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第1章
24話
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ネクロゲイザーの右腕が異様な形に変形しながら巨大化していく。そのままヴァルドーを押し潰そうとした。範囲は広いが、動きには対応できた。ジュラルドを抱えて逃げる。
「お父様!」
館の方からリュシールの声が聞こえた。横には吸血鬼となったセレスタもいる。
「来るな!」
娘たちに向かって叫ぶ。振り下ろされる巨大な腕を避け続ける。屍の集合体が疲労を感じないのならば、いずれ負けてしまうだろう。
ジュラルドを遠くへ投げようとした一瞬だった。ヴァルドーの胸に穴が開く。心臓に触れていないのが不幸中の幸いだった。
「ぐっ……」
「捕マエタゾ」
胸を貫くネクロゲイザーの左腕を掴む。
「お父様!」
リュシールの声が聞こえた。娘の声が薄れてゆく意識をもう一度目覚めさせる。力を振り絞ってネクロゲイザーの頭を引きちぎり、胸に刺さった腕を引き抜く。
放られた頭で獣のように吼えたネクロゲイザーはヴァルドーに手をかざそうとする。
「させない!」
リュシールは手から赤い鎖を飛ばす。ネクロゲイザーの体を捕えたが、気にしている様子はない。ヴァルドーはその隙を見つけ距離を取る。
「炎の柱!」
ネクロゲイザーを中心として、星形に炎柱が上がる。屍の集合体がもがき苦しむ。
「まだだ!」
リュシールは再度赤い鎖を飛ばしネクロゲイザーをさらにきつく縛る。
「光の大撃咆哮!!」
炎の柱や赤い鎖ごと巨大な光がネクロゲイザーを飲み込む。
セレスタが片膝を着く。"光"を持ってしても膨大な魔力量の放出だった。
「セリィ!」
「……大丈夫。ちょっと疲れただけ。それよりヴァルドーさんは大丈夫?」
「私のことは構わん。それよりも、あれはまだ消えていない」
ヴァルドーが荒っぽく言った。薄くなる魔力の光の中からネクロゲイザーが姿を見せた。胸の中心に絵の具をごちゃ混ぜにしたような色の球体が剥き出しになっている。あの球体からネクロゲイザーが創られたのだ。屍の王の核とも呼べる部分であるのは間違いない。
「二人は休んでて」
リュシールが立ち上がる。一人で止めを刺すつもりだ。
「大丈夫?」
「胸に穴は空いてないし、魔力も使い果たしてないよ」
セレスタとヴァルドーは小さく笑った。
「リュシール、頼んだぞ」
「リュー、お願い」
リュシールは背を向けたまま頷く。そして、ネクロゲイザーを迎えるように歩き出す。
ヴァルドーはセレスタの方に向き直った。
「……セレスタと言ったな。この度の件、巻き込んでしまったことを謝罪する。人間に戻りたいというのなら手を尽くそう。私に出来うる望みは叶えよう」
セレスタは微笑みながら答える。
「娘さんと……、リューと同じ時間を歩ませて下さい」
「……それは私が答えることではないな」
リュシールがネクロゲイザーの核を握り潰した。セレスタは足をふらつかせながら跡形も無く散った屍の王がいた場所へと近づく。リュシールはそんなセレスタを支えるように抱きしめた。
彼女らが泣き笑いしながら抱き合っている時、ヴァルドーは後方に素早く何かを投げた。
「逃げられたか、コウモリめ……」
「お父様!」
館の方からリュシールの声が聞こえた。横には吸血鬼となったセレスタもいる。
「来るな!」
娘たちに向かって叫ぶ。振り下ろされる巨大な腕を避け続ける。屍の集合体が疲労を感じないのならば、いずれ負けてしまうだろう。
ジュラルドを遠くへ投げようとした一瞬だった。ヴァルドーの胸に穴が開く。心臓に触れていないのが不幸中の幸いだった。
「ぐっ……」
「捕マエタゾ」
胸を貫くネクロゲイザーの左腕を掴む。
「お父様!」
リュシールの声が聞こえた。娘の声が薄れてゆく意識をもう一度目覚めさせる。力を振り絞ってネクロゲイザーの頭を引きちぎり、胸に刺さった腕を引き抜く。
放られた頭で獣のように吼えたネクロゲイザーはヴァルドーに手をかざそうとする。
「させない!」
リュシールは手から赤い鎖を飛ばす。ネクロゲイザーの体を捕えたが、気にしている様子はない。ヴァルドーはその隙を見つけ距離を取る。
「炎の柱!」
ネクロゲイザーを中心として、星形に炎柱が上がる。屍の集合体がもがき苦しむ。
「まだだ!」
リュシールは再度赤い鎖を飛ばしネクロゲイザーをさらにきつく縛る。
「光の大撃咆哮!!」
炎の柱や赤い鎖ごと巨大な光がネクロゲイザーを飲み込む。
セレスタが片膝を着く。"光"を持ってしても膨大な魔力量の放出だった。
「セリィ!」
「……大丈夫。ちょっと疲れただけ。それよりヴァルドーさんは大丈夫?」
「私のことは構わん。それよりも、あれはまだ消えていない」
ヴァルドーが荒っぽく言った。薄くなる魔力の光の中からネクロゲイザーが姿を見せた。胸の中心に絵の具をごちゃ混ぜにしたような色の球体が剥き出しになっている。あの球体からネクロゲイザーが創られたのだ。屍の王の核とも呼べる部分であるのは間違いない。
「二人は休んでて」
リュシールが立ち上がる。一人で止めを刺すつもりだ。
「大丈夫?」
「胸に穴は空いてないし、魔力も使い果たしてないよ」
セレスタとヴァルドーは小さく笑った。
「リュシール、頼んだぞ」
「リュー、お願い」
リュシールは背を向けたまま頷く。そして、ネクロゲイザーを迎えるように歩き出す。
ヴァルドーはセレスタの方に向き直った。
「……セレスタと言ったな。この度の件、巻き込んでしまったことを謝罪する。人間に戻りたいというのなら手を尽くそう。私に出来うる望みは叶えよう」
セレスタは微笑みながら答える。
「娘さんと……、リューと同じ時間を歩ませて下さい」
「……それは私が答えることではないな」
リュシールがネクロゲイザーの核を握り潰した。セレスタは足をふらつかせながら跡形も無く散った屍の王がいた場所へと近づく。リュシールはそんなセレスタを支えるように抱きしめた。
彼女らが泣き笑いしながら抱き合っている時、ヴァルドーは後方に素早く何かを投げた。
「逃げられたか、コウモリめ……」
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