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9.支援役ロベル 『太陽の聖女』のお願いを受け入れる

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 『大聖堂』を奪い返したあと。
 俺は『ワンズ王国』の、人通りの少ない裏手で。



「いやいや、別に大したことしてないから」



「してるから! お兄ちゃん……じゃなかった。お兄様、どう考えてもすごいことばっかりしてるから!」



 俺はサミーに熱弁をふるわれていた。
 『太陽のペンダント』の宝石部分には、オレンジ色のあたたかい光が輝いている。
 取り返したサミーの魔力も、ぶじに彼女に戻っていた。



「このあたし『太陽の聖女』の救出でしょ! 『太陽のペンダント』の魔力を取り返してくれたでしょ! 『大聖堂』の平和も守ってくれた! みんなの洗脳も解いてくれた! それに魔族幹部の撃破! それからそれから――」



「けど、どれもそんなに苦労しなかったし」



「そういう問題じゃないの! っていうか、それはお兄様が強すぎるだけ! どれだけお礼を言っても言い足りないぐらい! きっと『大聖堂』だけじゃなくて、この王国からもたくさんごほうびが出ると思うよ!」



「そういうのはいいよ。目立つのは好きじゃないんだ。人前に出るのも苦手だしな。サミーが代わりにもらっておいてくれないか?」



「お兄様! そんなことできるわけないでしょ!」



「うーーーーーむ、ダメか。やれやれ……」



「どれだけ欲がないのよ……ビックリするなぁ」



「ははは。俺は誰かの『支援』ができればそれでいい。それだけ、だからさ」



 本心だった。



「今回は、困ってるサミーの役に立てた。その事実だけで十分だよ」



「……お兄様らしいね。昔からそうだった」



「そうか?」



「あたしが困ってるとき、どんなときでもすぐに助けてくれたもん。自分のことはいつでもあと回し」



「そうだった? 悪い、あんまり覚えてないや」



「あたしは忘れてないよ? そんなお兄様だから、あたしはお兄様のことを……」



 ……ん?



「最後の方、よく聞こえなかったんだけど」



「もう! 何でもない!」



 サミーがぷくっ、とほっぺたをふくらませる。
 なんだかちょっと前にも、同じような展開があった気もするが。
 多分気のせいだろう。




「それじゃあ、お兄様! あたし個人のお願い、1つだけ聞いてくれる?」



「サミーの? いいけど、どんなお願いなんだ?」



「あのね……。『大聖堂』の事後処理が終わったあとで、なんだけど……」



 サミーは何やらもじもじしていたが。
 心を決めたように息を吸い込むと。



「あたしを、お兄様のパーティーに入れてほしいの!」



「へ? 俺のパーティーに? サミーを?」



「久しぶりにお兄様に会ってわかったの! やっぱりあたし、お兄様のそばにいたい! 昔みたいに、お兄様と一緒にいたいの! 『太陽のペンダント』の力があれば、足手まといにはならないと思うから!」



「けど、『大聖堂』の方は大丈夫なのか?」



「みんなには、あたしからきちんと話をしておく。王国や冒険者ギルドにも伝えて、守りも固めてもらうようにするわ」



「そう、か」



 ……まあ、確かに。



「俺といっしょの方が安全かもしれないな」



「え? 安全?」



「今回襲ってきた魔族の目的、『太陽の聖女』のチカラだっただろ? ということは、今後も狙われる可能性があるってわけだ」



「あっ……」



「サミーひとりよりも、誰かがそばにいた方が安全なのはまちがいない。俺はまだまだ未熟だけど、サミーを守れるように精いっぱい頑張るから――」



「お兄様だーーーーーい好き!」



「おわっ!?」



 いきなりサミーが抱きついてきた。



「そこまで考えてくれるなんて、あたし感激! さすがお兄様! あたしのこと、そんなに心配してくれるんだ! うれしすぎて気持ちが天まで昇りそうーーーーー!」



「ちょ! ちょっと待った苦しい! 苦しいから!」



 俺はどうにかサミーを振りほどいた。
 ふぅ、窒息するかと思ったぞ。



「それじゃあサミー。『大聖堂』のもろもろが片付いたら、いっしょにパーティーを組もう! 準備ができたら教えてくれ!」



「やったやったやったぁ! ありがとうお兄様! またお兄様のそばにいられるー! わーいわーい!」



 ……ちょっとはしゃぎすぎじゃないか?




「ところでお兄様、パーティーのメンバーはどこにいるの?」



「実はソロなんだ。勇者パーティーから追放されちゃってね」



「は?」



「この『ワンズ王国』に来たのも、新しいパーティーに入れてもらうのが目的で――」



「バカじゃないの!?」



 サミーがキレた。



「あの……サミーさん?」



「お兄様を追放? バっカじゃないの!? ばっっっっっっっかじゃないの!? 信じらんない! 見る目なさすぎ! その人たちどこにいるの!? 今すぐ教えて! そいつらの曇りきった腐りきった心と目ン玉、あたしの手で浄化してやるんだから!」



「お、おいおいおい! 落ち着けって! というか、口が悪いぞ?」



「だってだってだって! だってそんなのおかしいよ!」



「こればかりは仕方がないさ。いろいろ合わなかったんだ。あ、そういえば」



 俺は『月の聖女』トウナからもらった手紙を取り出す。



「仲間のひとりから、こんな手紙までもらっちゃったよ。これまでの恨みを書いてあると思うんだけど」



「見せて!」



 いきなりサミーに手紙をひったくられた。
 そのまま中を読み始めてしまう。



「あ! おいサミー! 勝手に読むなって! まだ俺も読んでないんだぞ!」



「あれ? これって……?」



「……ん?」



「ふーーーーーん。へーーーーーーえ。ほほーーーーーーーう」



 何だ? 
 サミーがニヤニヤしているぞ? 



 首をかしげる俺に、サミーが手紙を渡してきた。



「はい、返すね! 全部読んじゃうと、手紙の人に悪そうだし!」



「悪そう?」



「ふふふ! この人だけはお兄様のこと、ちゃーんとわかってるみたいだから!」



「えっ」



「あとは読んでのお楽しみ!」



 サミーはクスクス笑いながら、俺にパタパタと手を振る。



「それじゃあ、あたしはこのへんで! 『大聖堂』の事後処理、急いで終わらせるからね!」



「あ、ああ。わかった」



「パーティー組む約束、忘れちゃヤダよ? お兄様、まったねー!」



 言うだけ言うと、サミーは元気よく走っていってしまった。



「おう、またなー。待ってるぞー」



 サミーの背中に呼びかけながら、俺は苦笑する。



「やれやれ。これからは、ずいぶんとにぎやかになりそうだな」



 まあ、それはともかく、だ。



「いったい、コレに何が書いてあるんだ?」



 俺は手紙を開いてみた。
 その書き出しは。




『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!』




「何だこりゃ」



 妙な出だしに首をかしげつつ。
 読み進めようとした、そのとき。




『助けて……助けてください……』




「えっ?」



 少女の声が、いきなり頭に流れ込んできたのだった。


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