アンリ、里の方はもういいのか? っていうか、交信してくれれば迎えにいったのに」



「実は、お母様に送ってもらいまして」



「えっ? エルフの女王みずから?」



「ええ。お母様は言っておりました。『そんな立派な方はぜったい逃がしちゃいけません! どこかに行ってしまう前に、アンリちゃんの手でつかまえておかないとダメです!』と」



「に、逃がすって。どこにも行くつもりはないんだけどなぁ」



「あの……主様」



 トウナが俺をちょんちょんとつつく。



「この方たちは?」



「パーティーの仲間さ! みんなとも、パーティー組む約束をしてたんだ! 俺、サミー、アンリ、それからトウナ! 4人パーティーってところだな!」



「……そう」



「あ、ああ」



 気のせいだろうか。
 俺への視線に、ずいぶん迫力があるような?



 周りをみると。



「……そうなんだ」



「……そうなのですか」



 サミーとアンリからの視線にも、トウナと似たようなものを感じる。



「俺……なにもヘンなこと、してないよな……?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...