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第1章
14話
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オフィリアの気配が消えたところで、フェルツが沈黙を破る。
「あいつが戦わないやつか?」
「そうだよ、あれは『観測者』。特定の王に遣えず、吸血鬼たちの間を渡り歩いて様々な出来事を記録してるんだ」
「そんなやつを信用出来るか?」
「『観測者』は基本的に中立だけど、物事を大きくしたがる傾向にある。『不死の軍隊』を創ろうとする吸血鬼に、それを止めようとする吸血鬼がいた方が事は重大でしょ?」
リュシールは丁寧に説明するが、信用出来るか否かは判断しづらい解答だった。
それから少し歩くと吸血鬼たちの住む館が現れた。
「着いたよ。決戦の地だ」
ラシェルが門を開ける。玄関ホールにはジュラルドが血の剣を従えて待っていた。
「魔術師を足止めしろと言われたが、もっといいヤツがいるじゃあないか……」
ヘリオットに剣を向ける。
「思ったより早く決着が付けられそうだな……」
「ついてこい。誰にも邪魔されない場所でやろうぜ」
ヘリオットはセレスタ達に一瞥もせずジュラルドの後をついていく。彼らは右手の扉に入った。
彼らの姿が見えなくなってからラシェルが口を開く。
「じゃあ予定通りに。フェルツ、行くよ」
「ああ。セレスタ、死ぬなよ」
それだけ言うと、二人は左手の扉に入ってしまう。リュシールは無言で玄関の階段をゆっくりと昇り、扉の前で立ち止まる。
「これが終わったらまた君の血が欲しいな」
「生きて帰れたらね」
扉を開けると部屋の奥にヴァルドーとエレッタが待ち構えていた。
「私に立ち向かうか、リュシール」
「死者を弄び、安寧を壊すような研究を許せるはずありません!」
「……私の部屋に来い。お前に話さなければならない事がある」
「今更何を!」
「来いと言っている」
吸血鬼の王は声を荒げることは無かったが、一言一言に周囲のものを畏怖させるような重みがあった。
「彼女も同行しても……?」
「駄目だ。エレッタ、後は頼んだぞ」
「はい」
リュシールはセレスタの方へ振り向く。不安混じりの表情だった。
「リュー、私は大丈夫。お父さんに自分の気持ちをぶつけてきて」
セレスタは笑顔で言った。リュシールは表情を明るく変え、懐から小指ほどの瓶を取り出した。中には赤い液体が入っていた。
「万が一のときはこれを飲んで」
セレスタは頷きながら小瓶を受けとる。
「じゃあ、言ってくるよ」
「頑張って」
リュシールはヴァルドーに向き直る。
「お待たせしました、お父様」
ヴァルドーはセレスタ達が入った扉から見て左奥の扉の方へと歩く。
リュシールとすれ違うようにエレッタがセレスタに近づいてくる。
「貴女を殺すように命じられておりません。『この先を行こうとするものを止めろ』というのが我が主の命です。貴女が無理矢理にでも通る気がなければ、私には戦う意志はありません」
「……私も戦う意志は無い」
エレッタの表情が気のせいか緩んだように感じられた。
「では、ここで二人を待ちましょう。お茶でもお出ししましょうか」
テーブルに置かれていたティーセットで紅茶らしきものを注いだ。
二人は向かい合うように座った。セレスタはカップに手をつけない。
「お嬢様のお気に入りに毒など盛りませんよ」
そう言うと、エレッタは手前のカップを口元に運ぶ。
「それにしても、目の前にすると凄まじい魔力ですね。ジェロームを退けたのも頷けます」
「……あれは偶然よ」
「敵の慢心も騙し討ちも実力のうちですよ」
彼女は味方がやられたことに何も感じていないようだ。
セレスタは恐る恐る聞いてみる。
「吸血鬼は人間をどう思っているの?」
数秒ほど思考する素振りを見せて答えた。
「食糧ですね。他の動物の血や血以外の食べ物も食べられないことはないのですが、それらでは命を繋ぐのには足りないのです」
エレッタは淡々と、しかし丁寧に答えた。
カップを置いてさらに質問をする。話していないと気持ちが落ち着かなかったからだ。
「他の吸血鬼も貴女達とあの村のような関係なの?」
「場所によりますね。吸血鬼にも人間と同じようにその土地を支配する"王"がいますから」
その地を治める王次第ということらしい。人間でいう税と同じことだろう。などと考えているとエレッタの方から口を開いた。
「次は私から質問しても?」
「どうぞ」
「お嬢様はどこまでご存知ですか?」
セレスタにはその質問の意図が理解できなかった。
「……失礼、聞き方が悪かったですね。貴女方はこの計画についてどこまで聞いていますか?」
セレスタは死体を使って軍隊を創ろうとしていることと、それで戦おうとしているということだけを答えた。
「……やはり概ね同じですね」
彼女が放った言葉がセレスタに引っ掛かった。
「あいつが戦わないやつか?」
「そうだよ、あれは『観測者』。特定の王に遣えず、吸血鬼たちの間を渡り歩いて様々な出来事を記録してるんだ」
「そんなやつを信用出来るか?」
「『観測者』は基本的に中立だけど、物事を大きくしたがる傾向にある。『不死の軍隊』を創ろうとする吸血鬼に、それを止めようとする吸血鬼がいた方が事は重大でしょ?」
リュシールは丁寧に説明するが、信用出来るか否かは判断しづらい解答だった。
それから少し歩くと吸血鬼たちの住む館が現れた。
「着いたよ。決戦の地だ」
ラシェルが門を開ける。玄関ホールにはジュラルドが血の剣を従えて待っていた。
「魔術師を足止めしろと言われたが、もっといいヤツがいるじゃあないか……」
ヘリオットに剣を向ける。
「思ったより早く決着が付けられそうだな……」
「ついてこい。誰にも邪魔されない場所でやろうぜ」
ヘリオットはセレスタ達に一瞥もせずジュラルドの後をついていく。彼らは右手の扉に入った。
彼らの姿が見えなくなってからラシェルが口を開く。
「じゃあ予定通りに。フェルツ、行くよ」
「ああ。セレスタ、死ぬなよ」
それだけ言うと、二人は左手の扉に入ってしまう。リュシールは無言で玄関の階段をゆっくりと昇り、扉の前で立ち止まる。
「これが終わったらまた君の血が欲しいな」
「生きて帰れたらね」
扉を開けると部屋の奥にヴァルドーとエレッタが待ち構えていた。
「私に立ち向かうか、リュシール」
「死者を弄び、安寧を壊すような研究を許せるはずありません!」
「……私の部屋に来い。お前に話さなければならない事がある」
「今更何を!」
「来いと言っている」
吸血鬼の王は声を荒げることは無かったが、一言一言に周囲のものを畏怖させるような重みがあった。
「彼女も同行しても……?」
「駄目だ。エレッタ、後は頼んだぞ」
「はい」
リュシールはセレスタの方へ振り向く。不安混じりの表情だった。
「リュー、私は大丈夫。お父さんに自分の気持ちをぶつけてきて」
セレスタは笑顔で言った。リュシールは表情を明るく変え、懐から小指ほどの瓶を取り出した。中には赤い液体が入っていた。
「万が一のときはこれを飲んで」
セレスタは頷きながら小瓶を受けとる。
「じゃあ、言ってくるよ」
「頑張って」
リュシールはヴァルドーに向き直る。
「お待たせしました、お父様」
ヴァルドーはセレスタ達が入った扉から見て左奥の扉の方へと歩く。
リュシールとすれ違うようにエレッタがセレスタに近づいてくる。
「貴女を殺すように命じられておりません。『この先を行こうとするものを止めろ』というのが我が主の命です。貴女が無理矢理にでも通る気がなければ、私には戦う意志はありません」
「……私も戦う意志は無い」
エレッタの表情が気のせいか緩んだように感じられた。
「では、ここで二人を待ちましょう。お茶でもお出ししましょうか」
テーブルに置かれていたティーセットで紅茶らしきものを注いだ。
二人は向かい合うように座った。セレスタはカップに手をつけない。
「お嬢様のお気に入りに毒など盛りませんよ」
そう言うと、エレッタは手前のカップを口元に運ぶ。
「それにしても、目の前にすると凄まじい魔力ですね。ジェロームを退けたのも頷けます」
「……あれは偶然よ」
「敵の慢心も騙し討ちも実力のうちですよ」
彼女は味方がやられたことに何も感じていないようだ。
セレスタは恐る恐る聞いてみる。
「吸血鬼は人間をどう思っているの?」
数秒ほど思考する素振りを見せて答えた。
「食糧ですね。他の動物の血や血以外の食べ物も食べられないことはないのですが、それらでは命を繋ぐのには足りないのです」
エレッタは淡々と、しかし丁寧に答えた。
カップを置いてさらに質問をする。話していないと気持ちが落ち着かなかったからだ。
「他の吸血鬼も貴女達とあの村のような関係なの?」
「場所によりますね。吸血鬼にも人間と同じようにその土地を支配する"王"がいますから」
その地を治める王次第ということらしい。人間でいう税と同じことだろう。などと考えているとエレッタの方から口を開いた。
「次は私から質問しても?」
「どうぞ」
「お嬢様はどこまでご存知ですか?」
セレスタにはその質問の意図が理解できなかった。
「……失礼、聞き方が悪かったですね。貴女方はこの計画についてどこまで聞いていますか?」
セレスタは死体を使って軍隊を創ろうとしていることと、それで戦おうとしているということだけを答えた。
「……やはり概ね同じですね」
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