ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷

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第1章

25話

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 ジュラルドが目を覚まし、エレッタが村の方から戻ってくる。
 ヴァルドーを先頭に館へと入っていく。もうすぐ陽が昇ろうとしていた。

「セリィ、わたしたちも帰ろう」
「……」
「全部聞こえてたよ。ありがと」
「…………」
「照れてるの?」
「はっきり言わないでよ」

 二人のもとに近づく足音があった。セレスタがいち早く反応する。

「先輩!」

 フェルツがラシェルに支えられながら館の前にやって来た。ラシェルの肩から腕を離し、二歩前に出た。

「お疲れ。よくやった」
「はい。……あの、先輩、私………」
「何も言うな。全部ラシェルに聞いた」
「……すみません」
「謝るのはあたしの方だ。お前を利用した」
「前にも言ったはずです。私は自分の意思で行動しました。誰も恨んでいないし、間違ったとも思ってません」

 フェルツは小さく笑った。

「ここで暮らすのか?」
「はい」
「じゃあ、いつでも会えるな。貧血になるなよ」
「……はい、ありがとうございました」

 フェルツは背を向けて、再びラシェルの肩を借りた。

「姫様、ボクは彼女を送ってから戻るよ」

 リュシールが頷くと二人は森へと消えた。



「うっ……」

 セレスタが頭を抱えながらうずくまる。

「セリィ!」
「大丈夫……、ちょっと疲れただけ」

 息を切らしながら返答したが、大丈夫ではないことは誰の目にも明らかだった。しかし、リュシールには何が起こっているのかは理解出来なかった。

「やはりか……」

 ヴァルドーが険しい顔で立っていた。

「お父様……」
「闇の住人でありながら光の魔術を使える時点で気づくべきだった。彼女の中では熱病のように"闇"である吸血鬼の血と"光"が争っている。それほどまでに彼女の"光"の特性が強いということか」
「どうすれば……、どうすれば治りますか!?」
「落ち着け」

 横たわって乱れた呼吸をするセレスタに近寄る。

「光の魔術を使え。小さいものでいいから出し続けろ」

 セレスタは返事の代わりに両手から光を放つ。

「リュシール、お前の血を与えろ」
「え?」
「早くしろ、私の轍を踏むな」

 リュシールは慌てて自らの牙で右手首を切る。傷口をセレスタの口元に当て、血を飲ませようとした。だが、咳き込んでほとんどこぼれてしまう。
 ヴァルドーはセレスタに身体を起こすよう促しながら背中を支える。空いた片手でリュシールの右手を引き寄せる。

「噛みつけ」

 言われた通り牙を立てたが、上手く血を吸うことが出来なかった。

「吸うのが難しいならそのまま牙を立てておけ。ゆっくりだが血が体内に入ってくる」

 リュシールは声をかけ続けながら血を与える。
 しばらくすると、セレスタの牙が手首から離れた。

「安定したようだな。眠らせてやるといい」
「……お父様、ありがとうございます」
「また同じようなことが起こる可能性はある。注意しておけ」
「はい!」

 リュシールはセレスタを抱えて急ぎ足で館へ戻った。



「……三人ともいるな?」

 エレッタ、ジュラルド、ラシェルが姿を現した。全員が王に向かって片膝をついている。

「今回の件はすぐに知れ渡る。"不死の軍団"も彼女の吸血鬼化のこともだ。私の立場上、寛容な処置は望めないだろう。ここから去るというのなら止めはしない」

 エレッタは一呼吸置いた後、顔を上げた。

「今さらここを去るわけには行きません。初めて会った時から私はヴァルドー様の忠実な部下です。……ジュラルドもそうでしょう?」
「……ふん」

 二人が意思を伝え終わると、ラシェルが顔も上げた。ヴァルドーではなくその後方の館を見ていた。

「ボクはあの二人といることにするよ。だから今からボクの主は貴方じゃない。姫様だ」

 エレッタがラシェルを睨む。
 ヴァルドーも館の方を見つめながら

「……そうか」

とだけ応えた。
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