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16.支援役ロベル 『月の聖女』の真意を知る

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「それではあなた様! ひとまずごきげんよう!」



「ああ! 準備ができたら交信を入れてくれ! 迎えに行くからな!」



 アンリを『エルフの里』入口まで送ったあとで。
 すかさず里のエルフに見つからないよう、離れた場所に移動して。



「さて、と」



 俺はあらためて、『月の聖女』トウナの手紙を取り出した。



「てっきり、これまでの恨みが書いてあると思ったんだけどなぁ。サミーの話だと、どうも違うっぽいんだよなぁ」



 まあ、考えていても始まらない。



「よし! 心の準備はできた! いざ!」



 俺は手紙を開き、読み始めた。





『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!』



『私は口ベタだから、手紙の力を借ります。伝わらない部分もたくさんあると思います。追放の場でも、失礼な態度を取っていることだと思います。本当にごめんなさい! 本当にごめんなさい! 本当にごめんなさい!』



『あのあの! 私はこれからも、ロベル様のそばにいたいの! 勇者パーティーじゃなくて、ロベル様のそばにいたいの!』





「ウソだろ……!?」



 驚いた。
 完全に予想外だった。



「だってトウナは、俺のことを嫌ってたはずだろ? しかも、ロベル様? そんな呼び方、されたことないぞ?」



 かつての記憶を呼び起こす。



「そうだ。街中では、いつも背後から視線を感じる。ダンジョンでは、俺のそばにぴったり張り付いて離れない。戦闘中などは俺の前に立ちはだかったと思えば、ちらちら振り向いて様子をうかがってくる」



 こんなの俺の行動の、何もかもを信用していない証じゃないか。
 それに。



「話を振るたびに視線をそらす。会話をさっさと打ち切ろうとする。なのに顔はいつも真っ赤だった」



 こんなの俺のふるまいが気に入らなくて、イライラしてるからに違いないじゃないか。
 なのに、どうしてだ?



「とにかく、続きを読んでみよう」





『さっきグレイたちから、ロベル様の追放計画を聞かされた。心臓が止まるかと思った。どうしたらいいかわからなかった』



『ロベル様とはなればなれになるなんて、考えたくもなかった。夢ならさめてほしいって、本気で思った。でも』



『そのとき、私の中の悪い心がささやいたの。これはチャンスなんだって』



『ロベル様を勇者パーティーから離れさせたあとで、私もあいつらのパーティーを抜ける。それからロベル様と合流してパーティーに入れてもらう』



『そんな計画が、頭の中にひらめいたの』





「なんだって……!?」



 あのトウナが、そんなことを考えていたのか?





『私が勇者パーティーに入ったのは、『世界を救うもの』の従者になれという、神のお告げがあったから』



『伝説の聖剣『ビリーヴ・ブレード』を持つ者こそが勇者だって、勝手に思い込んでいた』



『でも、見る目がなかった。あいつらにロベル様を見る目がなかったように、私にもあいつらを見る目がなかった』





「そういえば」



 あの日。
 俺が勇者パーティーを追放されるとき。
 トウナはこう言っていた。




『見る目がなかった。それだけ』




 あのときは、予想通りだと考えた。
 トウナに嫌われてると思ってたから。
 でも、実際は。



「俺に言ったわけじゃなかった……のか?」





『あいつらに、尊敬できる部分はひとつもない。聖剣も先代勇者も泣いてるはず』



『何よりも許せないのは、あいつらが! いつもロベル様の悪口ばかり言ってること! 他の部分はガマンできても、これだけは許せない! 絶対に許せない! 絶対に絶対に許せない!』



『でも。私には、勇者パーティーを抜ける気はなかった』



『ロベル様がいたから』





「俺……が?」





『ロベル様は、あいつらとはぜんぜん違う。何もかもが違う』



『いつも影からパーティーを支えてくれている。私にはわかってる。いつも近くで見てたから。全部わかってる。もしかするとロベル様以上に、ロベル様のことをわかってるかもしれない』



『あいつらは『世界の支援』とか、わけのわからないこと言ってカン違いしてるけど。あれは全部、ロベル様の支援スキルのおかげだってことも、私にはわかってる』





「えっ?」



 またしても、予想外な話が出てきた。



「グレイたちが言ってた『世界の支援』ってヤツ、俺のスキルをカン違いしてただけ?」



 ってことは、だ。



「俺は勇者パーティーにいた頃も、ちゃんと役に立ててたってことなのか……なぁ?」



 ただ、それがわかったとしても。



「もう遅い、か。今更な話だよな。そもそも俺とグレイたち、相性悪かったみたいだし……ははは」





『勇者パーティーの活躍は、ぜーんぶロベル様のおかげ。何度も助けられた。本当に感謝してる』



『でもロベル様は、それを全然自慢しない。いつも自分の手柄じゃない、みんなの力だって、言い続けてきた』



『こんなに周りを立てられる人間を、私はほかに知らない。心の底から尊敬できる人だって、そう思ってる』





「まあ、それはな。俺は目立つのがキライだから、なんだけどな」





『そんなロベル様を、私は■■■■。』





「ん? 文字が塗りつぶされてて読めないな」



 何が書いてあったんだろう?



「まあいいか。手紙はもう少しで終わりみたいだ」





『ロベル様が去ったあと、私も勇者パーティーを抜ける』





「トウナが勇者パーティーを抜けたら、グレイたちはどうなっちゃうんだろうか」



 ……まあ、もう過去の話か。



「聖剣を持つ勇者なんだ。きっと、うまくやっていくんだろうな」





『最後にロベル様がどれだけ素晴らしい人間だったのかを、あいつらにきっちり教えてあげる』



『ロベル様は、そんなことを望んでないと思う』



『バカな女だと思われてもいい。イヤな女だと思われてもいい。でも!』



『そうしないと、私の心が納得しない! ロベル様の素晴らしさをあいつらに伝えてやらないと、私の気が済まないの!』



『あいつらには伝わらないかもしれないけど! 自己満足かもしれないけど! それでも! それでも!』





「……トウナ」





『それが終わったら』



『私、『ワンズ王国』でロベル様を待っています』



『私をロベル様のパーティーに入れてください』



『私をロベル様の従者にしてください』



『私をロベル様のおそばに置いてください』



『私にロベル様を主様と呼ばせてください』



『自分勝手でわがままなお願いなのは、よくわかっています』



『でも、でも……』



『どうかお願いいたします……主様』



『トウナより』





「これで終わり……か」



 手紙を閉じる。



「てっきり、嫌われてるとばかり思ってたのに……なぁ」



 予想外のことだらけで、頭の中がぐしゃぐしゃだけど。



「とにかく。トウナに会わないことには始まらないな」



 俺は心を決めた。



「『ワンズ王国』に戻ろう」
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