上 下
5 / 42

5.【勇者side その①】勇者グレイ 大陸の伝説で妄想をふくらませる

しおりを挟む


「ハーーーーーーッハッハッハ!」



 ボク、勇者グレイは。
 ロベルが冒険者ギルドから出て行ったあとで。



「ハハハハハハハハ! ハーハハハハハハ!」



 勝利の高笑いを上げていた。



「役立たずのロベルは追放した! 無能な男、ロベルは去った! これでボクら勇者パーティーは! 打倒魔王に向け! 大きく前進したわけだ! 役立たずがいなくなった今! このボクと! 『世界の支援』があれば! 全戦全勝まちがいなし! 向かうところ敵なしとは! まさにこういうことだ!」



「おめでとう、グレイ!」



 武道家のメイファが、ボクに笑いかける。



「ここからが、グレイとアタシたちの新しいスタートね! ほっっっとうにすがすがしい気分だわ! これからは無能で役立たずで弱っちいロベルの顔、見なくていいんだし!」



「メイファの言うとおりだな! このボクも、いつになく晴れやかな気分だよ!」



「アタシ、グレイのために張り切っちゃうから! きっと『世界の支援』の力も、ロベル抜きならこれまで以上にパワーアップしてくれるはずよ!」



「ハッハッハ! 頼りにしてるぞメイファ!」



「あらグレイさん? ワタクシをお忘れになっていませんこと?」



 今度は魔導師のキャロラインだ。



「おいおいキャロライン。ボクがキミを忘れるなんて、あると思うのかい?」



「感激ですわ! ワタクシもグレイさんのため、いくらでもこの身を投げ出すつもりですわ! おジャマ虫のロベルも消えましたし、これからは心おきなく戦闘に集中できますもの! 『世界の支援』の力、存分に振るわせていただきますわ!」



「ハハハハハ! 期待してるぞキャロライン!」



 メイファとキャロラインは左右から、ボクの体に腕をからめてくる。
 相変わらず、ボクにベタぼれみたいだ。
 ま、ボクのイケメンフェイスの前では当然だな。



 おっと。
 もうひとり、気に掛けてやらないといけない相手がいたか。



「トウナ、キミも頼むぞ! 『月の聖女』であるキミは、打倒魔王に必要な戦力だからな!」



「…………」



「おい、トウナ?」



「手紙、読んでくれたかな……」



 トウナは心ここにあらずと言った様子で、ロベルに渡した手紙を気にしている。



「おい、聞いてるのかトウナ! このボクが! 勇者グレイがキミに声をかけてるんだぞ!」



「……何か言った?」



 ……イラッ、とした。



「だから! キミはボクにとって重要な戦力だから――」



「考えごとしてるの。用がないなら話しかけないで」



「ぐっ……!」



 こ、この女っ……!



「グレイ、放っておきなさいよ。『月の聖女サマ』には『月の聖女サマ』にふさわしい、ふかーーーーーい考えごとがあるみたいだし? それよりアタシと、もっとお話ししましょうよ!」



「メイファさん、抜け駆けはズルイですわよ? ワタクシだってトウナさんとは違います。グレイさんとなら、いくらでもお話していたいですわ! ワタクシいつでも、グレイさんの味方ですもの!」



「ありがとうメイファ! キャロライン! キミたちとパーティーを組めることを、ボクは誇りに思うよ!」



 などと、ふたりにイイ顔をしながらも。
 ボクのイライラは止まらなかった。




 『月の聖女』トウナ。
 イマイチ読めない女だ。



 確かに美人だ。
 身につけている『月のペンダント』の淡い輝きとの相乗効果で、どこか神秘的な雰囲気も感じる。



 だが。
 性格は暗いし、何を考えているのかわからないところがある。
 口数が少なすぎて、コミュニケーションもロクに取れやしない。



 何よりも! 
 このボクに! 
 まったく興味を示さないのが一番イライラする!




「……だが」




 ボクにはこの女が、勇者パーティーにとって重要人物なのはわかっていた。



 かつて勇者に倒された魔王は、ふたたびボクたちの時代によみがえった。
 その魔王を倒すには、どうしてもこの女の力が必要なのだ。




「メイファ、キャロライン! この大陸の伝説、もちろん覚えてるだろうね?」



「当然じゃない! 『再び魔王が世界を危機にさらすとき、ひとりの男が立ち上がる』」



「『ひとりの男は聖女を伴い、魔王を滅ぼし世界を救う』でしたわね?」



「それじゃあ質問だ! この伝説にある『ひとりの男』とは、いったい誰のことだい?」



「そんなの決まってるじゃない! グレイよ!」



「ええ! グレイさん以外に考えられませんわ!」



「そう! この聖剣『ビリーヴ・ブレード』の所持者・勇者グレイこそが、世界を救う男なのだ!」




 かつての勇者でもある、ボクのひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいじいさんが、魔王を倒したときに使った伝説の聖剣『ビリーヴ・ブレード』。
 
 光の刃は持ち主の力で、10メートルにも伸びると言われている。



 そのわりにはボクが使っても、剣先が『ダガー』ぐらいにしか伸びないんだが……。



 まあ、真の力はそのうち目覚める、ということだろうな。




「そして! 勇者と共にあるべき聖女、トウナはここにいる! 何もかもが伝説の通りじゃないか!」



「…………」



 ボクの高らかな宣言にも、トウナは反応ナシ。
 この女はいつもこうだ。



 そういえば。ボクらがロベルの悪口大会をしているときにすら、全然乗ってこなかった。
 悪口なんて、うっぷん晴らしには最高だろう? 



 それをこの女は! 
 にらみつけてくるどころか、スキを見て話題をすり替えようとしてきやがる! 
 まったく、どこまでもツマらない女だ!



「ちょっと。『月の聖女サマ』、ノリが悪すぎない?」



「あんまりお高くとまっていると、そのうち痛い目見ますわよ?」



 メイファとキャロラインも、内心はトウナが気に入らないんだろう。
 ちょくちょく態度に出るのがわかる。



 だが伝説を信じるなら、この女をロベルみたいに追放するわけにはいかない。
 メイファやキャロラインなどは、いてもいなくてもどうってことはない。



 しかし『聖女』であるトウナだけは、そうそう替えが効かないのだ。




「ところでグレイ。次の冒険先、もう決まってるの?」



 メイファの問いに、ボクは笑う。



「フッ、もちろん決まっているさ!」



「どちらですの? ワタクシはグレイさんとなら、どこへでもまいりますわよ?」



「ハッハッハ! 頼もしいな! まずは準備運動がてら、さっき攻略した『絶望の迷宮』にもう1回挑む! 役立たずを追放して生まれ変わった勇者パーティーの、準備運動というところかな!」



「賛成。これでいろいろはっきりする」



「お?」



 珍しく、トウナの反応がやけに早い。



「トウナ、ずいぶん積極的な――」



「時間がもったいない。早く」



「あ、ああ、そうだな」



 ……この態度。やっぱりイライラする。



 フッ、まあいいさ。
 魔王を倒して世界の英雄になれば、女なんて選び放題だ! 
 あと少しだけ我慢すればいい、それだけの話じゃないか!



「よし行くぞ! いざ『絶望の迷宮』へ! 『世界の支援』は勇者パーティーと共にある! 恐れるものなど何もない!」



 ボクは高らかに、勇者らしく宣言した。



「楽しみだわ! ロベル抜きならチームワークもバッチリ! カンタンに攻略できそうね! 張り切っていくわよー!」



「まいりましょう! 新生勇者パーティーの、門出を祝う冒険に!」



 やる気十分のメイファとキャロライン。
 それに対してトウナは。



「…………」



 なぜか冷ややかな視線を、ボクに向けてくるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...