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第1章

22話

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 自室のベッドにセレスタを寝かした。すでにセレスタの息はほとんど無かった。心臓の動きも弱々しい。

「こんなことしたら君は怒るかな……」

 先程、父ヴァルドーから受け取った小瓶を開け、中に入った赤い液体を口移しでセレスタに飲ませる。

「"光"の魔術師を闇の住人へと変えてしまうことを許してもらおうとは思わない。けれど、これがわたしの気持ちだよ……」

 赤々とした口づけを終えると、セレスタの体が大きく痙攣した。呻き声を発しながら暴れ続ける。ベッドから落ちてしまわないように彼女に抱きつくように押さえつける。

『吸血鬼化の始まり。数分ほど全身への激痛及び痙攣が起こる』

 抉れたはずの腹部が信じられない速さで治っていく。身体が書き換えられているのだ。暴れる彼女の力が強くなってきているのがはっきりと分かる。そして、呻きと痙攣が収まった。これを乗り越えれば死には至らない。安堵してベッドから降りた。

『それが終わると犬歯が鋭くなり、眼が赤くなる』

 閉じた眼を指で優しく開いて赤くなっていることを確認した。

「これで大丈夫。君が起きたときには全部終わらせておくから、そのまま眠っててね」

 そう言って部屋を出ようとした瞬間、背後から何かが襲いかかってくるのを感じた。しかし、それを避けようともせず振り返って受け入れた。
 首に牙を立てられ、血が吸われていく。吸血鬼同士の血のやり取りでは渇きを満たすことはできない。しかし、半分人間なら効果はあるのかもしれない。
 リュシールは自分の血を吸う相手の頭に手を置き、震えながら声を出した。

「……おはよう、セリィ」
「……ただいま、リュー」
「どこも痛くない?」
「ええ」
「どこまで覚えてる?」
「リューがキスしてくれたとこまで」
「……いや、あれはそういうのじゃなくて、ええと…………」
「大丈夫、嬉しかったわ。行きましょう」
「……うん」

 一刻も早くディミロフを倒さなければならない。そして、ネクロゲイザーと呼ばれていたゾンビからは底が見えない不気味な雰囲気を感じた。吸血鬼の王ヴァンパイア・ロードである父と貴族ロイヤルである二人が負けるとは思わないが、数の利が相手にある以上すぐにでも戦いに戻るべきだと思った。
 この部屋に来るときは気にも止めなかったが、この館にも大量のゾンビが出現したはずだ。しかし、廊下を見渡すと死体の一つも見当たらない。ディミロフが呼び戻したのだろうか。それを口には出さずセレスタとともに部屋を出る。
 館の外へと向かう途中、ヴァルドーの過去と自らの出生に関することを説明した。

「……だから、お父様を責めないでほしい」
「よく似た親娘だね。まっすぐで危なっかしくて、とても優しい」
「……ありがとう」

 外に続く扉の前で立ち止まる。セレスタは急かすが、これを言うまでは一歩も動く気はなかった。

「約束してほしい。危ないと思ったらすぐに逃げて。二度目はないから……」

 セレスタは無言でうな頷いて扉を押した。分厚く大きな扉は軽々と開いた。
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