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第1章
19話
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フェルツとラシェルは一階にあるディミロフの部屋に向かった。扉を一蹴りで壊すとその物音だけが室内に響き渡る。中にはだれもいなかった。
「誰もいないぞ!」
「見れば分かるよ。君はそっちの本棚を」
扉から見て、正面に机、両側の壁に沿うように本棚。室内にはこれだけしか無かった。ラシェルはフェルツに左側の本棚を調べるように指示する。
「罠があるかもしれないから気をつけてね」
「ああ、分かってるよ」
ガコンと大きな音がした。二人が周囲を見渡すと、机の奥の床に人一人分くらいの穴が現れた。
「見るからに怪しいな」
「罠の可能性もあるしボクが先に入るよ。少し様子を見たら声かける。君は部屋をもうちょっと探ってて」
「おう、頼んだ」
ラシェルは備え付けられた階段を使って穴を降りた。結構な深さがあり、真っ暗だ。一本道を進んでいると、奥から獣が唸るような声が聞こえてきた。一旦引き返してフェルツを連れていくことにした。
「早いな、もう戻ったか」
「多分ここが正解」
「じゃあ行くか」
「常に魔術は使えるようにしといて」
「今更言うなよ」
二人が穴に入ると床が閉じられた。簡単に壊せそうな代物だったので、あまり気にしなかった。
先程の獣が唸るような声がまた聞こえる。フェルツは手から放った魔術の光を奥へ伸ばす。
「あれがゾンビか?」
「多分ね、ここでも腐った臭いがするよ」
「炎の壁!」
二人の前方に炎が燃え盛る。それに触れたゾンビは無慈悲に焼かれていく。しかし、後ろのゾンビはものともせずに進行してくる。
「それで防げる?」
「ハナから足止めのつもりだ」
「何か策でもあるの?」
「いや、普通の人間以下だ。真っ直ぐ突っ切る!」
「……分かったよ」
フェルツは魔術で炎の剣を創りだす。狭い通路でも十分振り回せるようにナイフサイズに調整している。
森の葉をかき分けるかようにゾンビを斬り倒しながら、一本道を進んでいく。
「見ろよ、ゾンビが立ち止まって壁みたいになってる」
「罠かもしれないよ」
「もう引っ掛かったようなもんだろ!」
と言いながらゾンビに斬りかかった。
その壁の先には怪しい部屋が待ち構えていた。人間や獣の体がバラバラに散乱し、隅には人間のような何かが入ったガラスケース、そして漂う腐敗臭が脳を揺さぶるようだ。
その中心に木製の簡素な椅子があり、男が一人足を組んで座っていた。
「よく来たな、ラシェル。それと魔術師。俺の研究を奪いに来たんだろう?」
「やあ、ディミロフ。そんなつもりは無かったけど、お言葉に甘えて貰っていこうかな」
その一言と同時にラシェルが消える。瞬きのような速さでディミロフの背後に移動し手刀で首を狙う。
「そんなもんで命も研究もやれるか」
床に散乱したバラバラの死体が集まり、盾となるようにディミロフの背後に現れる。手刀は死体の塊を貫くが僅かに首までは届かなかった。
ラシェルはフェルツの横に戻る。
「お前らはここにたどり着いたのではない、俺が入れてやったんだ」
「フェルツ、君はここから出て……」
「もう遅い!!」
背後の通路に倒れていたゾンビが立ち上がる。
振り返ることもせず、ラシェルはフェルツの肩を抱き寄せる。空いている右手で自らの腹を貫く。すると、二人の姿はその場から消えた。
「今、何をしたんだ?」
「ボクの固有能力を使ったんだよ」
「……?」
理解が追いついていないフェルツを抱えて強く地面を蹴る。天井をすり抜けて一階に出た。
「出血している間『存在を消せる』能力さ。出血量に比例するように存在の濃度を薄められる」
「存在を……薄める?」
「文字通りだよ。強めていけば見えないし、聴こえない、匂いも気配も無くなる。ボクに触れているものにも効果を及ぼせる。生物には初めてだったけど上手くいって良かった」
「なんだそりゃ、最強じゃねえか」
「出血量と攻撃の際は存在を出さなきゃいけないのがリスクでね。あんまり使いたくないんだ」
ラシェルはフェルツの腕を捲って筋肉質な腕に噛みつく。生き生きとした肌から血が滴る。
「おい、直接は……」
それ以上声が出ない。酔ったように顔が紅潮し、意識が朦朧としてくる。
「ごめんね。今君の血を貰わないとボクらはここで死ぬ」
「……ちゃんと逃げてくれよ」
「分かってるよ。君の血は極上だからね。死体にはさせない」
眠ったフェルツに優しくささやいた。
獣のようなうなり声と腐敗臭が漂ってくる。ゾンビが一階にも上がってきたのだろう。
存在を消していくつもの壁をすり抜ける。館から森に出た。腹部の血が止まっていき、存在が戻っていく。
「さて、どうしようか……」
目の前にはディミロフとゾンビが待ち構えていた。
「誰もいないぞ!」
「見れば分かるよ。君はそっちの本棚を」
扉から見て、正面に机、両側の壁に沿うように本棚。室内にはこれだけしか無かった。ラシェルはフェルツに左側の本棚を調べるように指示する。
「罠があるかもしれないから気をつけてね」
「ああ、分かってるよ」
ガコンと大きな音がした。二人が周囲を見渡すと、机の奥の床に人一人分くらいの穴が現れた。
「見るからに怪しいな」
「罠の可能性もあるしボクが先に入るよ。少し様子を見たら声かける。君は部屋をもうちょっと探ってて」
「おう、頼んだ」
ラシェルは備え付けられた階段を使って穴を降りた。結構な深さがあり、真っ暗だ。一本道を進んでいると、奥から獣が唸るような声が聞こえてきた。一旦引き返してフェルツを連れていくことにした。
「早いな、もう戻ったか」
「多分ここが正解」
「じゃあ行くか」
「常に魔術は使えるようにしといて」
「今更言うなよ」
二人が穴に入ると床が閉じられた。簡単に壊せそうな代物だったので、あまり気にしなかった。
先程の獣が唸るような声がまた聞こえる。フェルツは手から放った魔術の光を奥へ伸ばす。
「あれがゾンビか?」
「多分ね、ここでも腐った臭いがするよ」
「炎の壁!」
二人の前方に炎が燃え盛る。それに触れたゾンビは無慈悲に焼かれていく。しかし、後ろのゾンビはものともせずに進行してくる。
「それで防げる?」
「ハナから足止めのつもりだ」
「何か策でもあるの?」
「いや、普通の人間以下だ。真っ直ぐ突っ切る!」
「……分かったよ」
フェルツは魔術で炎の剣を創りだす。狭い通路でも十分振り回せるようにナイフサイズに調整している。
森の葉をかき分けるかようにゾンビを斬り倒しながら、一本道を進んでいく。
「見ろよ、ゾンビが立ち止まって壁みたいになってる」
「罠かもしれないよ」
「もう引っ掛かったようなもんだろ!」
と言いながらゾンビに斬りかかった。
その壁の先には怪しい部屋が待ち構えていた。人間や獣の体がバラバラに散乱し、隅には人間のような何かが入ったガラスケース、そして漂う腐敗臭が脳を揺さぶるようだ。
その中心に木製の簡素な椅子があり、男が一人足を組んで座っていた。
「よく来たな、ラシェル。それと魔術師。俺の研究を奪いに来たんだろう?」
「やあ、ディミロフ。そんなつもりは無かったけど、お言葉に甘えて貰っていこうかな」
その一言と同時にラシェルが消える。瞬きのような速さでディミロフの背後に移動し手刀で首を狙う。
「そんなもんで命も研究もやれるか」
床に散乱したバラバラの死体が集まり、盾となるようにディミロフの背後に現れる。手刀は死体の塊を貫くが僅かに首までは届かなかった。
ラシェルはフェルツの横に戻る。
「お前らはここにたどり着いたのではない、俺が入れてやったんだ」
「フェルツ、君はここから出て……」
「もう遅い!!」
背後の通路に倒れていたゾンビが立ち上がる。
振り返ることもせず、ラシェルはフェルツの肩を抱き寄せる。空いている右手で自らの腹を貫く。すると、二人の姿はその場から消えた。
「今、何をしたんだ?」
「ボクの固有能力を使ったんだよ」
「……?」
理解が追いついていないフェルツを抱えて強く地面を蹴る。天井をすり抜けて一階に出た。
「出血している間『存在を消せる』能力さ。出血量に比例するように存在の濃度を薄められる」
「存在を……薄める?」
「文字通りだよ。強めていけば見えないし、聴こえない、匂いも気配も無くなる。ボクに触れているものにも効果を及ぼせる。生物には初めてだったけど上手くいって良かった」
「なんだそりゃ、最強じゃねえか」
「出血量と攻撃の際は存在を出さなきゃいけないのがリスクでね。あんまり使いたくないんだ」
ラシェルはフェルツの腕を捲って筋肉質な腕に噛みつく。生き生きとした肌から血が滴る。
「おい、直接は……」
それ以上声が出ない。酔ったように顔が紅潮し、意識が朦朧としてくる。
「ごめんね。今君の血を貰わないとボクらはここで死ぬ」
「……ちゃんと逃げてくれよ」
「分かってるよ。君の血は極上だからね。死体にはさせない」
眠ったフェルツに優しくささやいた。
獣のようなうなり声と腐敗臭が漂ってくる。ゾンビが一階にも上がってきたのだろう。
存在を消していくつもの壁をすり抜ける。館から森に出た。腹部の血が止まっていき、存在が戻っていく。
「さて、どうしようか……」
目の前にはディミロフとゾンビが待ち構えていた。
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