上 下
9 / 42

9.支援役ロベル 『太陽の聖女』のお願いを受け入れる

しおりを挟む

 『大聖堂』を奪い返したあと。
 俺は『ワンズ王国』の、人通りの少ない裏手で。



「いやいや、別に大したことしてないから」



「してるから! お兄ちゃん……じゃなかった。お兄様、どう考えてもすごいことばっかりしてるから!」



 俺はサミーに熱弁をふるわれていた。
 『太陽のペンダント』の宝石部分には、オレンジ色のあたたかい光が輝いている。
 取り返したサミーの魔力も、ぶじに彼女に戻っていた。



「このあたし『太陽の聖女』の救出でしょ! 『太陽のペンダント』の魔力を取り返してくれたでしょ! 『大聖堂』の平和も守ってくれた! みんなの洗脳も解いてくれた! それに魔族幹部の撃破! それからそれから――」



「けど、どれもそんなに苦労しなかったし」



「そういう問題じゃないの! っていうか、それはお兄様が強すぎるだけ! どれだけお礼を言っても言い足りないぐらい! きっと『大聖堂』だけじゃなくて、この王国からもたくさんごほうびが出ると思うよ!」



「そういうのはいいよ。目立つのは好きじゃないんだ。人前に出るのも苦手だしな。サミーが代わりにもらっておいてくれないか?」



「お兄様! そんなことできるわけないでしょ!」



「うーーーーーむ、ダメか。やれやれ……」



「どれだけ欲がないのよ……ビックリするなぁ」



「ははは。俺は誰かの『支援』ができればそれでいい。それだけ、だからさ」



 本心だった。



「今回は、困ってるサミーの役に立てた。その事実だけで十分だよ」



「……お兄様らしいね。昔からそうだった」



「そうか?」



「あたしが困ってるとき、どんなときでもすぐに助けてくれたもん。自分のことはいつでもあと回し」



「そうだった? 悪い、あんまり覚えてないや」



「あたしは忘れてないよ? そんなお兄様だから、あたしはお兄様のことを……」



 ……ん?



「最後の方、よく聞こえなかったんだけど」



「もう! 何でもない!」



 サミーがぷくっ、とほっぺたをふくらませる。
 なんだかちょっと前にも、同じような展開があった気もするが。
 多分気のせいだろう。




「それじゃあ、お兄様! あたし個人のお願い、1つだけ聞いてくれる?」



「サミーの? いいけど、どんなお願いなんだ?」



「あのね……。『大聖堂』の事後処理が終わったあとで、なんだけど……」



 サミーは何やらもじもじしていたが。
 心を決めたように息を吸い込むと。



「あたしを、お兄様のパーティーに入れてほしいの!」



「へ? 俺のパーティーに? サミーを?」



「久しぶりにお兄様に会ってわかったの! やっぱりあたし、お兄様のそばにいたい! 昔みたいに、お兄様と一緒にいたいの! 『太陽のペンダント』の力があれば、足手まといにはならないと思うから!」



「けど、『大聖堂』の方は大丈夫なのか?」



「みんなには、あたしからきちんと話をしておく。王国や冒険者ギルドにも伝えて、守りも固めてもらうようにするわ」



「そう、か」



 ……まあ、確かに。



「俺といっしょの方が安全かもしれないな」



「え? 安全?」



「今回襲ってきた魔族の目的、『太陽の聖女』のチカラだっただろ? ということは、今後も狙われる可能性があるってわけだ」



「あっ……」



「サミーひとりよりも、誰かがそばにいた方が安全なのはまちがいない。俺はまだまだ未熟だけど、サミーを守れるように精いっぱい頑張るから――」



「お兄様だーーーーーい好き!」



「おわっ!?」



 いきなりサミーが抱きついてきた。



「そこまで考えてくれるなんて、あたし感激! さすがお兄様! あたしのこと、そんなに心配してくれるんだ! うれしすぎて気持ちが天まで昇りそうーーーーー!」



「ちょ! ちょっと待った苦しい! 苦しいから!」



 俺はどうにかサミーを振りほどいた。
 ふぅ、窒息するかと思ったぞ。



「それじゃあサミー。『大聖堂』のもろもろが片付いたら、いっしょにパーティーを組もう! 準備ができたら教えてくれ!」



「やったやったやったぁ! ありがとうお兄様! またお兄様のそばにいられるー! わーいわーい!」



 ……ちょっとはしゃぎすぎじゃないか?




「ところでお兄様、パーティーのメンバーはどこにいるの?」



「実はソロなんだ。勇者パーティーから追放されちゃってね」



「は?」



「この『ワンズ王国』に来たのも、新しいパーティーに入れてもらうのが目的で――」



「バカじゃないの!?」



 サミーがキレた。



「あの……サミーさん?」



「お兄様を追放? バっカじゃないの!? ばっっっっっっっかじゃないの!? 信じらんない! 見る目なさすぎ! その人たちどこにいるの!? 今すぐ教えて! そいつらの曇りきった腐りきった心と目ン玉、あたしの手で浄化してやるんだから!」



「お、おいおいおい! 落ち着けって! というか、口が悪いぞ?」



「だってだってだって! だってそんなのおかしいよ!」



「こればかりは仕方がないさ。いろいろ合わなかったんだ。あ、そういえば」



 俺は『月の聖女』トウナからもらった手紙を取り出す。



「仲間のひとりから、こんな手紙までもらっちゃったよ。これまでの恨みを書いてあると思うんだけど」



「見せて!」



 いきなりサミーに手紙をひったくられた。
 そのまま中を読み始めてしまう。



「あ! おいサミー! 勝手に読むなって! まだ俺も読んでないんだぞ!」



「あれ? これって……?」



「……ん?」



「ふーーーーーん。へーーーーーーえ。ほほーーーーーーーう」



 何だ? 
 サミーがニヤニヤしているぞ? 



 首をかしげる俺に、サミーが手紙を渡してきた。



「はい、返すね! 全部読んじゃうと、手紙の人に悪そうだし!」



「悪そう?」



「ふふふ! この人だけはお兄様のこと、ちゃーんとわかってるみたいだから!」



「えっ」



「あとは読んでのお楽しみ!」



 サミーはクスクス笑いながら、俺にパタパタと手を振る。



「それじゃあ、あたしはこのへんで! 『大聖堂』の事後処理、急いで終わらせるからね!」



「あ、ああ。わかった」



「パーティー組む約束、忘れちゃヤダよ? お兄様、まったねー!」



 言うだけ言うと、サミーは元気よく走っていってしまった。



「おう、またなー。待ってるぞー」



 サミーの背中に呼びかけながら、俺は苦笑する。



「やれやれ。これからは、ずいぶんとにぎやかになりそうだな」



 まあ、それはともかく、だ。



「いったい、コレに何が書いてあるんだ?」



 俺は手紙を開いてみた。
 その書き出しは。




『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!』




「何だこりゃ」



 妙な出だしに首をかしげつつ。
 読み進めようとした、そのとき。




『助けて……助けてください……』




「えっ?」



 少女の声が、いきなり頭に流れ込んできたのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...