上 下
16 / 42

16.支援役ロベル 『月の聖女』の真意を知る

しおりを挟む

「それではあなた様! ひとまずごきげんよう!」



「ああ! 準備ができたら交信を入れてくれ! 迎えに行くからな!」



 アンリを『エルフの里』入口まで送ったあとで。
 すかさず里のエルフに見つからないよう、離れた場所に移動して。



「さて、と」



 俺はあらためて、『月の聖女』トウナの手紙を取り出した。



「てっきり、これまでの恨みが書いてあると思ったんだけどなぁ。サミーの話だと、どうも違うっぽいんだよなぁ」



 まあ、考えていても始まらない。



「よし! 心の準備はできた! いざ!」



 俺は手紙を開き、読み始めた。





『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!』



『私は口ベタだから、手紙の力を借ります。伝わらない部分もたくさんあると思います。追放の場でも、失礼な態度を取っていることだと思います。本当にごめんなさい! 本当にごめんなさい! 本当にごめんなさい!』



『あのあの! 私はこれからも、ロベル様のそばにいたいの! 勇者パーティーじゃなくて、ロベル様のそばにいたいの!』





「ウソだろ……!?」



 驚いた。
 完全に予想外だった。



「だってトウナは、俺のことを嫌ってたはずだろ? しかも、ロベル様? そんな呼び方、されたことないぞ?」



 かつての記憶を呼び起こす。



「そうだ。街中では、いつも背後から視線を感じる。ダンジョンでは、俺のそばにぴったり張り付いて離れない。戦闘中などは俺の前に立ちはだかったと思えば、ちらちら振り向いて様子をうかがってくる」



 こんなの俺の行動の、何もかもを信用していない証じゃないか。
 それに。



「話を振るたびに視線をそらす。会話をさっさと打ち切ろうとする。なのに顔はいつも真っ赤だった」



 こんなの俺のふるまいが気に入らなくて、イライラしてるからに違いないじゃないか。
 なのに、どうしてだ?



「とにかく、続きを読んでみよう」





『さっきグレイたちから、ロベル様の追放計画を聞かされた。心臓が止まるかと思った。どうしたらいいかわからなかった』



『ロベル様とはなればなれになるなんて、考えたくもなかった。夢ならさめてほしいって、本気で思った。でも』



『そのとき、私の中の悪い心がささやいたの。これはチャンスなんだって』



『ロベル様を勇者パーティーから離れさせたあとで、私もあいつらのパーティーを抜ける。それからロベル様と合流してパーティーに入れてもらう』



『そんな計画が、頭の中にひらめいたの』





「なんだって……!?」



 あのトウナが、そんなことを考えていたのか?





『私が勇者パーティーに入ったのは、『世界を救うもの』の従者になれという、神のお告げがあったから』



『伝説の聖剣『ビリーヴ・ブレード』を持つ者こそが勇者だって、勝手に思い込んでいた』



『でも、見る目がなかった。あいつらにロベル様を見る目がなかったように、私にもあいつらを見る目がなかった』





「そういえば」



 あの日。
 俺が勇者パーティーを追放されるとき。
 トウナはこう言っていた。




『見る目がなかった。それだけ』




 あのときは、予想通りだと考えた。
 トウナに嫌われてると思ってたから。
 でも、実際は。



「俺に言ったわけじゃなかった……のか?」





『あいつらに、尊敬できる部分はひとつもない。聖剣も先代勇者も泣いてるはず』



『何よりも許せないのは、あいつらが! いつもロベル様の悪口ばかり言ってること! 他の部分はガマンできても、これだけは許せない! 絶対に許せない! 絶対に絶対に許せない!』



『でも。私には、勇者パーティーを抜ける気はなかった』



『ロベル様がいたから』





「俺……が?」





『ロベル様は、あいつらとはぜんぜん違う。何もかもが違う』



『いつも影からパーティーを支えてくれている。私にはわかってる。いつも近くで見てたから。全部わかってる。もしかするとロベル様以上に、ロベル様のことをわかってるかもしれない』



『あいつらは『世界の支援』とか、わけのわからないこと言ってカン違いしてるけど。あれは全部、ロベル様の支援スキルのおかげだってことも、私にはわかってる』





「えっ?」



 またしても、予想外な話が出てきた。



「グレイたちが言ってた『世界の支援』ってヤツ、俺のスキルをカン違いしてただけ?」



 ってことは、だ。



「俺は勇者パーティーにいた頃も、ちゃんと役に立ててたってことなのか……なぁ?」



 ただ、それがわかったとしても。



「もう遅い、か。今更な話だよな。そもそも俺とグレイたち、相性悪かったみたいだし……ははは」





『勇者パーティーの活躍は、ぜーんぶロベル様のおかげ。何度も助けられた。本当に感謝してる』



『でもロベル様は、それを全然自慢しない。いつも自分の手柄じゃない、みんなの力だって、言い続けてきた』



『こんなに周りを立てられる人間を、私はほかに知らない。心の底から尊敬できる人だって、そう思ってる』





「まあ、それはな。俺は目立つのがキライだから、なんだけどな」





『そんなロベル様を、私は■■■■。』





「ん? 文字が塗りつぶされてて読めないな」



 何が書いてあったんだろう?



「まあいいか。手紙はもう少しで終わりみたいだ」





『ロベル様が去ったあと、私も勇者パーティーを抜ける』





「トウナが勇者パーティーを抜けたら、グレイたちはどうなっちゃうんだろうか」



 ……まあ、もう過去の話か。



「聖剣を持つ勇者なんだ。きっと、うまくやっていくんだろうな」





『最後にロベル様がどれだけ素晴らしい人間だったのかを、あいつらにきっちり教えてあげる』



『ロベル様は、そんなことを望んでないと思う』



『バカな女だと思われてもいい。イヤな女だと思われてもいい。でも!』



『そうしないと、私の心が納得しない! ロベル様の素晴らしさをあいつらに伝えてやらないと、私の気が済まないの!』



『あいつらには伝わらないかもしれないけど! 自己満足かもしれないけど! それでも! それでも!』





「……トウナ」





『それが終わったら』



『私、『ワンズ王国』でロベル様を待っています』



『私をロベル様のパーティーに入れてください』



『私をロベル様の従者にしてください』



『私をロベル様のおそばに置いてください』



『私にロベル様を主様と呼ばせてください』



『自分勝手でわがままなお願いなのは、よくわかっています』



『でも、でも……』



『どうかお願いいたします……主様』



『トウナより』





「これで終わり……か」



 手紙を閉じる。



「てっきり、嫌われてるとばかり思ってたのに……なぁ」



 予想外のことだらけで、頭の中がぐしゃぐしゃだけど。



「とにかく。トウナに会わないことには始まらないな」



 俺は心を決めた。



「『ワンズ王国』に戻ろう」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜

KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位! VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!? 副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!! ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・ ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・ しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!

処理中です...